第111話 終結
守の討伐によって、この戦いに終止符が打たれたかに思われた。が、突然アリーチェに通信が入る。
『解析部隊より連絡!!!イギリスを中心にクラス5が多数出現!!!繰り返します!!!イギリスを中心にクラス5多数出現!!!現在確認しているだけでその数・・・約100体!!!』
『あら』
『イギリスより緊急の援軍要請が来ております!!! 大久保 元帥指示を!!!』
『検討します。少々お待ちを』
「だそうですが、神代元元帥」
「・・・この規模の攻撃でさえ足止めだった・・・という訳じゃのう。よし、
「良いのですか? もう引退なされたのですから、行かなくてもよろしいかと」
「まだワシにしか出来ん事がある。それにワシはこうして前線でただの一戦士として戦えるのが嬉しくてたまらんのじゃよ。今まで何十年我慢しておったんじゃ。最後の我侭を許してくれ」
「畏まりました」
誠は通信を繋ぐ。
『聞いたかの?アレックスJr.』
『ああ。俺らは部隊を編成しイギリスへと向かう。李。お前はどうするんだ?』
『もちろん向かうに決まってるだろ!!!クラス5の50体や100体我が軍だけで十分だ』
『なら任せ・・・』
『ふざけんな!!! おい誠! 移動手段に預かったドラゴンは使っていいんだろうな!?』
『勿論じゃ。その為に主要国へと配ったのじゃからな。アリャン、お主は行けそうか?』
『無論だ。すでに編成を開始してある』
『皆流石じゃ。・・・これで安心して引退できるというものじゃ』
『そうか・・・。ついに引退すんのか? ならこっちはやりやすくなるな。日本の政治家は利己的な奴ばっかりだから扱いやすいしな』
『李。お前な・・・』
『ほっほっほ。よいよい。お主達は赤子の頃から知っておる。それがこうも立派になってワシは嬉しい。』
『つまり誠、今回でついに最後なんだな』
『うむ。この戦いが終わった後、もうワシはこの世におらぬ。皆、後は頼んだぞ』
イギリスで出現したドラゴンの群れはすでにイタリアにまで攻め入っており、援軍に向かった部隊はこれ以上の進行を防ぐため、イタリアを目指す。
敵100体の内、すでに約30は周辺国の奮戦により討伐されていたが、依然として予断を許さない状況である。
現在最前線のイタリアの部隊は死力を尽くしたが、ほぼ壊滅し、騎士団長であるジェラルドが自ら前線に立ち防衛を行っていた。
残り少ない部隊を編成し、防衛に挑んでいたジェラルドだったが、ドラゴンからの攻撃を受け、二転三転し瓦礫に突っ込む。
立ち上がろうとするも、満身創痍の体に力が入らない。
「クッ・・・ここまでか・・・・皆・・・すまん」
(ソフィア・・・君が命がけで守ったこの国を、私は守事が出来なかった・・・)
涙を流すジェラルドが瓦礫から引き上げられる。その姿にジェラルドは見覚えがあった。
「お前・・・誠か・・・?」
「うむ。よく諦めず頑張ったの。お主でなければここまで食い止められはしなかったであろう」
ジェラルドが上空を見上げると複数のドラゴンが頭上を通り過ぎ、そこから次々と人が飛び降り攻撃を加え始めた。
「援軍か!?・・・助かった・・・。しかし誠・・・君のその姿・・・」
「そういう事じゃよ。後は任せよ」
誠は拳を打ち鳴らし。ゆっくりと歩き出す。
「神代 誠、参る!!!」
神の書に記された【終焉の日】全人類の生き残りを掛けたその長い戦いは、人類の10分の1の犠牲をもって、人類側が勝利を収めた。
守が目を覚ますと病室のような部屋、真っ白なベッドに寝かされていた。
はっきりとしない、ボーッとする頭をゆっくりと持ち上げ体を起こし辺りを見回す。
一見普通の病室。しかし、一つ違ったのはその部屋が檻で仕切られている事だった。
仕切られた隣の床は守の部屋とは違い、コンクリートをベタ打ちしただけの床に生活最低限の施設が備え付けられているだけの無骨な部屋。
