第99話 決戦

東京全体が見下ろせるほどの高いビルの上では誠が独り、出現し始めたドラゴン達を見下ろしていた。


『ベースアンカー・・・射出!』


誠の合図と同時に町の至る所から発射されたアンカーは、そのドラゴンの固い鱗を貫きドラゴンの動きを封じた。激痛の悶え暴れるドラゴンだったが、アンカーには返しがついておりそう簡単に外せるような設計にはなっていない。


『解析部隊! 報告せよ! 主にクラス5、防衛の限界数値を超えていなければクラス4以下は報告は無しで良い』


地下に用意された軍の仮拠点では、慌しく全国の部隊から寄せられた情報の集約が行われていた。


『型式略式にて報告! クラス5 南より福岡1【戦】大阪1【甲】京都1【甲】東京3【戦・戦・知】青森1【戦】北海道1【戦】計8体! 東京のみその3体全てがイレギュラーゲートからの出現です!その他存在するほぼ全てのゲートからクラス4も多数出現! 尚、現段階は外見の特徴判断になります!』


(ふむ・・・各地確実に足止めし、頭を潰す布陣で来たようじゃのう・・・仕方がない・・・)


『各地、上官の指示に従い討伐を開始せよ! この命令は特戦校の生徒も同様じゃ! 戦況は随時解析部隊へ送り共有せよ! それではこれより戦闘へ移る為、内部回線へと切り替える! 以上・・・作戦開始じゃ!』


回線を内部回線に切り替え、一つ小さく息を吐く。


『イの一番隊は新宿の戦龍型、二番隊は品川の知龍型、三番隊は墨田区の戦龍型の討伐に当たれ! その他の部隊は上官の指示に従って行動せよ!』


『神代元帥! ほ・・・報告します!』


『なんじゃ』


『福岡のクラス5【戦】討伐完了したとの報告が・・・』


『なっ!? 今すぐ桜へ通信を繋げ!』


『はっはいっ!』


すぐさま回線が繋がる。


『桜か!?』


『何だこの忙しい時に! のん気に通話など飛ばしておる場合か馬鹿誠! ッツ!!!』


回線の向こうの桜の息は荒い。


『お主まさか・・・・・・』


『フンッ! くれてやったわ最後の一本。この老いぼれの腕一本など安いもんだ。忘れたか? ワシらの強さを! 思い出したならさっさと自分の仕事しろ馬鹿誠!』


そう言い放って桜は通信を切った。間髪入れず解析部隊より通信が入る。


『解析部隊より報告! 青森のクラス5【戦】討伐完了! ですがこれは・・・軍関係者では無く・・・その・・・刀を持った一般人との報告が・・・』


(守重・・・やはり来てくれたか・・・)


『しかし、その一般人戦闘の際、重症を負い・・・死亡を確認したそうです』


『な・・・なんじゃと!?』


誠の拳に力が入る。


「ワシはついに守重まで・・・殺した。ワシが煽り、そして・・・殺した!!!」


地面にはポタポタと血が滴り落ちる。


「俺がお前に殺されるかよ。バーカ」


後ろを振り向く。と、そこには横に寝転がりあくびをしている守重の姿が目に映った。幻覚かもしれないその姿に誠は声を漏らす。


「守重・・・お主・・・」


「どうだ。クラス5倒してやったぞ感謝しろ」


その幻覚は確かに答えた。誠はそのまま話を続ける。


「相変わらずの強さだな」


「これで負けたら承知せん。・・・エルダを頼んだぞ」


「・・・任せろ。どれだけの犠牲を出そうともワシはこの戦いに・・・勝つ!」


その自信に満ちた表情を見て、守重はほんの少しだけ満足したような顔で消え去った。


その時、戦場に異変が起きる。軍の兵士が次々と頭を抱え、倒れ始めたのだ。


(む。クラス5、知龍型の脳波がこれほどとは・・・)


