第64話 何かが欲しい人・何かをあげたい人
武活も終わり、家に帰る守。そこで、家の前に誰かが立っているのを見つける。
「・・・キャロル? どうした何か用か?」
「行きますわよ」
「は?」
「いいから・・・家まで送って下さいまし」
歩き出すキャロルの後から付いて行く守。
キャロルの家につくまで、ひと言も言葉をかわす事は無かった。
家の前で立ち止まるキャロル。
「キャロル・・・?」
突然キャロルは勢い良く反転し、守へと殴りかかってきた。
顔面に飛んできた拳を、守は慌てて手のひらで受け止める。
「なっ・・・何すんだよキャロル! あぶねぇだろ!」
「・・・本当に強くなりましたわね」
「お前のおかげだよ」
「守。皆を頼みますわよ」
「・・・どういう意味だ?」
キャロルは守に向き合い真剣な表情をする。
「わたくしは明日をもちまして、この学校から転校いたしますわ」
守は突然のその言葉に動揺を隠せない。
「な・・・何言って・・・意味わかんねぇだろ」
「わたくしの実力ではもう、この学校での昇級は叶いませんの」
「・・・試験結果の事気にしてんのか? 次があるだろ!? 鍛えれば又・・・」
「先ほど貴方に放った一撃が今のわたくしの全力ですわ。貴方が今片手で受け止めたその威力は守から見て通用しますの?」
守は何も言い返せない。
「だからって・・・転校する事無いだろ。大体、実力不足って言うんなら転校しても昇級できねぇだろ・・・」
「わたくしが転校するのは、京都にある幹部候補生を育成する士官学校ですわ。その学校では戦力よりも戦略に特化した教育が施されますの。戦闘主義の特戦校とは逆の評価体制になってますわ」
「つったって・・・卒業まで二年半もあるんだぞ!?」
「普通に行けばそうですが、優秀な士官を早く輩出するため、飛び級システムが採用されておりますの。勿論普通に卒業するのでさえ難しい学校ですので、そう簡単にはいきませんが・・・」
「・・・どうしても行かなきゃ駄目なのか? 学校に残れば一緒に居れるじゃねぇか・・・」
「このまま学校に残ればわたくしは留年するでしょう。それとも一緒に留年して足手まといにでもなれと?それはただの守のエゴですわよ」
守は目を伏せ、キャロルから視線を逸らす。
「・・・守。寂しいのはわたくしも一緒ですのよ。わたくしだって・・・出来る事なら転校なんてしたくないですわ。ですが、このままでは一緒に居る事は出来ても、肩を並べて立つ事は出来ませんの。分かってくださいまし」
「・・・」
拳を握り下を向いている。
キャロルは少し歩み寄り、そっと守の手の中に何かを握らせた。
開いた手の中には金色の髪の毛のついたキーホルダがあった。
「これは・・・」
「何かを欲しがってましたでしょう・・・? わ・・・わたくしには、あのクラス5の篭手をを越える物は作れませんの。わたくしだって貴方に何かを差し上げたいですわ。でも・・・今のわたくしには貴方に差し上げられる物なんて・・・そんな物しか・・・ひぇっ!?」
守は突然キャロルに抱き着く。
「ままま・・・守!?」
キャロルの顔が真っ赤に染まる。
「・・・待ってるからな」
キャロルもゆっくりと守の肩に手を回す。
「ええ。最速で試験をクリアして戻って来ますわ。わたくしを誰だと思ってますの」
どちらからともなく離れる2人。
「・・・あなたこそ帰って来るまで死ぬんじゃありませんわよ」
「ああ。お前が帰って来るまでは何があっても生き延びて見せる。約束だ」
守は拳を前に突き出す。
「約束ですわよ」
キャロルもその拳に合わせた。
翌日。武活動の始まる前、キャロルは武活のメンバーに加え、剣とエルダ。それにあらかじめ呼んでおいた太と旋風を集め、自分が本日付けで京都の士官学校へ転校する旨を伝えた。
「う・・・嘘だよねキャロルちゃん!? 転校なんてしないよね!?」
「本当ですわ。今から迎えに来るヘリで神代校長と共に京都へ向かいます」