守はふと違和感を感じ、首元を触る。感触からして恐らく首輪のような物が付けられているようだった。
「・・・何だこれ」
突然入り口のドアが開き咲が入って来る。
「おう起きたか」
そういう咲の顔は酷くやつれており、明らかに正常では無かった。
咲は何かを引きずりながら歩く。それは明らかに【人型】だった。
体はボロボロで意識は無く、咲はその人型を人形のように引きずり、守の隣の無骨な部屋へと投げ込んだ。
その様子を見た守は正気に戻り檻越しに咲に詰め寄る。
「咲さん!? なんて事を・・・!!!」
「あ? うるせぇ殺すぞ。こいつをどうしようと俺の勝手だ。つーかてめぇ自分がやった事何にも覚えてねぇのか? てめぇキャロルの腕食いちぎっただろうが」
モヤのかかったようだった守の記憶が徐々に蘇る。
ドラゴンに戻った自分がした事、全ては思い出せなかったが、その記憶の断片に確かにあった。
キャロルの腕を食い千切り飲み込んだ事、攻撃を受けて牙が砕けた事。
守は自分の口元を触る。治りかけてはいたが触ると痛みが響く。歯も所々欠けており抜け落ちた歯もちらほらあったが、すでに下から新しい歯が生え始めている。
突然守は吐き気に襲われ、設置してあったトイレへと駆け込んだ。物音一つない部屋に守の嘔吐する音だけが響く。その姿を横目に咲は立ち去る。
暫く経ち、胃の中が空っぽになった守はベッドに潜り込む。一方、目を覚ました人型は、どうにか脱出しようと檻を掴んだり物を投げたりして暴れまわっていた。
「おい貴様!!!裏切り者!!!この首輪を外せ!!!」
人型が怒鳴るが、守はぴくりとも反応しない。
「クソッ!」
人型はひとしきり暴れた後地面に座り込んだ。
そこへ咲が再び戻ってくる。
「おい守。面会だ、出ろ」
守は返事もしない。
「俺は別にどうでもいいんだがな。呼んでいるのはキャロルだぞ」
守の目が見開き、咲の元へ駆け寄る。
「キャロルは無事なのか!?・・・良かった・・・」
「で、どうすんだ。てめぇ会いに行くのか? 早く決めろ」
守は目を伏せる。
「俺は・・・」
咲は檻を開け守を引きずり出す。
「いいからさっさと出ろ。てめぇのくせぇ小屋の掃除ができねぇだろうが」
守は咲と並び廊下を歩く。
「おい守。てめぇあの人型から情報を引き出せ。あの野郎いくら拷問をしても何も吐きやがらねぇ」
「拷問してるんですか・・・」
「ああ。・・・何だその目、文句あんのかコラ」
「やめてくださいよ拷問なんて。誠さんの命令ですか?」
咲は突然守の胸倉を掴み、壁へ勢い良く押し付けた。
そのうつろな瞳に憎しみを宿らせ、睨みつける。
「ジジィは死んだよ」
「誠さんが・・・死んだ・・・?」
「てめぇは知らねぇだろうが、あの後イギリスにクラス5が100体以上出現した。その援軍に軍の一員として参戦し、そこで誰とも知らぬ誰かを庇って野たれ死んだ。実にジジィらしい最後だぜ、クソッ!!!」
守を突き放した咲は再び廊下を歩き出す。
「もう一度言う。アイツから情報を引き出せ。同情・仲間の振り・嘘八百。何でも使え。そうすりゃ拷問なんてしねぇよ。あ、いや、やっぱやめねぇわ。アイツは苦しめて苦しめて苦しめて、そして絶対殺さねぇ」
そういう咲の顔はとても人のものとは思えなかった。
(狂ってる・・・いや、狂ってしまったのか・・・)
咲はある病室の前で止まり、そして病室に守を投げ込んだ。
その病室の中にはベッドが一つ。その上にはキャロルが体を起こし座っていた。左肩辺りには包帯が巻いてあり、そこから先の腕は無い。その姿を見た守は立ち上がり視線を床へ落とした。
「・・・俺のせいだ・・・俺はなんて事を・・・」
「守。」
守はまるで魂が抜けたかの様に立ち尽くす。
「守!!!」
キャロルの二度目の呼びかけに守は我に返る。
