第109話 決戦11

誠の後ろに現れた【鬼】と呼ばれたそれは、愉快そうに笑いながら誠の肩を叩く。


「はっはっは!!!で、俺を呼び出した対価、どんだけ使う気だ?」


「全部じゃ。全部持って行け」


鬼はねっとりするような笑みを浮かべ


「畏まった!!!」


その光景を地面より見上げる咲は、腹の傷をも気にせず誠の元へ這いずろうとする。


「ジジィ・・・頼むよ・・・やめてくれ!!! 鬼の力の対価はてめぇの寿命・・・もうあとわ僅かだろうが・・・」


「元よりそのつもりじゃ。この戦いワシは生きて帰ろうとは思っておらぬ。すまんな咲」


誠は人型の方を向き直り構えを取った。その肉体へ鬼が吸い込まれるように入り込む。

すると誠の額の角が更に大きくなる。その表情も鬼気迫るものへと変化した。


人型と誠は睨み合いながらじ少しずつ、じりじりと間合いをつめて行く。


先に仕掛けたのは人型の方だった。一瞬で詰め寄り素早く蹴りを放つ。誠はそれをかわすも、二段構えの尻尾が誠を襲った。しかし、その奇襲をものともせず体当てによって受け止め、再び蹴り飛ばす。


激突したビルからは砂煙が立ち込める。そ誠はゆっくりと歩み寄る。


「人型よ、お主は確かに強い。その野性味溢れる動きは実戦にて磨かれたものじゃ。それに加えお主の身体能力があればそれだけで十分な脅威じゃ」


瓦礫の中から人型が立ち上がる。


「じゃがな・・・理由はどうあれ人型となったのがお主の敗因じゃよ。ワシら武術家は遥か昔より人を壊す事をひたすらに追い求め技を編み出しそれを磨いた。・・・あまり人間をなめるなよ、人型」


誠は凄みを利かせ睨みつけた。その目に苛立ったのか人型は火球を放つ。誠はそれに動じる事無く抜虎にて相殺した。が、その背面に隠れていた人型が上段蹴りを放つ。




誠はしゃがみ、人型の軸足を蹴り飛ばす。バランスを失った人型は地面へと倒れ込む。

そこへ目掛けて誠の高く振り上げた脚が人型の頭部を狙う。


倒れ込んだ人型は尻尾を器用に使い、何とかそれを避け少し距離を取ったのも束の間、間髪いれず先ほどの技で隙の出来た誠に殴りかかる。それを片手でいなした誠は腕を取り、体重を乗せて地面へとねじ伏せた。


人型の腕は鈍い音を立て、本来関節が曲がらない方へ折れ曲がる。人型は歯を食いしばり、その激痛に悲鳴を上げることも無く。尻尾で反撃を試みる。


誠はそれをかわし距離を取った。


ぶらりとぶら下がった片腕を抑え、人型は乱れた呼吸で誠を睨みつける。しかしその瞳には、微かだが怯えが感じ取れた。


「黒田流武術【案山子かかし折り】【なた割り】【旋風投げ】。わが師、黒田 播磨先生より授かった技じゃ。しかし・・・腕を折られても声ひとつ上げんとは流石の精神力じゃのう。敵ながら天晴れじゃ。武術を学べばお主はまだまだ強くなるというのに惜しいのう・・・」


誠は人型に向かってゆっくりと構えと取った。



それを横目に戦いを続けるアリーチェとエレナ。


「人型の方は大丈夫そうですね」


「あれが元帥の本気・・・勝てる気がしねぇ・・・うわっ!!!」


油断したエレナの頬を桐藤の槍がかすめる。


「このままじゃ押し切らちれまう・・・。仕方ない・・・賭けるかね」


エレナは地面に斧を刺し、その取っ手を目の前に立て、それ越しにを桐藤を見る。


「見切りの型【弥次郎やじろ】」


(右か・・・左か・・・)


