第69話 剣とエルダ
武活動にて剣の申し出により、守と剣の実戦形式での決闘が行われた。。
「はぁ・・・はぁ・・・何だ貴様のその力・・・! 初めて出会った時とは比べ物にならん・・・」
剣は膝をつき肩で息をしながら守を睨む。
守も汗を拭いながら答える。
「お前もこんな強かったのかよ・・・」
「こんな事では・・・又、姫様をお守り出来ん・・・くそっ!」
剣は地面を殴りつける。
「やーい! 剣~又負けた~! 剣の雑魚~!」
エルダは大きなおにぎりを、口にほうばりながら笑う。
「エルダ先生! 今の一戦を見ておられたのなら、何か助言を下さい!」
「仕方ないな~剣は・・・んじゃ見てて」
頬についたご飯粒をペロリと舌で舐め取り、横に置いてあった刀を手に取る。
「あれ? 刀って折れたんじゃ・・・?」
守は尋ねる。
「ああ・・・これはあのジジ・・・誠さんがくれたの! 前のやつよりかいいやつっぽい!」
エルダは守に向き合い、気をつけをし礼をした。
「よろしくお願いします」
守も同じく礼を返す。
エレナ抜刀の構えを取るエルダ。
守も同じく拳を構える。
エルダが地面を蹴った。
(来るーーー)
次の瞬間守の喉元に切っ先が突きつけられていた。
「えっ・・・」
守は油断していた訳では無かった、一度エルダの戦いを見ている。その速さは知っているはずだったが。しかし反応出来なかった。
(これがもし・・・本当の実戦だったなら・・・)
守の背筋に悪寒が走る。
そこへ他の武活動のメンバーが駆け寄って来る。
「守君!? 大丈夫!?」
「ああ・・・大丈夫だけど・・・」
「すげぇなエルダ! どうやったらそんなスピード出せるんだよ!?」
「えへへ~! すごいだろ? すっごい苦労したんだぞこの速さ出すの!」
「さて・・・わかった? 剣?」
「えっと・・・圧倒的速度で反応する隙さえ与えない。という訳ですね・・・。エルダ先生のクラス4のコアならともかく今の私では・・・」
「お前馬鹿だなー! 速さだけ見てたら駄目だろ! 意識を外したの! 多分守にはアタイの姿は見えて無かったと思うよ」
「エルダの言うとおり・・・見えなかった・・・。」
「これは人間の目の機能を逆手に取る技って父上が言ってた。多分まだ剣には無理かな?」
「そこを何とか教えて下さい・・・! お願いします! 私は強くならなければならないのです!」
「どうしよっかな~? 今日は一緒に寝てくれたら教えちゃおっかな~?」
「ッツ!? だから一緒にベッドで寝るのは無理と言っています! ちゃんとエルダ先生の部屋にベッドがあるではないですか!」
「嫌だ! 何でこっちに来てからは一緒に寝てくれなくなっちゃったの!? 山の中では一緒に寝てくれたのに・・・」
「畳の上で一緒に寝るのとベッドでは意味が違います!」
「意味分かんない! 弟子なら言う事きけ! そうか・・・剣はアタイの事嫌いなんだ・・・!」
涙目になるエルダ。皆一様に冷ややかな視線を剣に注ぐ。
「違います!・・・何だ貴様ら! そんな目で私を見るなぁ!」
「エルダ先生! ほら! 飴を差し上げますのでこれで落ち着いて下さい!」
泣きそうになるエルダに剣はポケットから飴を差し出す。
エルダは子供のように喜び、飴を舐め始める。
剣はエルダから少し離れた所に座らせ皆に向き合った。
「今日手合わせして確信した。貴様・・・いや貴様らは強い・・・いや、強くなった。 その上姫様が認めた以上、蔑む理由も無い。今までの非礼を詫びよう。すまん」
「まぁ・・・もう終わった事だし、俺らは気にしてねぇよ。な、皆」
大地の言葉に一同は頷く。
「でもまぁ、貴様じゃなくて名前で呼んでくれよな剣? 俺は大地!」
「だ・・・大地・・・。」
剣は恥ずかしそうに名前を呼ぶ。
「何ぎこちないなぁ・・・」
「し・・・仕方ないだろう! 私はずっと姫様の御付で友達など・・・」
「んじゃ。俺らが始めての友達って事で。」
大地は手を差し出す。
「・・・よろしく頼む」
その手を剣が握り返す。
「所でエルダ先生の事なのだが・・・」
「彼女がどうしたんだ?」
「・・・見ての通り年齢は私達と変わらないのだが、振る舞いがまるで子供もように見えるだろう」
「確かに・・・それがどうかしたのか?」
剣は座って飴を舐めているエルダをチラリと見る。
「彼女は幼くしてイタリア人の母親を無くし、その後日本人の父親に引き取られたのはいいが、その父親は山奥に住んでいてエルダ先生は外部と殆ど関わる事も無く、父親から剣術の修行のみをさせられ育ったそうだ」
「道理で強いわけだ・・・」
守は呟く。
