第105話 決戦7

ドラゴンの頭上からエレナが回転しながらその大きな斧を突き立てた。その衝撃で頭部から大量の鮮血が噴出し、ドラゴンはついにゆっくりと地面へと顔面から倒れこむ。


「後は頼んだぜ本田のおっさん!!!」


肩で息をし、ボロボロになったエレナがドラゴンの頭上で叫ぶ。

予め地上で待機していた本田中将が、その無防備になった頭部へ今までで一番気合の入った一撃をぶちかます。その渾身の一撃はドラゴンの頭部を砕き、衝撃はその奥にあるビルにまで大穴を空けた。


ドラゴンの目から光が消え、ピクリとも動かなくなった。

それを確認した後アリーチェとエレナが本田中将の横に降り立つ。


「すごい威力ですね。ありがとうございました。・・・あれ? 又腕折れたんですか?」


本田中将の腕はぶらりと力無く垂れ下がっている。


「今度は右肩をやっちまったみたいだ」


「・・・牛乳ちゃんと飲んでます?」


「そういうの問題ではないわ!!!」


怒る本田中将にアリーチェはニコリと笑う。


「・・・これはもう絶命してるようですね」


「ああ。手ごたえはあった。とりあえず俺達は勝った!」


本田中将は左手の拳をアリーチェに突き出し、それにアリーチェも合わせた。


「む。よく見るとお前キレイだな」


「あら・・・こんな時に口説きですか? 嬉しいですが、女将に言いつけますよ?」


「阿呆! 服が汚れてないという意味だ」


「あら失礼しました。そうですね、なるべく温存したいので」


「その分俺らに負担が来てるんだぞ・・・まったくお前って奴は。若いんだからもっと働け!」


「ご苦労様です」


「お疲れ様だ」


アリーチェは再び微笑んだ。



一方その頃、血を流し、息を切らし天を仰ぐ咲の姿があった。

その足元には絶命したであろうドラゴンが横たわる。


「か・・・勝ったぞクソ野郎共!!! この俺様を讃えろ!!!」


右手のメスを高々と上げ叫ぶ咲に、他の隊員からも歓声が湧き上がる。


「か・・・勝ったの・・・? 私達・・・まだ生きていられるんだ・・・!」


千里は地面に座り込み、ポロポロと涙を流す。その背中を朝がと慰めるように叩いた。


『皆さん集まって下さいまし』


キャロルは無線でチームに集合をかけた。その声に勝利の喜びは無い。


続々と集合するチームメンバー。


「おーい!」


遠くから聞こえるその声の方を向くと、手を振りながらこちらに向かってくる守達の姿が見えた。

その姿を見たキャロルはほんの一瞬安堵の表情を見せた後、いつもの険しい表情へと戻る。


「守君・・・! 良かった・・・!」


千里は降り立った守に飛びつき咽び泣く。


「ただいま。皆も無事で良かった・・・!」


「皆さん。本当に良く頑張りましたわ。ですがまだ合図が出てない以上油断は禁物ですわ。ケガをしている者がいれば治療を行って下さいまし。・・・所でその方は?」


「チカって言います。守とは施設時代のです」


そう言いながらチカは守と腕を組んだ。


「だよね? 守?」


「お・・・おう。チカにはさっき危ない所を助けてもらったんだ。チカが居なかったら死んでたかもしれない」


「へぇ・・・そうですの。それは感謝致しますわ。で、チカさんといいましたわね。貴方はこれからどう致しますの?」


「んー。私はここら辺で待機命令が出てるの。まぁここじゃなくてもいいんだけどー、どうせなら守の傍がいいな」


「では、早速守から離れて皆の治療を手伝って下さいまし」


キャロルは守を睨みつける。その視線に慌てて守はチカの腕をほどいた。

チカは目を丸くし、そして守に耳打ちをする。


「ふふ~ん・・・なるほどなるほど」


チカはすぐ守から離れ、怪我をしている太の治療に取り掛かった。




ビルの屋上で指揮を取っている誠の隣に雪乃が立つ。


「どう? 誠」


誠はその髭を撫でる。


「各県に現れたクラス5の制圧はほぼ完了しつつある。じゃが、今回の戦いで多くの者が犠牲になった」


雪乃は硬く握られたその拳をそっと手で包み込む。


「誠は頑張ってるわよ。貴方だってこの拳で戦いたいのよね」


「雪乃・・・今まで迷惑を掛けたな」


「世話がやけるのは昔からでしょ?・・・でどうなの? 誠から見て順調なの?」


「今の所は・・・な」


その時、今までとは比べ物にならないほどの重い空気が辺りに立ち込め始める。

 

『ほ・・・報告します・・・。東京第一・第二・第三ゲートそれぞれからドラゴンの出現! そのどれもがクラス5です・・・! そんな・・・まだ反応が増えています! 神代元帥・・・目の前から・・・来ます!!!』