『凛!出番じゃ!』


誠の命令で、とあるビルの屋上に設けられたステージの上に3人が立つ。


『了解! 行くよ、ブラックスター! ホワイトスター!』


「えー観客居ないしやる気出なーい」


棒付の飴を舐めながら黒髪の女性が言う。


「ブラックスター。ライブは自分の限界を超える為にやるものよ?」


「ホワイトスターは真面目だなー・・・。ん?」


ビルの屋上に何処からともなく続々と人が集まり始めた。


「あれは・・・親衛隊の皆さん! 避難したはずでは・・・!?」


「間近で【三ツみつぼし】のライブが見ながら死ねるなら本望です!」


「君たち・・・!」


ブラックスターはステージのマイクを取り、舐めていた飴を噛み砕く。


「やるんだろライブ。ならさっさとやろーぜ」


「ブラックスター!」


凛とホワイトスターも同じくマイクを手に取る。


「それじゃぁ始めるよっ! 3・2・1・・・ライブスッターーーートッ!」


ステージの後方より盛大な花火が上がり、スポットライトが壇上の3人を明るく照らす。

ビル全体が巨大なスピーカーとなっており、アップテンポの可愛らしい音楽が町中に鳴り響く。


「みんな大丈夫か!?」


膝をつくキャロル達に守が駆け寄る。


「・・・もう大丈夫ですわ。【三ツ星】が脳波を乱してくれていますので」


そこへ咲より通信が入る。


『おいてめぇら! ボケッとしてんじゃねぇ! 今すぐ俺らのいる墨田区の戦龍型討伐に参加しやがれ!』


『墨田区っていうとクラス5がいる場所じゃ・・・』


『だったら何だ! 俺は命令したぞ、あとはてめぇらでどうするか決めやがれ!』


「どうするキャロル!?」


「命令には従いますわ。さぁ皆さん行きますわよ! 一瞬たりとも気を抜かないでくださいませ! いざ・・・クラス5討伐へ!」


キャロルを先頭に移動を開始する。その移動中、浮かない顔をしているのが見て取れた。


「どうしたキャロル。何か気になる事があるのか?」


「ええ。まだ【人型】の動きが把握出来ていませんわ。一体で戦況をひっくり返せるほどの戦力の所在が知れない。これほど恐ろしい事はありませんわ」


「なるほどな」


現場に着いた一同は息を呑んだ。住宅街は踏み荒らされ、所々にベースアンカーのワイヤーが千切れて散乱していた。その中心には巨大なドラゴンが攻撃を受けながらも暴れ回っている。咲が守達を見つけ、目の前に降り立つ。


「ケッ。来やがったか。ボケっとしてねぇで攻撃に参加しろ」


「状況はいかがですの?」


「見たら分かんだろ。苦戦してんだよ」


「私たちは何を?」


「てめぇで考えろ。てめぇはジジィが認めてんだ。その位出来んだろ」


「好きにさせてもらっても宜しくて?」


「そういう事だ」


咲はそう言い残して飛び去って行った。


「大地・千里!」


「はいよ!」


大地は地面を手につくとすぐさまクラス5のドラゴンにツタが絡みつく。


「千里!」


キャロルは千里の肩にそっと手を当てる。


「度肝を抜いて差し上げましょう。私が魔力の調整をサポート致しますわ。さぁ・・・いきますわよ!」


「うん・・・!」


千里は両手を前に出す。その両手にキャロルは手をそっと添えた。


「【火砲!】」


放たれた火砲は普段の火砲よりも細かったが凄まじい速さ、威力で咲の傍を通り抜けドラゴンの角に直撃した。その巨大な硬い角がゆっくりと地面へと落下する。


その一撃によって一瞬時が止まったかのように戦場が静まり返る。


「あ・・・危なぇだろうがコラ! 殺す気かクソガキ!」


「あら、命令通り好きにさせて頂いただけですわ」


「ケッ! お仕置きは後だ、来るぞオラァ!」


ドラゴンが標的を千里に定め、その巨体に似合わない素早さでこちらへ突進を始めた。


「朝! 守!」


朝は同時に2本の矢を放つ。2つ矢はそれぞれドラゴンの左右の目の前で眩い光を放ち、怯むドラゴンの頭部に守が特大の火球を叩き込む。が、ドラゴンの鱗は想像以上に硬く亀裂が入っただけで、傷は浅い。


「美神さん! 太!」


「あいよ! 太! 私をブン投げろ!」


「ドスコイ」


太は美神の腰に手を回し、そのまま勢い良く投げ飛ばす。


「武神降臨! 発気!」


美神は闘気を纏いドラゴンの頭部に降り立つと同時に亀裂の入った場所へぶちかます。その衝撃により周囲の鱗が剥がれ落ちた。


「剣! エルダ!」


すでに足元から掛け上げって来ていた2人がその露になった皮膚に切りかかる。


師弟技していぎ連月れんげつ】』


剣の一太刀が分厚い皮膚を切り裂き、間髪入れずにエルダの【追い月】が繰り出され、その切り口からは大量の血が噴出し地上に雨のように降り注ぐ。

ドラゴンは大地のツタを引き千切りながら、勢い良く首を振り上げ思い切り頭を地面に打ち付けた。頭上にいたエルダ達は慌てて飛び退き距離を取る。


「駄目だ! 脳までは達しなかった! 剣! お前が未熟だからだぞ!」


「申し訳ありません!」


「でも・・・教えたばかりで良く出来たな! そこは褒めてやるぞ!」


「あ・・・ありがとうございます!」


「来るぞ!」


ドラゴンの放った火球が飛来するが、守が火球を当て上空へと弾き飛ばす。


「サンキュー守!」


「火球がでかい! 相殺出来ないぞ!」


連続してくる火球は爆音を上げ、地面を砕きビルを崩壊させた。


(ケッ・・・なんつーガキ共だ。まぁこいつらの実力・性格・境遇・相性、全てを読み解き、チームへと仕立てた。俺らの時と同じようにな・・・。・・・ジジィ、やっぱてめぇは最高だぜ!)


咲は少し嬉しそうにニヤリと笑う。


『てめぇら聞け!』


町のスピーカーから咲の声が鳴り響く。


『クソガキ共負けてんじゃねぇのか!? アアン?! この咲様の部下なら俺に恥かかせんじゃねぇ! 行くぞてめぇら・・・ぶっ殺せぇええええぇ!!!』


咲の一声にて一斉に総攻撃が始まった。

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