「そこで私も修行させて貰っていたのだが、『そろそろやることあるし、邪魔だから出て行け』と言われ、彼女も連れて行けと言われたのだ。最初は断ったのだが・・・・本人も付いて来たがっていたので、しぶしぶ了承した。しかし、彼女は剣術しか知らん上に中身は子供そのものだ。そこでだ・・・」
剣は真剣な眼差しで皆を見つめる。
「エルダ先生の友達になって欲しい。この通りだ」
剣は深々と頭を下げた。
剣のその姿に少し驚きつつも大地が言う。
「任せとけって! おーい! エルダ!」
大地はエルダに向かって手を振る。
エルダは少し怪訝そうな顔をしながら飴を転がす。
そのエルダの元に大地は駆け寄る。他の皆も同じくエルダの傍に集まった。
「何?」
「なぁエルダ・・・俺は大地って言うんだ。 俺らと友達になろうぜ! な? いいだろ?」
「と・・・友達!? 弟子とは違うの? ねぇ剣?」
剣は座っているエルダに片膝を突き目線を合わせる。
「友達と言うのは。同等な立場で付き合いをする人の事です・・・って理解出来ますか?」
「ア・・・アタイを馬鹿にすんな剣! 友達って単語知らなかっただけだし! いいよ? 友達になってあげる・・・けど私の方が偉いんだからね!」
「エルダ先生・・・半端に分かっていませんね・・・それでは友達とは・・・」
「まぁまぁいいじゃねぇか! なぁエルダ! さっきの凄かったな! 俺とも手合わせしてくれよ! エルダ先生?」
その単語にエルダは嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、刀を取り立ち上がった。
「いいぞ大地! その勝負受けた! いざ尋常に勝負~!」
「負けねぇぜ~?」
大地とエルダは飛び跳ねながら広いグラウンドの方へ向かって行った。
「大地はすごいな・・・一瞬でエルダと仲良くなっちまったな・・・」
「大地はちびっこに大人気」
「うーん沙耶・・・お前が言うと説得力あるな」
沙耶は無言で守に銃を突きつける。
「もうっ! 守君は・・・沙耶ちゃん小さいの気にしてるんだから・・・そんな事言わないの」
千里は後ろから沙耶に抱き着く。
沙耶の顔が何とも言えない表情へと変わる。恐らくは背中に当たる肉の塊のせいだろう。
「お前も俺と変わらないような事やってると思うが・・・」
「えっ? えっ?」
「大地の所行く」
沙耶はムスッっとした顔をして千里を引きずりながら歩き出した。
「ちょっと沙耶ちゃ~ん・・・」
2人が立ち去った後、剣が歩み寄る。
「お前らは本当に仲がいいんだな・・・」
「まぁな。大地と沙耶なんて付き合ってんだぜ?」
「なっ!? そうだったのか・・・俺なんて異性と手を繋いだ事も・・・クッ・・・」
「安心しろ。俺もだ」
「
「
2人は硬い握手を交した。
「しかし驚いたな・・・お前はてっきりキャローーーー」
そこまで言いかけて守は不思議な気持ちになり、言葉を続けられなかった。
「姫様? 俺はただの姫様のお付きだ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「そ・・・そうか・・・」
守はほっとする。
「ま・・・まさかお前・・・姫様の事を!? 身分をわきまえろ!」
剣の顔色が変わる。
「ちょ・・・ちょっと落ち着け! さっきの硬い握手は何だったんだよ!?」
「貴様が姫様の事を好きと言うのなら・・・やむなし! 切らねばならん!」
剣は腰の刀に手をかける。
「待て! 違う! そういうんじゃない! 俺はキャロルの事・・・」
「事・・・?」
剣の手に力が入り鋭い目つきで守を睨む。
「何も・・・何とも思ってない! そう! 何とも思ってない!」
「・・・本当か?」
「ほ・・・本当だ!」
剣は構えを解く。
「剣・・・お前・・・キャロルの事になると性格変わるのな」
「当然だ。姫様を御守りするのが俺の務めだからな。脅かしてすまん。姫様の事となると我を忘れてしまう」
「いいっていいって」
「むっ。エルダ先生と大地の戦いが始まったな。先生の一挙手一投足を見逃す訳にはいかん!」
剣は2人の方へ駆けて行った。
(・・・好きじゃ無いと言い切れば、剣は素直に納得しんただろうな・・・)
「だっはー! 負けた負けた! エルダ強えぇな~・・・速すぎんだよ~」
大地は大の字になって息を切らし天を仰ぐ。
それをエルダがしゃがみ込み、覆いかぶさるように上から見下ろしながら笑う。
「にひひ~! 大地~! お前中々筋がいいな~! 剣よりか戦いの才能あるぞ~? 刀の使い方教えたげよっか!?」
「エルダ先生!? それはあんあまりです!?」