「うっ・・・うっ・・・折角仲良くなれたのに・・・」
千里はその場に座り込み泣き崩れる。
「ドスコイ・・・」
太は千里にハンカチを渡す。
「キャロルお姉ちゃん行っちゃ嫌ですよ・・・うぅ・・・」
楓も同じく泣き始めてしまった。
旋風は一歩前に出てキャロルの前に立つ。
「キャロル。君はその道を行く事に決めたんだね。正直寂しいけど、私は応援するよ」
「ええ。氷雪会長。学校での皆の事。そして・・・守の事をよろしくお願い致しますわ」
「了解した。」
「姫! やはり考え直してください!」
「剣。貴方には昨日伝えてあるはずですわ」
「し・・・しかし・・・。ならば私もその学校へお供します!」
「くどいですわよ。剣にはEチームと共に行動する事を申し付けたでしょう」
剣は悔しそうに歯をかみ締める。
「守。お前の反応を見るに、お前は知ってたんだな」
「俺も聞いたのは昨日だ。キャロルには言うなって言われてたんでな・・・すまんな大地」
大地は小さく息を吐く。
「で、お前は納得したのか?」
「ああ」
「そうか・・・。なら、笑って見送ってやるしかねぇな!」
大地は守の肩を叩きながら笑う。
「大地・・・」
「頑固なキャロルが一度決めたことを曲げる訳ねぇからな! さ、皆も隊長の決定には素直に従おうぜ」
キャロルは大地の前に立つ。
「大地。わたくしが不在の間Eチーム隊長の権限を貴方に預けますわ」
大地は自分の胸をドンと叩く。
「確かに預かったぜ」
大地の横に立っていた沙耶がキャロルに本を渡す。
「この本は・・・?」
「辛くなった時。悩んだ時に読んで。私貰ってばっかりだったから。それあげる」
「大事な本を・・・ありがとうございます。沙耶、皆を頼みましたわよ」
「分かってる」
「ほっほっほ。キャロル君。皆との別れの挨拶は済んだかの?」
「神代校長と咲さん・・・って後ろの方々は何ですの?」
誠と咲の後ろには【参神】と【金剛拳】のメンバーがいた。
「すまんのう。優香君との立ち話を妙君に聞かれてしもうてのう・・・皆に広まってしもうたのじゃ」
「キャロルっちー! 転校するなんてやだよう・・・!」
妙はキャロルに抱き付き、泣きじゃくる。
「ちょっ・・・ちょっと妙! ああっ! もう! 鼻水がつきますわ!」
「この鼻水を見て私の事、時々は思い出してね~・・・ぐじゅ」
「やめんか妙! 汚いだろ!」
聖と三四郎に両腕を摑まれ引き剥がされる。
「しかし、驚いたぞキャロル! まさかお前が士官学校にな・・・まぁお前なら大丈夫だろ! ガハハ!」
聖は大口を開けて笑う。その唾がキャロルに飛ぶのを見かねて三四郎が口を手で塞ぐ。
「聖。 お前も十分汚いぞ。 キャロルお前が士官になって帰って来たら俺達も部下に加えてくれ。俺らは揃ってお前の部隊を希望する。そう皆で話し合った」
唾と鼻水と涎を拭いていたキャロルは驚く。
「なっ!? 僕は聞いてないぞ妙!」
「だって司さんは絶対反対するもん」
「反対・・・しない。僕もキャロルの実力は買ってる」
「流石司さん! 背は小さいけど心は大きいのね!」
妙は司を抱きかかえほおずりする。
「小さいは余計だ!」
「なるほどな・・・その話俺も乗った!」
仁は思い立ったように言い放つ。それに対しコロは声を荒らげる。
「ちょっ・・・ちょっと何勝手な事言ってんのよ!? この私がこのキャロルの部下なんてごめんだわ!」
「そうか・・・なら俺だけ・・・」
「何でそうなるのよ!? わかったわよ! 好きにすればいいじゃない! どうなっても知らないんだからね!」
コロは腕を組みそっぽを向いて拗ねる。
「・・・で、お前らはどうする? アリシャ、ヴァレ」
「ご主人~・・・どうします~・・・?」
そう言いながらヴァレはチラチラと仁の方を見る。
その姿を見ながらアリシャが言う。
「ふん。いいわ。乗ったげる。でも、この私に一切命令なんてするんじゃないわよ! あんたにつくのは私が自由に行動する為なんだから!」