桐藤はエレナに向かって槍を構える。

一気に地面を蹴る桐藤。その槍がエレナに届くその瞬間。エレナは取っ手を倒し切っ先を逸らす。

いなされた桐藤はそのままエレナの横を通り、着地するもバランスを崩し、転がった。

エレナは両足で斧の根元を踏む。すると斧から取っ手の棒部分だけが外れ、桐藤へと跳躍した。


立ち上がった桐藤の鎖骨辺りにエレナの棒が叩き込まれ、膝を付いた桐藤の後ろに素早く回りこみ、折れた方の腕を取ってそのまま地面へとねじ伏せた。

そしてすぐさまポケットから注射機を取り出し、首元へそれを打ち込む。桐藤は暴れるも、次第に落ち着き眠りについた。


「右で良かった・・・左なら死んでたかもな・・・」


桐藤を背負ったエレナの頭上ではアリーチェと花岡元中将の戦闘が繰り広げられていた。

糸を利用し空中を移動しながら、同じくその糸で攻撃を繰り出すアリーチェだったが、花岡の刀はそれを全て切り裂く。


「さてさて・・・どうしたものでしょう」


猛攻撃を仕掛ける花岡。その攻撃にアリーチェの押され始める。糸で足止めしようとするも。その糸はことごとく切り刻まれた。そして花岡はビルを蹴り一気にアリーチェに迫り目にも留まらぬ速さで突きを放つ。


しかしその切っ先はアリーチェの目の前で止まり、届くことは無かった。


「ふぅ・・・まだ試作段階の超強度特殊繊維。目視出来ず人程度なら動けなくなりますからね。そして・・・」


アリーチェはその刀に糸をぐるりと巻き付け、両手で左右に思い切り引っ張っる。すると刀がその部分からパキンという音を立てて折れた。


「糸に仕込んだドラゴンの胃酸で刀がボロボロになっている事に、正気の花岡元中将なら気が付いたでしょうね」


アリーチェは動けなくなった花岡に注射を打ち込む。そこへ、何かが飛来し慌ててアリーチェはその場を離れた。


「あら、これは卓雄君のドール?」


「うわあぁああああ!!!」


卓雄が悲痛な叫びをあげながらドールに駆け寄ってきた。


「歩さん!!!絶対許さないぞ!!!」


その隣へ歩が降り立ち、風船ガムをパチンと鳴らした。


「悪いね。今度作って返すから。今回は間に合わなかったんだ。でもお陰でデータが手に入った。送るぜ、師匠」


歩の目が開き。田中へデータを転送した。

2人を同時に相手にし、防戦一方だった田中の動きが変わる。同時攻撃を仕掛けて来た相手の武器を同時に掴んだ。その片方の手は人体の関節可動域では不可能な曲がり方をしていた。

そしてそのままその腕が伸び、回転しながら地面へ打ち付けた。


「歩さん・・・田中先生は今、何処まで機械に・・・いや、むしろどこが残ってるんだ?」


卓雄の呟きに、歩は頭を指差す。


「ええっ!? 先生の研究はそこまで・・・でもそれじゃ脳の負担がすごいんじゃ・・・」


歩は黙ってガムを鳴らした。


田中は次第に優位に立ち、2対1という圧倒的不利をものともせず、2人をねじ伏せ、眠りに付かせた。


「人が機械に勝るのは、機転と意外性だけじゃよ。さて、誠の方は・・・終わったようだの」



人型は地面に仰向けになり、その四肢は砕け身動きが取れないほどに痛めつけられていた。

それを上から見下ろす誠。


「のう、人型。最早勝負は付いた。ワシとお主だけの勝負では無く、この日本に現れたドラゴン、それにお主が連れ戻った人間も既に制圧されつつある。どうじゃ、降参せぬか? 悪いようにはせぬ」


人型は口を開き火球を作り出す。


「残念じゃ」


誠は放たれた火球を拳で砕き、人型の顔面で寸止めした。

誠が拳を引くと。人型は最早虫の息だった。


「・・・ほら、殺せ」


誠の後ろに現れた鬼が語りかける。


「ふむ・・・」


「憎いんだろ?」


誠は足元で虫の息で横たわる人型を見つめる。


「憎い・・・それはちと違うのう。こちら側の人が死ぬのは全てわしの責任。・・・じゃが、この娘も被害者じゃ。ワシがドラゴンを倒せという命令を部下にしたように。こやつも命令で人を殺せと命じられただけじゃろうて。立場が違えど信じる正義の元戦ったまで」


