第66話 窮地
授業中サイレンが鳴り響き、緊急放送が入る。
『東京第1ゲートにてクラス3戦龍型ドラゴンの出現が確認されました。少尉以上、少佐以下の者に加え、待機中の少将1名、大佐2名は戦闘準備を整え現地へ急行して下さい』
守は慌ててスーツを着用する。
「おい、守。あれ」
大地が指差す先には窓の外で手招きしている旋風の姿があった。
旋風は窓を開ける。
「守。行くよ」
「分かってますよ!」
守はスーツに着替え、教室の窓に脚をかける。
「急ぐ。運んでくれ」
旋風は両手を前に差し出す。守はその両手を掴み羽を広げ飛び立った。
「守君・・・大丈夫かな・・・」
「心配すんなって千里。氷雪会長がついてる」
第一ゲート付近に到着した守達は、上空に立ち上る煙の方向へと向かう。
既に生徒、そして軍の上官が戦闘を始めていた。
「奇襲をする。私を抱きかかえて上空でホバリングをしてくれ、・・・さぁ行くよ雪童子出ておいで」
雪童子と同化し真っ白に染まった旋風は白い扇子を2つ取り出す。
その扇子を交互に振ると上空に氷の塊が出現し、回数を重ねる毎にその塊は大きくなっていった。
「【
旋風は両手の扇子を下へと振り下ろす。するとその巨大な氷の塊は勢い良くドラゴンの頭部命中する。頭部からはおびただしい量の血液が噴出し、ドラゴンは咆哮を上げふらつく。が、すぐさま標的を上空の旋風に定め、青いプラズマの火球を放つ。
「守。頼む」
守のそれに向けて火球を放ち、2つの火球は衝突し爆音と共に消滅してしまった。
「っち・・・あのガキやるじゃねぇか。余所見してんじゃねぇよデカブツ!」
哲也は竜巻を纏った拳で隙の出来た脚に思い切り殴りかかる。その拳は分厚いドラゴンの鱗を砕きながら突き進む。しかし同時にドラゴンの爪が哲也を襲う。
「チィッ!?」
ぶつかる寸前で哲也は何かに絡み取られ直撃をまぬがれた。
「余計な事すんじゃんぇよ
「油断してるからでしょうが! この脳筋!」
律は手に持った鞭を操作し、哲也を遠くのビルの屋上に投げ飛ばした。
哲也はビルの屋上の手すりを掴み着地する。
「ッチ・・・律の奴わざと荒く下ろしやがって。」
文句を言う哲也の後ろに1人の女性が立っていた。
「おい、ガキが油断すんじゃねぇぞ。てめぇみたいに調子に乗って怪我した奴は治さねぇからな」
「誰だてめ・・・」
咲の姿を見て言葉を失う。
「あ? 何だその態度は? 今すぐ死にてぇのか?」
「いえ・・・」
「サボってねぇでさっさと前線に戻れよボケ」
咲は哲也の襟首を掴みドラゴンに向かって投げ飛ばす。哲也はそのままドラゴンの胸辺りに激突し、地面に落ちる寸前で風を使い地面に降り立つ。
「でたらめしやがる・・・」
屋上に立つ咲はドラゴンでは無くゲートの方を見つめていた。
「どうした? 咲。」
同じく屋上にいた剛が歩み寄る。
「わかんねぇのか筋肉デブが。嫌な空気が流れて来てやがる。おい。万が一に備えて救援を要請しておけーーー」
突然場の空気が一変し、ゲートの周りがバチバチと音立て始めた。
「やべぇなこりゃ」
ゲートの中からドラゴンの頭部が徐々に現れる。
咲はエマージーシークラッカーを弾けさせ、ポケットから小型のマイクを取り出しスイッチを入れる。
至る所に設置されたサイレンが鳴り、回転灯が赤く点滅する。
『おい! てめぇら! クラス4おそらく戦龍型まで現れやがった! クラス3の方は旋風! てめぇが生徒の指揮を執って何とかしろ! 少佐は俺の指揮下に入りクラス4にかかれ! 俺は【壱】回線を使う! 旋風の指揮下は【弐】回線に切り替えろ!』
設置されたスピーカーを通して咲の声が町中に響き渡る。
生徒達はインカムの周波数を弐に切り替えた。
「ッチ・・・剛はともかく、一緒に出撃してるのが肉デブの
『おい! 肉デブ! てめぇ【ドール】を出して援護しろ!』
『嫌だよ咲姉ちゃん! 僕の可愛いドールが傷ついちゃうよ~』
『いいからさっさとしろ! 肉デブ!』
「俺は先に行って食い止めておく」
剛はガチャガチャと鎧を鳴らしながらビルから降り、盾を構え咆哮を上げ挑発する。
