第67話 奮戦

卓雄はドールに咲と剛を抱きかかえるよう命令する。


「おい・・・肉デブ。てめぇ何しやがる・・・。さっさと降ろせ殺すぞ・・・」


その言葉にビクリと怯えながらもドールに命令を出す。


「そ・・・その2人を 氷雪 旋風 大尉の所まで運んでくれ!」


「畏まりました。・・・対象の位置を特定しました。行動を開始します」


メイドは大きく跳躍し、ビルの屋上を飛び跳ねながら旋風の元に2人を運ぶ。

旋風の所に到着したドールは2人をゆっくりと降ろし横に寝かせた。


「咲さん!?」


守は咲に駆け寄る。


「十字! もう報告はいい! 早くこの2人の手当てを!」


旋風の隣で報告をしていた長身に眼鏡をかけた男が慌ててかけて来る。


「・・・咲先生!? それに 神代 剛 大佐まで・・・。旋風! 火傷した皮膚の表面を凍らせてくれ!」


「わかった」


旋風は剛に手を当て、凍りつかせる。


「何だ十字か・・・こいつはツイてんぜ・・・。おいクソ眼鏡。先に剛兄ぃを治療しろ。俺は後でも死にはしねぇからよ」


「分かりました。咲先生・・・外傷以上に重症なようですが・・・。一体どういう事です?」


「うるせぇよ・・・ただのドラゴンの血を飲んだだけだ・・・。」


「!?・・・なんて無茶を・・・。血清は?」


「もう打ったに決まってんだろ・・・。俺は死なねぇって分かったろ・・・。だから先に・・・」


「分かりました・・・先に大佐の方を治療致します」


十字は剛の治療に入る。


前線から咲と剛の抜けた穴は大きく、暴れまわるクラス4戦龍型に1人、又1人と負傷し戦線を離脱していく。そんな中、卓雄はビルの陰に隠れ震えていた。


「あんなのと戦ったら・・・僕の可愛いドールが壊されちゃうよ・・・」


『神代 卓雄 大佐! 指示を・・・ガハッ!』


現在戦闘出来る最高位階級である卓雄に、指示を仰ぐ無線が入るが卓夫はそれを全て無視し、ただただ身を潜めていた。


(あの強い咲姉ちゃんも剛兄ちゃんも勝てなかった・・・僕なんかが勝てるわけが無いんだ・・・。大佐階級まで昇進したのも、より良質な龍鱗鉱がドールに使いたかっただけ。それだけなんだ。大体僕は咲姉ちゃんは苦手だ・・・。孤児院時代からずっと僕の事イジメてきた。特戦校に入学してからだって・・・)


その時、卓雄の隠れていたビルに火球が直撃し、その爆風で卓雄は地面に転がる。

地べたから、暴れまわるドラゴンを見上げながら卓雄は思う。


(ああ・・・何で僕はいつも地べた這いつくばってばっかりなんだ・・・。特戦校に入学しても上級生に目を付けられて、こうやって殴られて地面に転がされてたっけ・・・。その度に咲姉ちゃんが来て、『こいつは俺のおもちゃだ! 人のおもちゃで勝手に遊んでんじゃねぇ!』って上級生相手をボコボコにしてたな・・・。でも、その後その上級生にボコられていた方がマシだったと思うくらい、咲姉ちゃんに殴られるんだけど・・・)


「ははっ・・・」


卓雄はその時の事を思い出し何故か笑ってしまった。


(で、最終的に剛兄ちゃんが咲を連れて、同級生に謝ってくれたっけ。軍に入っても咲姉ちゃんが嫌がる僕を無理やりチームに加えて、一緒に無理やり出撃させられた・・・。)


そこで卓雄はやっと気がつく。


「そうか・・・咲姉ちゃんはずっと・・・僕を守る為に・・・それなのに僕は・・・」


卓雄は地面に付いた手を握り。そして立ち上がってマイクに言う。


『せ・・・戦闘中の人は・・・負傷した仲間の救助に回って・・・くれ! 僕が・・・僕が食い止めるから・・・!』


その指示を受け、戦闘中だった少佐達は救助に切り替えた。

卓雄は背負っていた箱を地面に下ろし扉を開く。その中には美しい青髪の女性が立っていた。

卓雄が声を掛けると、その目に青い光が灯る。

それと同時に咲と剛を運んだメイドのドールが、糸を切られたかのように力なく地面に倒れこんだ。


(ケッ・・・やっと上級ドールを出しやがったか・・・遅せぇんだよ卓雄・・・)