「こちらへ」
守はキャロルの傍へと歩み寄る。
「キャロル・・・俺はーーー」
「無事で何よりですわ」
その言葉に守は戸惑う。
「俺は・・・俺はお前のその腕を食ったんだぞ!? 腕だけじゃ無い!!! 下手したらお前ごと食い殺す所だったんだ・・・あんな目にあったんだ・・・俺が怖いだろ!? 憎いんじゃないのか!?」
キャロルは一つため息をつき、守に人差し指で顔を近づけるに指示した。その近づいて来た守の胸倉を突然掴み引き寄せ、そして
キャロルは自分の唇を守の唇に重ねた。
守は反射的に離れようとするが、キャロルの片腕がそれを許さない。
どちらともなくゆっくりと離れ、守は後ろの椅子にフラリと座った。
「もう一度言います。貴方が無事で何よりですわ」
キャロルは何事も無かったかのように、座り呆けている守に言った。
「・・・お前・・・腕が無くなったんだぞ・・・俺が・・・俺が食った!!! なのに何で・・・!!!」
頭を抱える守にキャロルは一つため息をつく。
「わたくしの体の使い方はわたくしが決めますわ。貴方がどうこう言う権利はありませんのよ。そうですわね・・・あなたがこれ以上自責の念を感じないよう契約を致しましょう」
「契約・・・?」
「わたくしの左手は貴方の中。つまり、わたくしの左手、体の一部としていっ・・・一生側にいて下さいまし」
キャロルの顔は窓の方を向いたままだった。
「キャロル・・・」
守は突然立ち上がった。
「お・・・俺はこれからお前の左腕として、一生戦い続ける!!! 約束する!!!」
「戦い!? えっ!?」
キャロルは慌てたように守の方を向いた。
「そういう意味では・・・」
「? 違うのか・・・?」
「馬鹿っ!!!」
キャロルは枕を守の顔面に向かって投げつける。
「何すんだよ!!!」
「アンタが馬鹿だからですわよ!!!」
2人は一瞬止まり、そしてどちらからともなく笑い始めた。
「2人共元気になったようだね」
どこからともなく現れた栄斗に。何か悪い事をしているかのように焦る2人。
「キャロルはものすごく落ち込んでいたんだよ。守に重荷を背負わせてしまったと」
「御父様!? 余計な事は言わないで下さいまし!」
栄斗は微笑みながら、手に持ってきた大きな荷物を床に降ろしそれを開け始めた。
箱の中から取り出した肌色の物体、それは腕だった。
「もう完成しましたの?」
「戦闘で四肢を失う者も多いからね。その人達が困らないように、すぐさま義手を用意出来る体制は整えてあるさ。さ、とりあえず合わせてみようか。あ。済まないが守君は席を外してもらえるかな?」
「席を?」
「それとも君はキャロルともうそういう関係なのかい?」
「ちっ・・・違いますわよ!!! 付け合わせしますので服を脱ぎますの!!! さっさと出てって下さいまし!!!」
赤面したキャロルに部屋を追い出された守。
「そろそろ小屋に戻るぞ守」
入り口で待っていた咲が歩き出す。その足取りには心なしか苛立ちを感じる。
「咲さん・・・何か怒ってます?」
「うるせぇ殺すぞ。それよりテメェはテメェの仕事しろ」
「努力します。ですからその間、彼女を拷問をするのやめてくれませんか?」
「できねぇ相談だ」
そうこう話をしている内に牢獄へとたどり着く。
「というか俺、やっぱり牢屋に入らなくちゃ駄目なんですか?」
「あたりめぇだろボケ。首輪で龍の力は封じられてるとはいえ、あれだけの事をやったんだ。今は大人しくしてろ」
守は再び投獄された。ベッドの上に倒れ込んだ守はキャロルの唇の柔らかさを思い出し、口元に手を当てる。と同時に忘れかけていた折れた歯に鈍痛が響く。
(皆と同じただの人に生まれたかったな・・・)
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