第107話 決戦9
「大和さん!!!」
瑞穂が叫ぶも、大和は降り向きもしなかった。
「何故じゃ・・・なぜ瑞穂と守がここにおるんじゃ・・・」
珍しく驚く誠の横へ咲が降り立つ。
「・・・俺が2人を呼んだ・・・。俺の個人的な命令違反だ。怒るなら怒りやがれ」
(そうか、咲・・・ワシの身を案じて・・・。これもワシの業か・・・)
誠は手を上げ、そして優しく咲の頭に手を置いた。
「よい」
「ジジィ・・・俺が何やった分かってるだろ!? 怒られるような事やったんだぞ!? なのに何で・・・」
「この作戦、ワシも考えんでは無かった。ワシの作戦こそが最高の結果をもたらすとは限らん。しかし・・・人員を抜かれた側は確実に苦戦を強いられるは間違いなかろう」
(この試練・・・越えれるかこの壁を。いや・・・越えてもらわねばのう。キャロル)
誠は軍回線を繋ぐ。
『聞こえておるか・・・? キャロル』
『!?ええ。どうされました?』
キャロルは突然の通信に驚きつつも、答えた。
『お主から見て戦況はどうじゃ? 世辞はいらん。率直な感想を申せ』
『・・・少し厳しいですわ』
『それは戦力か? 戦術か?』
『両方・・・ですわね』
『そうか・・・なら変えてみせよ』
『え?』
『只今よりその場の指揮権をお主に与える。おぬしの裁量でそのクラス5を討伐してみせよ』
『・・・この大事な一戦をわたくしに指揮を執れと?』
『大事な一戦だからこそじゃ』
『・・・上官が素直に従いますでしょうか? 指示が上手く通らなければ更に多くの犠牲が出ますわ』
『安心せい。配置してある部隊はワシの直属じゃ。すでに事前に話は通しておる。心配はするでない』
『!?・・・なぜわたくしにそこまで期待してくれますの?』
『勘じゃよ』
『勘!? そんな事勘なんかでわたくしを!?』
『そうじゃ。しかしな、ワシの人生70年を掛けた勘。不安か? ぞれとも不安は自分の実力か? 断っても良いのじゃぞ』
キャロルは戦況を見つめながら眉をひそめる。
『断る?・・・お断りですわ! このキャロル・・・指揮、喜んで受けさせて頂ますわ!!!』
『うむ。因みに将校達に頼んであるのは今回だけじゃ。一戦。この一戦だけでお主の実力を納得させてみせよ。それではしかと頼んだぞ。この国を、そして子供達を』
その言葉を最後に通信は途絶えた。
キャロルは大きく息を吸い込み。目を瞑る。
(敵の第一波、に対する完璧な配置。第二波を見越した伏兵。そして咲少将の独断を知っていたかのように、自分の直属を配置し、わたくしを育てるために託した。わたくしはこの人を越えていかなければならない。今はまだ神代元帥には勝てない。でもいつかは越えなければならない。その為に託された。多くの命を任されたのですから・・・)
キャロルのインカムに通信が入る。
『話は聞いている。俺は
(今はまだアリーチェ御姉様の妹・・・ですが・・・!)
『皆様。私の指示は元帥の指示と同等と受け取って下さいまし。批評批判は全てが終わってから一人一人伺いますわ。よろしくて?』
『おっ。言うねぇさすがあのアリーチェの妹。それじゃ頼むぜ 大久保キャロル元帥殿』
『まずは平春中将の部隊。ドラゴンの正面に立ち、動きを止めて下さいまし』
『えっ』
瑞穂は涙を流しながら座り込む優香を横目で見る。
「母さん・・・父さんが・・・」
「なるほど・・・誠さん。咲ちゃん。うちの娘が申し訳ありませんでした」
瑞穂は深々と頭を下げた。
「よい。大和の相手を頼めるかのう?」
「はい。私が止めます。この命に代えても。・・・ですが、正直大和さんと現役時代の勝率は五分五分って所。過度な期待はしないで下さいね」
「十分じゃ。そして守。お主は巫女を頼む。辛いであろうが今この場に巫女に当てられる相手がおらぬ。よいか。全力を出して良い。でないとお主が死ぬ」
「そんな!!! 巫女姉に守を当てるですって!? やめて下さい!!! そんなの・・・あんまりです・・・」
瑞穂は優香の前に立ち、そして乾いた音が辺りに響く。
優香は何が起こったのか判らない。といった様子でその頬を押さえ目を丸くした。
「母さん!?」
「優香・・・貴方は優しい。けどね・・・戦わない事だけが優しいって事じゃないのよ。貴方が何もしないでも彼らは止まらないわ。こちらの誰か、もしくは一般人も殺してしまうかも知れない。それは貴方が殺したのも同じ事よ」
優香は目を伏せ、軋む心臓を押さえる。
「それにね、正気に戻った時自分が人を殺したと知ったら彼らは、自分を責めるでしょう?だから私達が全力で止めてあげないとね。それも優しさだと母さんは思うわ」
瑞穂は俯く優香をそっと抱きしめた。
「でもね・・・。優香にも巫女にも無事でいて欲しい。傷つく姿を見たくない。戦って欲しくない。これはね、母さんの我侭なんだけどね」
瑞穂は振り返り、目を細めゆっくりと息を吸い込み深く深く吐いた。
その体が薄く光を放ち、明らかに只者では無い空気を放つ。
「修練を積んでおったようじゃのう。流石じゃ」
「ケッ。歳をとって衰えたとはいえ流石、元イの二番隊隊長【
その時、大和と戦っていた博皇が膝をついて地面へと倒れこんだ。
「では・・・参ります・・・!」