「おっ。いいねぇ~! 刀使ってみたかったんだよな~・・・」
大地が見上げると、エルダの人形のように整った顔がそこにあった。
その美しさに大地は目を奪われてしまう。が、銃声と共に大地の顔面の真横に穴が空く。
「大地。見すぎ」
「い・・・いや! あんまりに整ってて人形みたいでつい・・・!」
「つい?」
沙耶の銃口が眉間に押し付けられる。
「悪かった!」
「気をつけて。・・・ねぇエルダ。次の相手は私」
沙耶は少し離れライフルを置き、ハンドガンと双電刃を取り出し構える。
「にひひ~! いいよ~!」
エルダも立ち上がり、お互いに礼をし、構える。
そんな事を繰り返しているうちに日は暮れ、解散となった。
守はいつも通り千里と並んで家の方へと歩く。
「エルダちゃん・・・すっごく強かったね。」
「まさか沙耶まで負けちまうとはなぁ・・・エルダはクラス4のコア持ってるとは言っても、あれで同い年ってのが驚きだぜ・・・」
「うんうん。・・・でもさ、いい子だよね。純粋だし」
「少し我侭だけどな。」
「あはは。仕方ないよ・・・事情が事情だし。・・・所で、咲さんのお見舞いに行ったんだよね? 大丈夫だったの?」
「元気にしてたよ・・・。元気すぎる位に・・・。そういや剛さんも意識が戻ったって言ってたな・・・」
「良かった。皆無事で・・・」
千里はホッっと胸を撫で下ろす。
「咲さんが止めなかったら俺だって戦ってたのに・・・。」
守は拳を手のひらに打ち付け鳴らす。
「あ・・・危ないよ!」
「分かってる・・・でもさ、咲さん達が危険な目に遭ってたら。少しでも力になりたいって思っちまうんだよ」
「守君は・・・怖くないの?」
「怖いと思った事はあまり無いかな・・・。俺が一番怖いのは目の前で誰かが死んでしまう事。それが一番怖い」
「そう・・・。でもね、守君。それは待ってる私も同じなんだよ? 守君やチームの皆にもしもの事があるのが怖いの。だからね、あまり無茶はしないでね?」
「分かってるって!」
「もう・・・。本当に心配してるんだからね・・・」
千里は小さくため息をついた。
千里を家に送り届けた後、守は走って家まで帰った。
「ただいま」
「お帰りなさい守・・・どうしたの息を切らして?」
「母さん! 優香姉は!?」
「あれ? 武活で一緒じゃなかったの?」
「今日は優香姉来なかった。何か聞いてない!?」
「いえ・・・?」
その時、玄関のドアが開き優香が帰ってくる。
「ただいま~・・・ってどうしたの、守?」
「優香姉! 俺にもっと厳しい修行をつけてくれ!」
「ど・・・どうしたの急に・・・」
「いいから!」
「わ・・・分かりましたから・・・とにかく食事をして、その後にいつもの訓練場所で話を聞きますよ」
「飯なんか後でいい! だから・・・」
その言葉を聞いた優香の顔色が変わる。
「守! 母さんの作った食事を飯なんかとはどういう事ですか!? そのような事を言うのなら、修行なんてつけてあげませんよ!?」
「ーーー!? ・・・悪かったよ・・・」
「私にでは無く母さんに謝りなさい」
「・・・ごめん」
「うふふ。では罰として、守の分のから揚げ1つ優香にあげる事。いいわね?」
「わ・・・分かったよ。」
皆揃って食卓に着く。テーブルの上には至って普通の家庭料理だが、どれも美味しそうに出来上がっていた。
「では。守。自分で優香にから揚げを一つあげなさい?」
守はしぶしぶ自分のから揚げを一つ箸でつまみ、優香の皿へ乗せる。
優香は嬉しそうな表情をし、それを見ていた。そう、2人とも母の作るから揚げは大好物なのだ。
しかし、から揚げを運ぶ守の悲しそうな表情を見て、なぜだか急に切なくなってしまった。
「・・・ねぇ守。 私も怒鳴ってごめんなさいね。」
そう言って、自分のから揚げを一つ取り守の皿へ置いた。
「これじゃ意味ねぇだろ・・・」
「いいのいいの。ね? 母さん?」
「うふふ。そうね。ではこれで両成敗って事で。さぁ食べましょう? 冷めちゃうわよ?」
3人は少しの雑談を交えながら食事取った。
『ご馳走様でした!』
「さ、行こうぜ優香姉!」
「えっ!? もう!?・・・仕方ないわね~・・・。じゃぁ、母さん行ってくるね」
「ええ。気を付けてね」
守と優香は靴に履き替え、駆け足で出て行った。
残された母は洗い物を済ました後、部屋に飾ってある家族写真をテーブルの上に置く。
「あの子達は本当に逞しく、いい子に育っているわ。帰って来たら驚くわよ? ね、大和さん、巫女。」
そう言って優しく微笑んだ。
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