次の瞬間目の前に亀裂が入り。中からゆっくりと十数人ほどの人影が現れる。


「人型があんなに!? いや・・・あれは・・・嘘でしょ!? 巫女ちゃんと大和君!? それに・・・やだ、拳護けんご・・・」


「拳護・・・お前もか・・・。加えて以前向こう側に派遣した部隊全員来ておる・・・最悪の事態じゃのう・・・」


中から現れたのは、以前複数の国が協力し、ゲートの向こう側に調査隊結成し送り込んだ。今回現れたのはその際消息を絶ったメンバーだった。その瞳の輝きは無く黒く濁っている。その中には誠と雪乃の息子、神代 拳護と大地の両親 相良 富田とみた三木みきの姿もあった。


さらに人型が上空から現れ調査隊の中央に降り、遥か下の誠を睨む。


『全軍、目の前の敵を排除せよ!!! 逃げても負ければいずれ死ぬ! 怯むな! 引くな! 戦え! その命尽きるまで!!! ワシを信じよ! この戦い・・・勝つのはワシらじゃ!!!』


誠の鬼気迫る声が全国に設置されたスピーカーから鳴り響く。


『イの一番隊・二番隊・三番隊はワシの所へ集まり、敵側の人間相手をせよ!』


人型、そして大和達が動く。が、囲むようにシールドが張られていて身動きが取れない。


「誠。皆が集まるまで、私が時間を稼ぐから。でも・・・相手には巫女ちゃんがいる。長くは持たないわよ」


巫女が両手を広げるとシールド内部から凄まじい圧がかかる。


「っつ!? 無理っ!!! 軟球檻リフレクトバルーン!!!」


人型達を囲っていたシールドが今度は風船のように膨らむ。


「嘘・・・でしょ・・・。お父さん・・・お姉ちゃん・・・?」


誠の後ろから現れた優香が膝をついてへたり込む。


「優香・・・すまん。しかし、頼む。戦ってくれ。お主の力が必要なんじゃ。そのためにこの場で待機させておったのじゃから・・・」


「嫌・・・嫌!嫌!嫌! 戦える訳無いじゃない!!! あれはお父さんとお姉ちゃんなんだよ!? うっ・・・」


優香はその場に泣き崩れてしまった。


「優香ちゃん・・・お願い!!! もう・・・無理っ!」


軟球檻が内圧に耐えられず、まるで風船のように弾け消えた。

同時に人型が誠に向かって火球を放つ。


「発気!!!」


が、突然上空から現れた本田中将が、火球を消し飛ばす。


「コラ! アリーチェ! 俺を投げ飛ばすな! 危ないだろうが!」


アリーチェとエレナが遅れて降りてくる。


「あら、ごめんなさいね。神代元帥イの一番隊。到着しました。・・・あら、もしかして相手は隊長さん?」


「ああ。あれは間違いなく大和隊長だ。・・・俺が相手をする」


『どうぞどうぞ』


アリーチェとエレナは手を差し出す。


「お前らな・・・」


次々と人が降り立ち、軍上最位戦力


イの一番隊 本田 博皇はくおう・大久保 アリーチェ・大久保 エレナ

イの二番隊 田中 東・深井ふかい 歩あゆむ・江崎えざき だい

イの三番隊 神代 咲・神代 剛・神代 卓雄・双玉そうぎょく有沈 


が結集した。


「ほほほ。これはこれはいいデータが取れそうだな。データ収集を頼むぞ、歩」


東の呼びかけに、歩は風船ガムをパチンと鳴らし返事する。


「で、何で優香ちゃんは蹲ってんだコラ。働かねぇなら軍服脱いで避難しろ。邪魔なんだよ」


憤る咲の肩を誠が優しく叩く。


「もう良いんじゃ」


「ケッ。甘ぇんだよジジィは」


「さぁ・・・決戦じゃ!」


最終戦第二ラウンドの火蓋が今切って落とされた。



再び目の前に現れたドラゴンを前に守達は困惑していた。


「嘘だろ!? やっとの事で倒したってのに・・・」


「そんな・・・。しかもさっき放送で咲さん達はどこかに行っちゃったし・・・こんなの・・・勝てっこないよ・・・」


千里は目に涙を溜めながら座り込む。


「前回も二段階攻撃だった事を考えると、今回もその可能性があるのは想定するべきですわ。そもそもこちらに決定権などはありませんので、来る限りは撃退しますわよ」


後ろでおにぎりを食べていたエルダが立ち上がる。


「よーし、行くぞ剣! 再開だ!」


「ええっ!? しかし先生・・・相手があれでは・・・」


「剣は馬鹿だな~! 何でお前は刀を握ったんだ? 逃げるなら盾術を磨くか、逃げ足を鍛えるかだろ? 相手を殺して自分が生き残る。そのためのこれだろ」


エルダは両手に刀と剣を持つ。


「ま、そのとおりだ」


美神も立ち上がり腕をぐるぐると回す。


「ですが無茶は禁物ですわよ。さぁ皆さん・・・Eチーム、出陣ですわ!」


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