第68話 クラス4とあちらの世界

クラス4との戦闘で負傷した、咲と剛は軍病院に入院する事となった。咲は絶対安静であったが、意識の戻らない剛を、「俺が治療する」といって暴れ回るので、ベットに縛り付けられていた。

その時、部屋のドアがガラリと開き1人の女性が駆け込んでくる。


「咲~! 大怪我したんだってね!? 大丈夫!?」


「げっ!? 小春じゃねぇか!? てめぇ勝手に入って来るな! ちゃんと入口に『ジジィ以外入ってきたら殺す!』って書いてあるだろ!?」


「ごめ~ん! み・え・な・かっ・た☆ 大変でちたねぇ~! よしよし。でも縛り方が雑ねぇ。私ならもっと上手に縛れるのに・・・うへへ」


小春は縛り付けられてる咲に抱き着き、頭を撫でながら、ニタリと笑う。


「気色悪ぃんだよてめぇ!」


そこへコンコンと扉をノックする音がする。


「誰だか知らねぇが今、取り込み中だ! 失せろ!」


すると、ドア越しに声が聞こえてくる。


「仕方ないのう。では一旦帰るとするかのう。旋風、守。折角来てもらったのにすまん・・・」


「だーーっ!? ジジィならさっさと入れよノックなんかいるか! ジジィは帰ったら許さねぇかんな!」


ドアが開き3人が入って来る。


「元気そうじゃのう。おお! なんじゃ、小春も来ておったのか」


小春は誠に敬礼をする。


「遠い所からわざわざすまんな小春」


「いえいえ、可愛い可愛い元チームメイトの為ですから! っと氷雪会長と・・・守君も来てくれたの!? 何だ~意外に愛されてるのね咲~?」


「ちげぇよバカ! おいジジィ! 何でそいつらまで付いて来てんだよ! 見舞いならジジイだけで十分だ」


「丁度出かける時に出会ってのう。どうしても旋風君がお礼を言いたいとの事で、連れて来たんじゃ」


旋風は一歩前に出て頭を下げる。


「ありがとうございました。今後、力になれるよう今度一層努力致します」


「ケッ。俺は仕事しただけた。礼なんかいらねぇ。どうしてもってなら肉デブに言いな」


「えっと・・・今の咲の言葉を翻訳すると。『照れるぜ。でも礼は卓雄に言ってくれ』って言ってるの」


「どこをどう取ったらそうなるんだよバカ小春!」


咲はベッドの上暴れる。


「おいジジィ。あの筋肉バカはどうなってやがる」


「・・・それがまだ目を覚まさんのじゃ」


「だから俺がやるって言ってんだよ! ヤブにさせても、いつまでも治んねぇだろ!」


「ほっほっほ。では咲が森先生にはヤブと言っておったと伝えて・・・」


「待て待て待て待てちょっと待て! ジジィ! やめろ! やめろ! てめぇ!」


珍しく咲が動揺している。


「ったく・・・心臓に悪い冗談はやめろよな・・・」


「ほっほっほ。所で、今回のクラス4の鑑定が終わったぞ。どうやら、知龍型の混ざったクオーターハイブリッドだったそうだ。」


「ッチ。道理で賢い訳だぜ。敵は知龍型を混ぜたクオーターハイブリッドを中心に仕上げてきてんな」


「敵? 仕上げるって何の事です?」


守はその単語が引っ掛かり咲に尋ねる。


「ッチ。そういやガキが居たんだったぜ。忘れろ。いいな」


「よい。小春。説明してやってくれ」


「いいんですか?」


誠は頷く。


「では・・・守君、旋風さん。ドラゴンがなぜこちらに現われているのか、知ってる?」


「迷い込んだ・・・ですか?」


「その通り・・・ってあれ? これ2年の授業じゃなかったっけ? 今は一年でやるの?」


「いえ、ドラゴンが言ってました。」


「ああ・・・そうか君はそうだったわね。そう。一般的にはドラゴンはあちらのゲートから吸い込まれてこちら側に召喚されると言われているわ。そして基本的に知龍型はその高い知能が故にゲートに近寄らない。だから基本的にはクラス3まではあまり見かけないの。でもクラス4からは違う・・・いえ、違ってきている」


守にはその違いに心当たりがあった。


「殺意・・・」


「そう。もちろん迷い込んだクラス4もいるけど、その多くはハイブリッド。そして近年ではさっき述べたように、知龍型を少し混ぜたクオーターハイブリッドが主流になってきている。クラス3までとは比べ物にならないスピード、パワー。それに明らかな敵意を持ってこちら側に現れている。軍ではそれを【クラス4の壁】と呼んでいるわ。こうした情報から、向こう側で何かしらの戦闘訓練を受けている可能性が高いの」