咲は手に持ったアタッシュケースのボタンを押す。するとアタッシュケースだった物が見る見る変形し、槍のような形状に、上下どちらにもメスのような刃のついた武器が出来上がった。
(俺は元々攻撃型じゃねぇ・・・援軍が来るまで約15分。この戦力で耐えるしかねぇな)
『おい! てめぇら! 敵の攻撃は剛が全て引き付ける! その間に総攻撃を仕掛けろ!』
咲もビルの屋上を次々と飛び越えながらドラゴンへと攻撃を開始する。
「守。もういいどこか高いビルに降ろしてくれ」
守は近くにあったビルの屋上に旋風を降ろす。
『皆、聞いてくれ。先ほど聞いた通り、私が指揮を執る。生徒会役員、及びのそパートナーは前線に立ってくれ。その他はアシストと人命救助を頼む』
「守。君も前線へ向かってくれ・・・どうした守?」
守はドラゴンを見つめながらブツブツと呟く。
「・・・違う。クラス3はあのドラゴンと同じく迷い込んだ・・・でもあのクラス4の方は・・・」
「守!」
旋風の大声に守は我に返る。
「聞いていたかい? 君も前線に向かってくれ」
「はい!」
守は翼を広げ前線へ飛び立つ。
「そこをどけ一年坊!」
その声と同時に無数の銃弾が飛来する。守は慌てて旋回し回避した。
銃弾は分厚いドラゴンの鱗を砕く。
「はーっはっは! どうだこの私の発明した【
両腕に大きなガトリングガンを装着した少女が高笑いをあげている。
ドラゴンは悲鳴を上げながらも火球をその少女に向かって放つ。
「わわ! 無理無理!」
「どいて姉さん。」
隣に立っていた大砲を身につけた1人の少女が構える。引き金を引くと同時に大きな弾が発射され、ドラゴンの放った火球と衝突し爆発し相殺した。
「ちょっと!?
「うるさいなぁ律は・・・はいはいわかりましたよーっと」
「ごめんね」
彩弓は守に向かってペコリと頭を下げた。
そこへドラゴンの大口が姉妹を襲う。守は咄嗟にその口を上から蹴り、無理やり地面にねじ伏せた。
「大丈夫ですか先輩!?」
守はドラゴンの口の上に飛び乗る。
「おお・・・ありがとな」
屋上にいる旋風に通信が入る。
『旋風。ドラゴンの周りに一般人の気配は無い。どうやら皆避難したようだ。』
『わかった。ありがとう秀人』
『皆! 守を置いて後方へ避難してくれ! 守はシールドを展開しドラゴンを逃がすな。そのまま凍らせる』
旋風の指示で生徒たちは後方へと飛びのく。
(逃がすなもなにも、もうこいつ・・・動けないほどに・・・)
生徒達のも猛攻を受けたドラゴンは虫の息になっておりもう、動く力も残っていないようだった。
残った守はドラゴンに話しかける。
「ごめんな。俺にはどうする事も出来ないんだ」
「コロ・・・シテ・・・」
「そうか・・・」
『氷雪会長! 痛みの無いよう一瞬で殺してやってください!』
『わかっている』
徐々に守ごと冷気の渦が包み込み、ドラゴンは瞬時に凍り付いて動かなくなった。
そこへ突然、咲がものすごいスピードで弾き飛ばされてきた。
それをかろうじて受け止める守。しかしその勢いに押され後方のビルへと激突する。
「咲さん! 大丈夫ですか!?」
咲の服はボロボロになっており、苦戦している事が伺えた。
「ケッ! 誰にもの言ってんだ! 殺すぞ!」
そこへ旋風が後方から飛んで来、横に立つ。
「神代少将 クラス3討伐完了しました。指揮権をお返します」
「馬鹿かテメェら! 終わったらさっさと後方へ下がれ! 巻き込まれるだろうが!」
「失礼しました。守。下がるよ」
『ガキ共は後方に下がって支援に回りこぼれ待ちを近づけさせるんじゃねぇ! それとぜってぇ前に出てくるんじゃねぇぞ!』
咲の命令に生徒達は後退を開始する。
「咲さん! 俺も一緒に戦います!」
「旋風! さっさとその馬鹿を連れて下がれ!」
「俺だって戦えます!」
咲は守の胸倉を掴み睨みつける。
「戦えるとかそんな問題じゃねぇんだよガキが! 俺は、てめぇら学生なんていくら死んでもどうでもいいんだよ! でもよ・・・てめぇらが死んだら・・・ジジィが悲しむだろうが!」
悲痛にも似た表情を咲は守に向ける。
