第110話 決戦12

守への攻撃が開始されたそのその時、討伐を完了したキャロル率いる部隊が到着した。

その攻撃を受けるドラゴンにキャロルは見覚えがあった。


「あれは・・・守!?」


キャロルはアリーチェへと通信を繋いだ。


「あら。キャロル。今忙しいのだけれど。姉妹だからって軍規は守ってくださいね」


「申し訳ありません。ですが御姉様、あれは・・・守ではありませんか?」


「ええ。そうですよ。それが何か?」


「・・・。御姉様。わたくし達の部隊も攻撃に加えさせて下さいまし」


「ええ。許可します。では又後で」


通信が切れた後、キャロルは皆の方を向く。


「皆様。今目前に居るドラゴンは・・・守ですの」


一同に動揺が走る。


「元帥へと就任したアリーチェ御姉様に直接聞きましたので間違いありませんわ」


「キャロルちゃん!!!御姉さんに頼んで攻撃を止めさせて!!!あれは・・・守君なんだよ!?」


大地が千里の肩を叩く。


「わたくし達の我侭で仲間や国民を犠牲にする事は出来ませんわ。何より人を殺してしまった時、人間に戻った守が罪に問われます」


「何か策はあんのかキャロル」


「御姉様より攻撃の許可は頂ました。わたくし達は本来サポートに回らなければならない所を、直接何かしら行動出来るよう計らってくれた。今、御姉様の出来る最大の譲歩ですわ」


「攻撃すんのか守に。俺は・・・気がすすまねぇな」


「まずは動きを止めますわ。そしてこれを守に見せます」


キャロルは胸元からネックレスを取り出す。そこには守に貰った天龍玉がひかり輝く。


「これは守の親の形見と聞きていますわ。これを見れば守も何か行動を起こすはずですわ。わたくしは隙を見て守に近づきますわ。皆様は守の行動を止めてくださいまし。大地はツタでの束縛。他は脚を重点に攻撃を行ってくださいまし。あと千里は今回の攻撃に加わらなくて結構ですわ」