「それであのクラス4は他のドラゴンに比べ殺気立ってたんですね・・・」


「そういう事。これらの事からつまり・・・あっち側の世界では品種改良、戦闘訓練が行われている。そして、それを主導している【人】が居る可能性が高いの」


旋風が挙手をする。


「ちょっと待って下さい有馬 少将。あちらにも【人】がいるとなぜ言い切れるのですか?」


「【神の書】の存在。そして【人型】の出現から、向こう側にも人がいるのでは無いか。と、言われてきたけどその確証は無かった。でもイタリアにて、クラス4のドラゴンが討伐された際、解剖にて手術の痕が確認され、それには【糸】が使われていたそうよ。これら事から向こう側にも人がいる可能性が高くなったの。それがこちらの世界から向こうに行った人なのか、はたまた元々向こうの人間なのかは定かでは無いけどね」


「つまり向こう側にはこちらを意図的に攻撃している人がいるって事ですか・・・」


守は憤りを隠せない。


「こちらから・・・攻め込む事は出来ないんですか? このままじゃ防戦一方じゃないですか!?」


その言葉に場の雰囲気が重くなる。

誠は少し間を置き口を開く。


「向こうに行って帰って来た者はおらぬ。5年前、複数の国が連合を組みゲートの向こう側の調査隊を結成し挑んだ。しかし・・・どの部隊も帰っては来なかったのじゃ」


「もしかして・・・」


「そうじゃ。お主の父 黒田 大和やまと、そして姉の 黒田 巫女みこそれに加え大地君の両親そしてワシの息子。他にも多くの優秀な将校を日本から調査隊として送り出した」


「父さん・・・巫女姉・・・」


守の握る拳に力が入る。


「完全にワシの失策じゃ。すまん。殴りたくば、殴るがよい」


誠は頭を下げる。

その場に居た全員が驚愕する。


「・・・誠さん・・・。俺は・・・あなたを恨んでなんかいませんよ」


「良いのか? ワシはお主の父と姉を奪った張本人じゃぞ?」


「父さんも姉も死んでいません。・・・少なくとも母さんはそう思っています。だから墓も遺影も線香さえもあげません。誠さんもそう信じてるんでしょう?」


「勿論じゃ。ワシも信じておる。必ず生きて帰ってくる。そう信じたからこそ送り出したのじゃ」


「命拾いしたな守! てめぇがジジィを殴ろうとしたら、この縄どんな手使ってもぶっ千切ってぶっ殺す所だったぜ」


「これ。咲。お主は又物騒な事を・・・」


「あんたが止めなくてもこの小春様が止めてたわよ!」


小春は誠の横に立つ。


「あっ!? 小春てめぇ! じじぃの横は俺の指定席だ! さっさとどけ! てめぇから殺すぞ!?」


「私が咲に負ける訳無いでしょ?」


「ほっほっほ。ではワシはこれにて失礼するかのう。」


「ジジィは残れ! 他は死ね!」


があるのでな。咲。お主が完治したら出立するぞ」


「おおっ!? いよいよか!? 今からでも行けるぜ!? 早く行こうぜ新婚旅行!」


「違うがのう・・・。とにかく、しっかりと傷を癒すのじゃぞ」


誠はそういい残し部屋を去って行った。


「つーわけだてめぇらも消えろ」


咲に追い出された一同は廊下を並んで歩く。


「そういえば小春さんに聞きたかった事があるんですけど」


「なぁに?」


「俺、花子と出会ってからドラゴンの声が分かるようになったんですけど・・・理由とかってわかりますか?」


「うーん・・・。多分花子の方がドラゴンの言語を分かりやすく噛み砕いて話してくれてるから・・・じゃないかしら? それで今まで音として認識していた音が言葉に変換出来るようになった・・・とか? 詳しくは私にも分からないわね・・・」


「なるほど・・・そういえば花子の言葉は特別分かりやすいかも・・・ありがとうございます。・・・所で今日は花子は来てるんですか?」


「少し離れた場所に置いて来たけど来てるわよ? 会いたいの?」


「はい。良ければ」


「守君はドラゴンが好きなんだね~。普通の人は嫌がるのに」


「半分はドラゴンですから・・・?」


「うふふ。やっぱりおもしろいわね君。・・・そうだ。そんなにドラゴンが好きなら、ドラゴントレーナー目指してみない?」


突然の提案に守は戸惑う。


「・・・でもキャロルが日本でも10人位しか居ないし試験が難しいって・・・」


「ドラゴントレーナーの難しい所は、ドラゴンの生態知識とコミュニケーション。それと実戦試験だから、君ならある程度出来ると思うんだけど・・・。ま、とりあえずその一つ下のドラゴントレーナー補佐官の試験を受けてみたら? その試験ならそこまで難しくは無いし・・・」