旋風は守を抱きかかえ後方へ跳躍した。
「氷雪会長!? 離して下さい!」
「守。君も軍人なら上官の命令に従うんだ。今は神代少将を信じよう。それに、こぼれ待ちを処理するのも軍にとって重要な仕事だ」
「クッ・・・」
悔しそうにする守を旋風はビルの屋上に降り立ち、放す。
「旋風会長・・・咲さんも言っていたこぼれ待ちって一体何なんですか・・・? 近づけさせないって何を?」
「ほらあれだよ」
旋風が指を差した先には暴れ回るドラゴンの方へと走っていく中年男性がいた。それを哲也が取り押さえる。
「あの人・・・軍関係者じゃ無いのに・・・一体何を考えて・・・!?」
「あれが、こぼれ待ちさ。主に多額の借金を背負わされた人で、戦闘で落ちた龍鱗鉱を拾い闇で売り借金返済に充てるか、死んで国から出た弔慰金で完済するしかない崖っぷちの人達の事を指す言葉さ。」
「自分の命を捨ててまで借金を・・・」
「守。君は何かこの軍の体制はおかしいと感じた事は無いかい?」
「おかしい・・・? おかしいかどうかは分かりませんが、学校がどのゲートからも一番遠い位置にあるから、もっと近くに建てればもっと対処出来ると思う・・・位ですかね」
「近いね。本来ならイレギュラーを除いてドラゴンの出現するゲートはほぼ動かない。そこに優秀な戦闘員もしくは重火器を配置し対処する。これが効率的だと思う。でも出来ないんだ。」
「なぜです?」
「・・・許可が下りない。議会で認可されないんだ。つまり・・・議員の中にこのこぼれ待ちを主導し私腹を肥やしている人達がいるって事さ。」
「腐ってますね・・・。誠さんは何も言わないんですか・・・。」
「勿論努力はしているさ。しかし力が大きすぎる。それにそのこぼれ待ちの子供など身寄りの無い子供達をを神代チルドレンとして受け入れている。国家予算からその子達の生活費を工面しているから、その弱みに付け込まれているんだと思う」
いつも冷静な旋風が今まで見たことも無いくらい怒りに震えていた。
「一体子供の命を何だと・・・」
「氷雪会長・・・」
咲は武器をクルクルを回しながら構える。
「大丈夫か?」
咲の横に剛が降り立つ。その鎧と盾は黒く焦げ、所々から煙が出ていた。
「おい筋肉デブが。壁がサボってんじゃねぇぞ。つーかてめぇこそ焦げてんじゃねか」
「今は卓雄のドールと少佐達が時間を稼いでくれている。」
暴れ回るドラゴンに絶えず攻撃を加える少佐達の中に、1人だけメイド姿の女性が混じっている。
「あの肉デブ! 下級ドール使ってやがんのか!? この非常時に・・・」
「仕方がないだろ。宅雄はそういう性格なんだ。もう一度俺が引き付ける。頼むぞ。咲」
咲はポケットから赤い液体の入った小ビンを取り出し、栓を抜き飲み干した。
「咲・・・なんだそれは」
「うるせぇ。ただの滋養強壮剤だ」
「危ない薬じゃないだろうな」
「ドラゴンの血をベースに薬草混ぜて作った薬だ。死にゃあしねぇよ。」
「・・・今回だけだぞ。今度からそんな物飲むんじゃない」
「うるせぇな。いいから早く行って来い!」
剛はガチャガチャと音を立てながら前線へと走り去る。
咲の体から湯気が立ち上り、目が真っ赤に充血する。
(ッチ・・・体が造影剤入れたみてぇに熱ちぃな・・・。まぁこれで何とかするしかねぇ)
咲はしゃがみ一気にドラゴンへと飛び掛る。ドラゴンもそれに気がつき、その鋭い爪を咲に叩き付ける。
「おらよっ!」
咲は手に持った武器をで切り上げ指ごと切断し、悲鳴を上げるドラゴンをよそに、そのまま腕を駆け上がり脳天目掛け思い切りメスを突き立てた。が、脳を貫くには至らずドラゴンは思い切り首を振り、咲を振り落とす。
空中で体制を建て直し何とかビルの屋上へ着地する。
「ッチ・・・武器が・・・」
咲の武器はドラゴンの頭に刺さったまま取り残されてしまった。
咲に狙いを定めるドラゴン。
「こっちだ!」
剛は咆哮を上げ挑発する。
ドラゴンはターゲーットを剛に変え、突進を始めそしてそのまま大口を開け、その鋭い牙で剛に食らいつく。
(こいつ・・・火球が効果が薄いと学習しやがった!?)