箱の中からゆっくりと歩み出た後、同じく箱の中にあった大きな二本の大きな剣を取り出す。


「お早うございますご主人様。今日はお風呂にしますか? ご飯にしますか? それとも・・・」


「・・・設定が日常のままだった・・・。えっと、フレイ。・・・戦闘モードに変更だ」


「戦闘モードへ移行します・・・。完了しました」


卓雄は箱の中からゲームのコントローラーと機械式のゴーグルを装着した。


「コネクト!」


フレイの視界が卓雄のゴーグルの中に投影される。


「行くよ! フレイ!」


フレイは勢い良くドラゴンの方へ走り出す。それに気が付いたドラゴンは火球を放つ。フレイ瞬時に横に移動しそれを交わしつつ、ビルを蹴りながら駆け上がる。

屋上へ登ったフレイはビルを蹴り飛ばしその勢いでドラゴンに接近しようとするが、ドラゴンの鋭い爪が襲う。瞬時に脚から圧縮した空気を放出し、軌道を変えそのまま勢い良くドラゴンの瞳に剣を突き立てた。


ドラゴンは悲鳴を上げるもすぐさまフレイを振り払った後、闇雲に腕をや尻尾を振り回しはじめた。

その無作為の一撃がフレイへ命中し両手の剣でガードするも、そのまま地面へと叩き付けられてしまった。


「ああ!? 僕のフレイがに傷が!?」


何とか立ち上がるフレイだったが、片方の腕が激しく損傷し力無く垂れ下がっていた。


「被害報告。左腕損傷。制御出来ませんので切り離します」


フレイの左腕が肩の部分から外れ地面に落ちる。

ドラゴンはひとしきり暴れた後、残った片目でフレイを捕らえ、勢い良く突進を始めた。


(しまった! あの方向はには咲姉ちゃん達が居る・・・。避ければそのままビルへと突っ込んでしまうし方向を変程の威力の武器は持って居ない。いや、ある! でも、でも、それじゃあ・・・ッツ! 迷っている暇は無い!)


「フレイ! 前進だ!」


フレイは向かって来るドラゴンに向かって跳躍した。それをドラゴンは大口を開け迎え撃つ。フレイは足のブーストを使って加速し、そのまま口の中へ飛び込んだ。


「ごめんよ・・・フレイ・・・。又・・・絶対蘇らせてあげるからね・・・」


卓雄がボタンを押すと、ドラゴンの口の中で大爆発が起き、その巨体が音を立て崩れ落ちた。


「・・・フレイ~・・・ううっ・・・」


余りのショックに座り込みむせび泣く。


「うう・・・そうだ・・・咲姉ちゃん達は・・・」


卓雄が立ち上がったと同時に背筋に寒気を感じ振り返る。そこには全身ボロボロになりながらも立ち上がるドラゴンの姿があった。


「ヒイッ!?」


卓雄は尻餅をつき、そのままズリズリと後ずさる。

ドラゴンは卓雄に向かってゆっくりと近づきそして、爆発によって全ての牙が砕けた口を開け卓雄に襲い掛かる。


「うわああぁあ!」


しかし、その直前で何かに絡めとられたかのようにドラゴンの動きがピタリと止まった。

卓雄は立ち上がり全力で走り逃げ去ろうとするが、その前に一人の女性が立ちはだかる。


「・・エレナ先ぱ・・・少将!? って事は!?」


ドラゴンの前にアリーチェと誠、が降り立つ。


「やった・・・! 援軍が来たんだ! 助かった・・・ッブッ!」


突然エレナに殴られ、卓雄は地面を二転三転し転がって行く。


「卓雄! アンタ・・・又逃げてばっかりいたんだろ!? そのせいで咲と剛先輩が重症を負ったんだぞ!? 分かってんか!? この・・・役立たず!」


殴られた頬を押さえながら、卓雄は言い返そうとする。


「ぼ・・・僕はちゃんと・・・」


(いや・・・何を言っても無駄だ・・・実際僕は、今まで逃げてばっかりだったんだから・・・)