「補佐官の試験も十分難しいんだぞ守。」


「え? そうなんですか氷雪会長」


「そんな事無いって~。ま、来年の4月位に試験があるから、駄目もとでも受けてみる事をお勧めするわ。守君になら・・・私が直接勉強教えてあげてもいいけど・・・?」


そう言って小春は守に肩を回し、さらに耳元で呟く。


「手取り足取り・・・ね」


妖艶な表情を浮かべる小春を守は引き剥がす。


「け・・・結構です!」


「あーん・・・。ケチ!」


「勉強は私が見ますので・・・な? 守」


「そういう事ですので! 大丈夫です!」


「仕方ないわね~・・・。ま。何か分からないことがあったらここに電話してね」


小春は一枚の名刺を手渡す。そこには小春の電話番号が書いてあった。


「ありがとうございます」


「それじゃあ、花子の所に行きましょう」


「はい!」




守達の去った咲の病室は静まり返っていた。


(ケッ・・・散々騒ぎやがったから、やけに静かに感じやがるぜ・・・縛られてちゃ天井のシミ数える位しかやることねぇな・・・)


その時、廊下の足音が近づいてき、咲の病室の前に立ち止まる。が、すぐさま来た道を戻り始めた。


「入れよ。卓雄」


扉の向こうの卓雄はビクつきながらも扉越しに言う。


「で・・・でもジジィ以外は入って来たら殺すって・・・・」


「この俺がさっさと入れっつてんだよ!」


「はいぃ!」


ドアが開き卓雄が入って来る。


「何で僕だって分かったのさ・・・」


「てめぇみたいなデブが歩くと床がきしむんだよ!」


「そんな・・・」


「んな事はどうでもいい・・・この縄を解け」


「駄目だよ咲姉・・・」


「解けっつってんだよ!」


「わ・・・わかったよ・・・」


卓雄は縄を解く。

咲はベッドから降り肩をグルグルと回し首を鳴らす。


「咲姉ちゃんは絶対安静って・・・」


「行くぞ」


「どこへ・・・?」


「剛兄ぃの所に決まってんじゃねぇか! お前が来ないでも俺は行く」


歩き出す咲の後ろを卓雄はしぶしぶついて行く。少し歩くと剛の病室へと到着した。

中へ入ると剛が酸素マスクをつけられたままベッドの上に横たわっている。

外傷の火傷は十字と森の治療のかいあってかそれほど目立たないが、目は覚ましていないようだった。

咲は剛の体に手を添え目を瞑り内部を探る。


「チッ・・・やっぱ完璧だぜ森先生はよう。ま、それも十字の応急処置あってだがな」


「・・・咲姉ちゃん・・・ごめんね。僕のせいで・・・。僕が最初から上級ドールを出していればこんな・・・」


「ウジウジすんじゃねぇ! こうなったのが、てめぇだけのせいだとでも言いてぇのか!? てめぇだけが悔やんでるとでも思ってんのか? あ?」


「・・・ごめん・・・」


咲は舌打ちをし、近くにあった椅子に腰掛ける。卓雄も椅子を出しその横に座る。


「・・・咲姉ちゃんは・・・昔から僕を守ってくれてたんだね。チームに誘ってくれたのもこんな僕を危険な目にあわせない為なんだよね・・・ごめん。今まで気がつかないで・・・」


「あ? 何気色悪い言ってんだ? 俺はてめぇの事おもちゃとしか思ってねぇし・・・。戦闘じゃ肉壁として少しでも役に立ちゃぁと思っただけだ」


「そう・・・。それじゃあ僕これからは肉壁一生懸命頑張るよ」


「勝手にしやがれ。」


暫くの間沈黙が流れる。


「うっ・・・」


剛の目がゆっくりと開く。


「剛兄ぃ!? 意識が戻ったのか!?」


「剛兄ちゃん!? 大丈夫?」


2人は立ち上がり剛の傍に寄る。剛は虚ろな瞳で2人を見つめる。


「おお・・・咲と卓雄・・・無事だったか・・・」


「てめぇに比べりゃ大した事ねぇよ・・・そうか・・・目覚ましやがったか・・・」


咲はシーツを握り締める。そのシーツの上に落ちた涙が吸い込まれていく。


「おいおい・・・折角生き返ったってのに、泣くんじゃない。いつものように生意気な顔しろよ。じゃないとお前らの笑った顔がもう一度見たくて、生き返った意味が無いじゃないか」


「うるせぇ! うるせぇ! 臭ぇんだよ・・・てめぇ・・・殺してやる・・・」


「咲姉ちゃん・・・」


「こっち見んな肉デブ・・・殺すぞ・・・」


「卓雄・・・良くやった。頑張ったな」


「ごめん剛兄ちゃん・・・僕のせいで・・・」


「お前のお陰だ。お前が頑張ったから俺と咲がこうして又会えた。ありがとな」


「剛兄ちゃん・・・」


「さ、お前ら。俺はこの通り大丈夫だ。咲。お前は自分の部屋に戻ってちゃんと養生しろ。卓雄はドールの修理があるだろう? 俺らが居ない間皆を頼んだぞ」


「わかったよ・・・!」


2人は揃って病室を後にした。

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