瑞穂は構え、そして虚空に向かって拳を放った。次の瞬間、遠くに居たはずの大和が突然横へ吹き飛びビルへと激突した。
「母さんは一体何を・・・!? あれは抜虎!?いや・・・遠当てじゃない・・・」
誠が口を開く。
「あれはな・・・自分の拳を空間を飛ばし自分の好きなところへ飛ばす技【
守はその姿に自分の胸が高鳴るのか確かに感じた。
「今はまだ真似をしようなどと考えるでないぞ。酷な言い方じゃがまだお主には早い。じゃが安心せい。お主ならいつかたどり着けるはずじゃ」
瑞穂の姿に感化された守は拳を鳴らし巫女の方を向く。
「誠さん。巫女姉はその極致からどのくらいの位置にいるんですか?」
予想外の質問に驚く誠。しかし、少し嬉しそうに笑った後、
ゆっくりと指を一本立てた。
「その・・・上じゃよ」
守の体にソワゾワとした何かが駆け巡り、口からは青い炎が漏れ、目は縦に細長く鋭く変化していた。
「ちょっと、話が終わったなら早く代わってくれないかしら!? もうそろそろ限界なんですけど!?」
今まで巫女を辛うじて止めていた雪乃が叫ぶ。
それを合図に守は羽を広げ空中のシールドの上に立つ巫女へと一気に飛び立った。
「ぷっはー!!! 力全部使っちゃう所だったわよ!?」
「すまぬ。じゃが・・・雪乃がここまで抑え込めた。巫女本来の実力ならここまでは持たんはずじゃ」
「言ってくれるじゃないの。悔しいけどその通り。他の人は実力が上がっているようだけど巫女ちゃんはむしろ抑えられてるような気がするわ。あ、もしかして私が成長してたりして!?」
「馬鹿を言うな。相変わらず頭が阿呆だのう」
「何ですって!? ちょっとやだ・・・守重思い出しちゃったじゃない!そういえばあいつ今どうしてーーー」
「守重は今回の戦いで青森に出たクラス5と相打ちして・・・死んだ」
雪乃は驚きを隠せない。
「そう・・・。あの一般人って守重の事だったの・・・。あいつ・・・ほんっと昔から腕だけは立つんだから・・・」
雪乃は寂しそうに呟く。
「でもこれで三途の川で退屈しなさそうだわ。なによりあいつ身長あるからいい目印になる・・・ってちゃんと待ってるかしら!? いや・・・ていうか守重の事だから待ち伏せて対岸から石とか投げてきそうだわ・・・」
何を想像しているのか定かではないが、頭を抱えて唸る雪乃。
「ほっほっほ。それも待っておるうちじゃよ。・・・今まで世話になったな雪乃」
「こちらこそ。ってああっ!!! 守ってば全然駄目じゃない! 最短ルート行ったら潰されるに決まってるじゃないの!!! ったくー・・・ほら優香ちゃんもいつまでも座ってないで立って応援して」
両手で顔を顔を覆っている優香の腕を掴み、無理やり立たせる雪乃。
「これ雪乃。無理させるでない。優香はもうーーー」
「誠は黙ってて」
優香は顔を上げ守と巫女の戦いを見始める。守が巫女の作り出したシールドで弾かれる度に優香の手がピクリと動く。
「・・・あれじゃ・・・勝てない。無謀よ・・・」
「ええそうね。無謀な戦闘を行った者は自力では生還出来ない。結果2つの拾われ方に絞られる。一つは助けられ命を拾われる。そしてもう一つは・・・骨となって拾われる」
「・・・」
「でもね。優秀な戦士は敗北を糧に大きく成長するわ。もちろん駄目になっちゃう子もいるけどね。守はどちらかしらね」
守は力を溜め、火球を巫女に向かって放つがシールドで適当にあしらわれてしまった。驚き油断した守は逆に四角いシールドに取り囲まれてしまう。そのシールドは次第に収縮し守を押し潰し始める。
守も手を付き抵抗するもその収縮は止まる気配がない。
「ちっくしょぉおおおおお!!!」
守は歯を食いしばりドラゴンの力をさらに意識の持つ限界まで解放する。
「負けるかぁああああ!!!」
守の力が巫女の力を上回りシールドが砕け散った。巫女は表情を変えず、すぐさまシールドを出し守を地面へと叩き付けた。守は立ち上がろうとするも体が地面に張り付いたかのように動かない。
「あれは・・・
動けない守の上に巨大な四角いシールドが出現する。
ゆっくりと降下してくるそれに守は火球を放つがビクともしない。シールドは守を押し潰し始め更にその上にシールドが出現し、まるで杭を打つように何度も何度も打ち付けた。
シールドが消えると潰され元の人の形に戻った守の姿が露になる。優香は慌てて守へと駆け寄った。
「守!?」
優香の呼びかけに守が応える事は無かった。
「心臓が動いてない・・・!!!そんな!!!」
優香は守に手を当て、治療を施すが外傷は塞がったものの、息を吹き返す様子は無い。人工呼吸、心臓マッサージ。懸命の処理にも守の体が応える様子ま見て取れない。
大粒の涙が守の頬を伝う。
そこへ巫女のシールドによる追撃が襲う。が、そのシールドは音を立てて砕け散った。
優香はゆっくりと立ち上がる。
「約束したじゃない。守家にやって来た時。私たち2人で絶対この子を守って。・・・許さない。絶対ぶん殴って、正気に戻して自分がどんな事したのかその目で確認させてやるんだから!!!」
優香はその黄金に光り輝く両手を、巫女に向かって構えた。
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