「ごめんなさ・・・」


その時、突然エレナが横に吹っ飛びビルへと激突する。


「イテテ・・・誰だ!? 何しやがる!?」


そこには肩で息をしながら立っている咲の姿があった。ふらつく咲を旋風が支える。


「咲!? 良かった・・・無事だったのか・・・」


「おい。エレナてめぇ・・・誰の許可があって肉デブ殴ってんだ? あぁ? 肉デブは俺のおもちゃだって言ってんだろうが!」


咲の姿を見た卓雄は立ち上がり駆け寄る。


「さ・・・咲姉ちゃ~~ん!」


「気持ち悪ぃんだよ!」


卓雄の腹に咲の蹴りが入り、卓雄は再び地面を転がりそして・・・動かなくなってしまった。


誠は咲に歩み寄りその頭優しく撫でる。


「すまん・・遅くなってしもうた。良く頑張ったな咲」


撫でられた咲の口元が緩み、顔が赤く染まる。


「ジジィ・・・その・・・何だ・・・。今回頑張ったのは俺だけじゃ無ぇ・・・。あの肉デブがここまで追い詰めやがったんだ」


アリーチェとエレナは驚く。


「分かっておる。大切にしておるドールを使ってくれたんじゃな」


「だからよ・・・俺様の百分の一位でいいから目を覚ましたら・・・褒めて・・・やれ・・・」


咲ふらつき倒れそうになるが、それを誠が受け止める。


(ワシが褒めるより、お主が褒めた方が喜ぶと思うがの・・・)


エレナはばつが悪そうな顔そして頭をかく。


「・・・卓雄には悪い事言っちまったなぁ・・・。後でちゃんと謝るか。・・・所でよ・・・旋風の隣のピチピチスーツにマスク被った変態は一体誰だ・・・?」


「僕です」


守はマスクを外す。


「げっ!? 守かよ!? お前・・・変な趣味してんなぁ・・・」


「これ、作ったのキャロルなんですけど。」


「・・・なるほど。道理で変な訳だ」


「あの子は変わってますものね」


アリーチェもクスクスと笑う。


「とりあえず。後始末をしましょう」


アリーチェはマイクのスイッチを入れ全体に指示を出す。


『皆様お疲れ様でした。負傷した者は手当てを、それ以外の者は負傷者の捜索、及び部外者の取り押さえをお願いします。』


「さ、私らも行くぞ。守」


「はい」


作業は順次進行し多数の負傷者、そして一般人の死者を出し終結した。

その日行われた記者会見で、誠は今回の責任を厳しく追及される事となった。

会見が終了し、アリーチェと共に会場を後にした誠は廊下を並んで歩く。


「相変わらずこの国は腐ってますね。神代 元帥」


「腐っておるのは一部の人間じゃ。腐った人間の相手をすれば同じく腐る。それは老い先短いワシがの仕事じゃ。・・・お主は腐るでないぞアリーチェ。」


そこへ前から中年男性が近づいて来る。


「おお。これはこれは 神代 元帥殿!・・・それに 大久保 アリーチェ 中将! いやはや相変わらず実にお美しい」


「これは黒内くろうち法務大臣殿。ご機嫌如何かの?」


「おかげさまで、最近良い事がありまして、すこぶる良好ですよ」


「ほっほっほ。それはそれは。ではワシらは急ぎますので。これにて」


「そうですか。所でアリーチェ殿。後でワシの部屋に来ませんかな?」


黒内はアリーチェに近づき、その右手をアリーチェの尻へ伸ばす。

しかし、その手は途中で止まり手首から血が滴り落ちる。


「あら、これは申し訳ありません。本日戦闘に出ましたので糸を張ったままでした」


アリーチェはそう言って糸を回収する。


「クソッ・・・!」


黒内はその手首を押さえ後ずさり、不気味な笑みを浮かべる。


「・・・それでは今回の被害報告との方頼みましたぞ」


そういい残し、廊下を早足で立ち去って行った。


「大丈夫か? アリーチェ。すまぬ不快な思いをさせたのう」


「あら? わたし何かされました?」


「ほっほっほ。では行くかのう」


「お供いたしますよ。どこまでも」


2人は長い廊下を再び歩き始めた。

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