「
その時、剛は自らドラゴンの口の中へ飛び込んだ。その口が閉まると同時にドラゴンの眉間辺りと顎の下から刺のような物体が皮膚を突き破り、大量の血が回りに飛び散る。
(これが、新技術のクラス5の龍鱗鉱の形状変化か・・・面白い!)
口の中では剛の持った盾が刺状に変化していた。
「おい! 剛兄ぃ! そいつまだ死んで無ぇぞ!」
ドラゴンは口の中に火球を作り出し始めた。ドラゴンはその火球ごと剛を吐き出し、剛はそのままビルに激突した。鎧は真っ黒に焦げ剛はピクリとも動かない。咲はビルから飛び降り自分の手が火傷するのも構わず、鎧を脱がす。
「おい! 筋肉デブ! 返事しやがれ!」
咲の呼びかけにも剛は返事をしない。
(やべぇな・・・とにかく治療を・・・)
だが、間髪いれずにもう一度火球が襲う。
「チィッ!?」
直撃寸前の所で2人はメイドのドールに抱きかかえられ、その場を脱した。
「咲姉ちゃん! 剛兄ちゃん! 大丈夫!?」
後方から大きな箱を背負った小太りの男がドスドスと駆け寄る。
「クソ肉デブが・・・さっさとそのポンコツドールで、こいつを後方へ・・・運び・・・やが・・・」
咲は突然地面に倒れ込んだ。
「咲姉ちゃん!?」
「いいから・・・剛兄ぃを運べ・・・俺が食い止めるからよ・・・」
咲は武器を杖代わりに何とか立ち上がるが、その脚は今にも崩れ落ちそうだった。
「無理だよそんな体で!」
「てめぇのポンコツドールよりか使えるだろ・・・。それともてめぇがどうにかすんのか? あ?」
咲の言葉に卓雄は言い返せず下を向く。
一方、ドラゴン出現を受けた誠・アリーチェ・エレナ。それに少将・大佐数名がドラゴンに乗って現場に急行していた。
ドラゴンに跨る誠は腕を組み、指をトントンとしきりに動かし落ち着かない様子だった。
「神代元帥・・・大丈夫ですよ! あの咲がそう簡単に・・・それに剛先輩も付いています・・・」
「エレナ」
アリーチェの一言にエレナは口を噤む。厳しい状況にあることはエレナも十分に分かっていた。
「卓雄・・・」
誠は呟く。
「卓雄君ですか・・・降格対象になっているそうじゃないですか。出動しても戦闘に積極的に参加せず主に救出や牽制ばかりを行っているという事ですが・・・。彼には期待するような、何かがあるのですか?」
「うむ・・・」
「卓雄!? 卓雄に期待してるんですか!? 特戦校の時もいつもイジメられてて、いつも咲が役に立たねぇ肉デブって言ってましたよ!? 私の目から見ても突出した能力は・・・」
「エレナ。言いすぎですよ」
「アリーチェ御姉様・・・私は咲が心配なだけなんだ! もしもの事があったら・・・」
エレナは手に持った斧を握り締める。
「今は信じるしかないですよね神代元帥?」
「うむ」
そこへ軍からの通信が入る。
『現在の状況を
そこで通信が途絶えてしまった。
「もっと速度をあげるのじゃ!」」
誠は立ち上がり指示を出す。
(無事であってくれ・・・)
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