「ふん・・・。昔の坊主や聖人と呼ばれる馬鹿も同じ事を言ってたな。だがな乱世ともなると坊主だろうが神主だろうが武装し、悪僧あくそう神人じにんとなった。この世は結局力なんだよ。偽善は平時にのみの戯言だ」


「正論だがな・・・じゃがワシはな、無抵抗な女性を殴り殺す事で手に入れる平和は・・・狂っておると思うんじゃ。それだけじゃ」


誠は座り込み注射器を取り出した。


それを見た人型は、ニヤリと笑った。

その瞬間人型の体が光り輝く。


同時に誠は人型の喉を拳で潰し、すぐさま注射器を打ち込んだ。

呼吸困難に陥った人型は、少し暴れた後眠りに付いた。


「魔力の暴走による自爆を狙っておったようじゃのう。ま、そのくらいの事は想定済みじゃ」


その時誠に通信が入る。


「こちら平春中将。クラス5の討伐完了致しました」


「ほっ。こちらも丁度人型を捕獲完了した所じゃ」


「人型を・・・捕獲!?・・・流石です元帥」


じゃよ。所でキャロルはお主の目にどう映ったか聞かせてもらえんかのう」


「討伐一番乗り。この結果が全てでは」


誠は嬉しそうに微笑んだ。


「驚きましたよ。指揮権がキャロルに移った瞬間から。我々の能力をまるで知っていたかのように配置しました。彼女の階級では我々のデータへのアクセス権は無かった筈・・・」


「決まった事。戦闘中にを見ながら実力を把握したんじゃろうて。キャロルはなのじゃよ。頭の中でな。そういう子じゃ」


「・・・天才ですか・・・」


「努力のな。・・・そろそろ時間じゃ。キャロルを支えてやってくれ」


通信を切ったその時。


不穏な空気を感じ誠が振り向く。そこには守がふらりと立ち上がっていた。

目に光は宿っておらず。ただ虚ろな瞳で虚空を見つめている。


誠は目を丸くし、一瞬固まってしまった。


守は空をゆっくりと見上げ、突然咆哮をあげた。と、同時に守の体が鱗に包まれドラゴンの姿へと変身していく。その体はみるみる膨れ上がり始めた。


「しまっ!!!」


誠は慌てて、守に攻撃を加えるが、すでに膨らみ始めた体を止めるだけのダメージは与えられなかった。

守の体はさらに巨大化し、止まった時にはクラス5と同等にまで達し、その半分から上の鱗は漆黒に染まっていく。


『全軍に告ぐ! 新たなクラス5が出現! 討伐が完了した者は直ちにこの場に集合せよ!!!』


(ぬかったわい・・・守をすぐ殺さねばならなかった。ワシの・・・甘さか・・・)


アリーチェが誠の横に降り立つ。


「漆黒の鱗のドラゴンは現在確認されていませんが、あれは?」


「・・・守じゃよ」


「あら。それは残念ですね」


アリーチェは顔色一つ変えず答えた。


「相変わらずじゃのう。お主を選んで正解じゃった」


誠は通信を全軍に繋ぐ。


『全軍、これより全ての権限を 大久保 アリーチェ元中将へと移す!!! これより軍を率いるは、大久保 アリーチェ元帥と心得よ!!!』


「この戦闘が元帥としての初仕事じゃ。・・・すまんのう」


「討伐した数多くのドラゴン。その内の一匹ですよ。安心して引退して下さいね」


「うむ」


アリーチェは通信を繋ぐ。


『皆様。新しく元帥に就任しました元中将。大久保 アリーチェと申します。よろしくお願いしますね。集合した部隊の階級が上の者から順に攻撃を加えて下さい。対象は漆黒の鱗を持つクラス5。以上。』


通信を切断したアリーチェにエレナが歩み寄る。


「アリーチェ御姉様。あれ守なんだって?・・・殺るのか?」


「必要とあらば。」


そう言ってアリーチェは微笑んだ。


「やっぱり姉様は怖えぇや・・・」

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