アリシャはキャロルを指差した。
「・・・いいですわ。戻ってきたら皆揃ってわたくしの部下にして差し上げますわ! 覚悟しておいて下さいまし!」
そう言い放つキャロルはいつもの堂々とした自身に満ち溢れた表情をしていた。
「キャロル携帯貸してくれよ! 集合写真撮ろうぜ」
大地はキャロルに手を出す。
「写真なんて・・・」
「いいからいいから」
「ほっほっほ。どれ、ワシが撮ってやろう」
キャロルから携帯電話を受け取った誠は少し離れた所に立つ。
「しかし、撮るとは言ったものの・・・どのボタンを押せばいいのじゃ・・・?」
「見せてみろよジジィ。これだぜこれ、これをを押してカメラを起動して」
「どれ・・・」
カシャっという音と共にフロントカメラで撮影がされ、携帯をのぞき込んでいた誠と咲が撮影された。
「何やってんだよジジィ・・・。って俺とジジィの2ショット・・・いい写真じゃねぇか! 後でキャロルに送らせよう」
「おっ。今度はちゃんと皆が映っておる。」
「それでいいんだそれで」
誠は携帯を構える。
「皆、待たせたな。では撮るぞ。3・2・1」
シャッターを切る寸前で、大地はキャロルと守の肩に手を回しくっつける。
カシャッ!
「神代校長と咲さんも入って下さいよ!」
大地が呼ぶ。
「やだよ! 何で俺がてめぇらと・・・」
「うむ。ではお邪魔させてもらおうかのう」
「撮るのか!? なら・・・おい! てめぇら真ん中は俺とジジィが立つから避けろ!」
咲がシッシと手を振り中央を開けさせる。
「では、今度は私が撮りましょう」
優香が誠と交代しカメラを構える。
「では撮りますよ~3・2・1」
カシャッ。
キャロルは携帯を受け取る。
「ふむ・・・迎えが来たようだの」
上空から向かえのヘリがゆっくりと下降してくる。
守はキャロルに駆け寄り、小さな袋を手渡す。
「これは?」
「これは俺が大切にしているお守りのような物だ。持って行ってくれ」
「大事な物なら受け取れませんわ!」
「大事な物だからだ。俺はお前にあげられる物なんて持ってない。だから大事にしているこれを受け取って欲しいんだ」
「・・・分かりましたわ。ありがとう守」
「元気でな。連絡するよ」
「ええ。貴方こそ。では」
キャロルはヘリに乗り込む。ヘリは砂埃を巻き上げながらゆっくりと上昇しそのまま飛び去って行った。
「キャロル・・・行っちまったな。守」
「ああ・・・」
「何だ守? 泣いてんのか!? 情けねぇな・・・」
「・・・お前こそな」
大地も同じく涙を流していた。
ヘリの中、キャロルは守に渡された小さな袋を開け、中にあった物を取り出す。ビー玉位のその球体はこの世の物とは思えないほど、美しい輝きを放っていた。
それを見た瞬間、キャロルの顔色が変わる。
「こ・・・これは・・・【
「ほほぅ・・・。懐かしいのう。それは守が研究所を出る時ワシが守に渡した物じゃ。」
「でも、この大きさ・・・輝き・・・まさか!?」
「そうじゃ。それは守の母親の形見じゃ。素材としては柔らかく武具への加工にも向いておらぬからのう・・・。守にはそれが何かを教えず、形見とだけ伝え渡した」
「これ一つで何百億の価値があると!? 今すぐ守にお返ししないと・・・ヘリを戻して下さいまし!」
「貰っておきなさい」
「だって、こんな高価な物・・・守だってこれの価値を知っていたら・・・」
「ほう? 知っていたら? どうしたかの・・・?」
「・・・多分渡したと思いますわ・・・。」
「大切な物を大切な人に渡した。それだけじゃ」
「・・・これだから価値の分からない馬鹿は・・・」
キャロルの持つ天龍玉に涙が落ち、さらに美しい輝きを放つ。
「馬鹿。・・・うっ・・・うぅ・・・・・」
キャロルはまるで少女のように大声を出し泣き続けた。
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