「えっ・・・」


「出来ますの?守に」


「・・・」


「では皆さん・・・戦闘開始ですわ!!!」


大地は守に向かってツタを巻き付け動きを封じた。

しかし、守の力は凄まじくツタがブチブツと少しずず裂けていく。


「くっそ!!!これがクラス5か!!!全然動きが止められねぇ!!!」


それをアシストするようにエルダと剣が左足首を切り付ける。

そして右足首には美神と太が立つ。


「おい太!!!アレやるぞ!!!」


「ドスコイ!」


太と美神は脚を挟んで向き合い。そして同時にぶちかました。

その衝撃で守は少しふらつく。


他の将校達も攻撃を加えるが、クラス5、その中でも上半身を覆う漆黒の鱗は更に硬く、将校の攻撃でさえも所々砕けはするものの致命傷には程遠い。


朝も千里の隣でから守に向かって矢を放つが、全くダメージを与えられない。


「くそっ!!!攻撃は通らねぇ・・・この人数じゃ閃光アシストも邪魔になる・・・私は何の役にも立たねぇ・・・ここにただ立ってるだけじゃねぇか!!!」


悔しさから朝は弓を掴み地面へ叩き付けようとした。


「朝ダメ!」


「ダメ!」


それをケンとコンが止める。


「皆命がけで戦ってる!!!私は力になれないのが悔しいんだよ!!!」


「朝はまだケンとコンの力が使えないだけ!」


「だけ!」


「何時になったらお前らの力が使えるようになるんだよ!!!」


我に返った朝はケンとコンが悲しそうな顔をしている事に気がつく。

朝は膝をつき、ケンとコンを抱きしめた。


「すまねぇ・・・。お前らに当たっちまって。ごめんな。これは私自身の問題だってのによ・・・お前らに頼っちゃいけないんだよな」


「その通りです。努力無しの神頼みを聞くほど神という存在はお人よしではありませんよ」


朝が後ろを向くといつの間にかそこには豊姫が現れていた。


「豊姫様!」


「様!」


ケンとコンが豊姫の元へ駆け寄る。


「朝。気持ちは分かりますが、今は焦らず出来る事からやりなさい」


「・・・はい」


「とは言ったものの、ここは私の地元・・・暴れられて社でも壊されたら困ります。少し体を借りますね。意識は残しておきます。その感覚を忘れずに。ケン、コン。弓へ」


「えっ」


ケンとコンはそれぞれ朝の弓と矢の中へと入って行く。


「お前らそんな事出来たのか!?」


「その子達は数少ない、物にも憑依出来る類の神なのですよ。では借りますね」


豊姫は朝の体に憑依する。


「ふむ。やはり至って平凡な体。ですが、まだまだいくらでも伸びしろがありますね。才能というものはコツを掴むのが上手いかどうか。このコツ朝は掴めますかね」


豊姫は守に向かって弓を構え、弓を限界までしならせその手を離す。


矢は目にも留まらぬ速さで黒い鱗を軽々貫き、遥か彼方へと消えて行った。


「さて、神が出来るのは手助けのみ。後は人の力で・・・」


豊姫は朝との憑依を解きそのまま消えて行った。


大地は遥か彼方へ消え去った輝く一線に目を丸くする。


「今のは何だ!?」


『豊姫君の気配からして、恐らく朝の弓矢にございます。ここは彼女の地元ということもあり朝に手助けしたのでございます』


「ははっ。あれはヤベー・・・すげーじゃねぇか朝」


『豊姫は余と同格にございます。それに加え狛狐の2匹の力も加えればその力は余を超えるかと。しかし朝の体はそれに耐えうるものではございません。その辺りは豊姫が上手くやっていると思われます』


「大地!!!今ですわ!!!わたくしを守の前へ!!!」


後ろから現れたキャロルが叫ぶ。

大地はツタを出し、キャロルを投げ飛ばした。


「頼んだぞキャロル!!!」


キャロルは守の前で浮遊術を使い静止した。


「守!!! わたくしが分かりますか!? これが・・・これが何か分かりますか!?」


キャロルは胸元から天龍玉を取り出す。


大地のツタで動けない守は咆哮で目の前のキャロルを威嚇する。


(もとよりこの程度で正気に戻るとは思っていませんわ。次はショック療法ですわ!!!)


キャロルは腰の銃を抜き、守へと何度も放つ。着弾したQBは着弾後その場に張り付く。

数秒後、大爆発が起こり、キャロルはその爆風で張ったシールドごと後方へと吹き飛んだ。

慣れない浮遊術で何とか空中で体制を立て直す。


(さて、これで戻ってくれれば御の字・・・)


『キャロル!!!危ない!!!』


「沙耶・・・?」


次の瞬間煙の中から守の頭部が現れ、その牙がキャロルに襲い掛かった。

沙耶の銃弾が守に直撃するもその黒い鱗に阻まれまれる。

キャロルは慌てて逃げようとするが、拙い浮遊術では間に合わない。


ガチン。


その牙の合わさる音と共に、辺りに鮮血が飛び散る。


「ッーーーーーーーーー!!!」


キャロルの左肩から奥は守の牙の奥へと消えていた。その腕を咥えたまま守はキャロルを振り回す。


「ッツ!!!・・・こんの・・・守の・・・守のバカーーー!!!」


キャロルは渾身の頭突きを守の牙に向かって繰り出した。


その攻撃に効果があったのか定かではないが一瞬、ほんの一瞬だったが守の動きが止まる。と、同時に守の口元が大爆発を起こし、キャロルは砕かれた牙ごと宙へと投げ出された。その肩から先は千切れ、守の口の中へと消えていた。


宙を舞うキャロルの目に映ったのは、こちらに涙を流しながら両手をかざしてる千里の姿だった。


(あの千里が、嫌いな攻撃を大好きな守へと放った。・・・私も覚悟を決めなければなりませんわね。千里に負けてられませんわ!!!)


キャロルは残った右腕で銃を抜き、隙間の出来た守の口の中にQBを何度も撃ち込んだ。


その時、落下するキャロルを守の手がそっと受け止めた。


(守・・・?)


同時に放ったQBが大爆破を起こし、守は口から黒煙を吐き出しながら、地面へとゆっくりと倒れこんだ。

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