第57話 合流
翌朝、朝食を終え訓練のために空き地に集まる一同。
桜、一花と対峙し構える守達。
「おー! やってるやってる」
振り返ると森の中から、大地と櫻姫がこちらにゆっくりと歩いてきていた。
「大ちゃ~ん!」
抱き着こうとする一花を、大地は地面からツタを出し絡め取る。
そのツタは、以前に大地が出していたツタよりも遥かに大きく太かった。
「無事終わったようだの」
「ああ。昨日の昼頃には解術は終わったんだけど、それから色々とこの能力を試してたんでな」
「そうか・・・。櫻姫様、大地を頼みましたぞ」
「言われずとも」
守達も大地に駆け寄って来る。
沙耶は駆け寄った勢いそのままに大地の胸に飛び込んだ。
「おかえり」
「ただいま、沙耶」
大地は沙耶の頭を優しく撫でる。
「どうだ、守。ばっちゃの訓練は?」
「お前のばあちゃんと姉ちゃん強すぎるだろ・・・。やられっぱなしだぞ」
「え? 一花姉も訓練に参加してんのか? 確かに2つの力を感じたけど」
「大地。お主は知らんかっただろうが、一花も対龍軍に所属しておる。これでも一応長女だからの。一族を守るためにワシが昔から鍛え、そして軍に所属させたのじゃ」
「そうだったのか・・・。」
そこへ遠くから馬に乗ったキャロルが颯爽と駆けて来る。
「キャロル! お前もう包丁出来上がったのか!?」
キャロルは手綱を引き馬を止める。
「ええ。あ、大地もいますの?」
「俺も今帰って来たとこだよ」
「ではこれを」
そう言ってキャロルは大地に馬に乗ったまま風呂敷を投げて渡す。
風呂敷に包まれた木箱を開けると、そこには大地が工場で打った包丁が入れられていた。
「まじか!? 俺の包丁折ったのか!?」
「わたくしの力だけでは到底・・・。刀坂さんの槌を借りてやっとでしたわ」
「あの爺さんが槌を!? へぇ・・・そうか気に入られたんだな」
「積もる話もありますが、とりあえず馬を繋いできますわ」
馬を家の近くの繋ぎ場へ繋ぎ、再び歩いて戻ってくる。
「挨拶が遅れましたわ。先に刀坂さんの所に行っておりましたので・・・。この度、刀坂さんに取り次いで頂いてありがとうございます。加えてチームメイトがお世話になってる事を感謝致しますわ」
キャロルは桜に向かって礼をする。
「うむ。して、収穫はあったかの?」
「はい。十分に」
「そうか・・・。なら早速訓練に加わるが良い。大地。お前もじゃ」
「はいよー」
「わかりましたわ。どういう訓練ですの?」
「ワシと一花相手にお主らチームで戦う。という訓練をやっておる。ちなみに今までこやつらがワシらに勝った事は一度も無いがの」
「何ですって~・・・!?」
キャロルは守達を鬼の形相で睨む。
「はっはっは! 流石はワシの見込んだ女じゃ! まるで鬼だのう! ま、本物にはちと及ばんが・・・」
「何をやってますの! 守! それに氷雪会長も付いていながら、一本も取れていませんの!?」
「め・・・面目ない」
旋風は右手を後頭部に当て、申し訳なさそうな顔をする。
「千里! 何時までその腕輪を付けてますの! いい加減外して下さいまし!」
「はっ・・・はいぃ・・・」
千里は腕輪を外す。
「沙耶はどうせムキになって前衛まで出張ってしまったのでしょう・・・。今の装備では無理ですわ援護に徹してくださいまし!」
「わかった」
「そして」
キャロルは守に歩み寄る。胸倉を掴む。
「前衛は守、貴方一枚で行きますわ! しっかりとわたくし達を守って下さいまし!」
守は一瞬驚くが、すぐ
「おう! 絶対通さねぇ!」
「ふんっ。当たり前ですわ。大地! 力が戻ったのなら今回は中衛でしっかり今までの分取り返して下さいまし!」
「了解! 隊長!」
大地はキャロルにビシリと敬礼する。
「氷雪会長は中衛、千里とわたくしは中衛後ろ。沙耶はさらに後ろですわ。よろしくて?」
『了解!』
守達は指示された陣形に散る。
(ふむ。誠の奴が認めたというだけあって、統率力、人望は申し分ないのう。後は肝心の指揮管としての腕・・・見せて貰うぞ)
「一花! 最初から全開じゃ! 構えよ!」
「了解! ばぁちゃん! かぐや!」
桜と一花は同化を済ませ構える。
優香は手を上げ、そして振り下ろす。
「始めっ!」
『守! でかいの一発頼みますわよ!』
『おうっ!』
龍人化した守は口を大きく開き、青い火球を放つ。
「【竹障】!」
一花はそれを竹の壁で防ぐ。
『なるほど・・・あれが一花さんの力・・・。大地! 彼女を何とかして下さいまし! 氷雪会長は氷の渦を桜さんを包むようにお願いしますわ!』
『わかった!』
『何とかしろって・・・ざっとした命令だなぁ・・・ま、やってみっか! 櫻姫頼むぜ!』
「お任せください」
櫻姫は大地の体の中へスッと入り込んでゆく。すると、大地の髪の毛が段々と桜色へ変化し、その瞳さえも桜色に染まった。
『大地。カッコイイ』
『だろ!? さ・て・と』
大地はポケットから一本の
「一旦下がれ! 一花! 竹障から左右には出るでない! 狙撃されるぞ」
桜の一声で後方に飛び退く一花。
しかし、桜の周りには旋風の竜巻で凍り始めていた。
「先読みか・・・やりおるわい!」
桜は一花を手で包み込み、脚を螺旋状へ変化させ一花を連れ、地中へと避難する。
『千里! 上空から地面に向かって火球を放って下さいまし!』
『えっと・・・でも・・・』
『キャロル。その方法は私が試し、一度失敗している!』
『では千里! 地中を高温に熱して下さいまし!』
千里は地面に手を当て一気に魔力を放出する。
地面は次第に熱を持ち、高熱となる。
熱さに我慢が出来なくなったのか、地面から桜が勢い良く飛び出してきた。
「全く無茶無茶じゃのう!」
『沙耶!』
そこに沙耶の弾丸が襲う。桜はそれを空いた片の手で弾く。が、翼を生やし背後まで近づいていた守が拳を握る。
「やっと隙が出来たな!」
そのまま桜を殴りかかる。が、桜は一瞬で反転し、植物の脚でガードするもその衝撃で脚は砕け、桜は後方へ吹き飛ぶ。
『上。』
沙耶が上空に注意喚起をする。上空には、桜が吹き飛ぶと同時に上空に投げ飛ばしていた一花がいた。沙耶は狙撃を行うが、一花は靴でそれを弾き飛ばしながら、酒の入った竹筒をポケットから取り出し、酒を口に含む。
「【赤霧】!」
口に含んだ酒を勢い良く吐き出すした。そして合図と同時に辺りを覆ったその赤い霧は爆発を起こす。
その爆発炎の中から龍人化した守が飛び出してき、一花に迫る。
「貰ったーーー!」
「甘いね」
一花は先程飲んだ竹筒の栓を戻し、守に投げる。
「【
守のすぐ傍で、その竹は勢い良く破裂し轟音が鳴り響く。守はその爆風で地面へ叩き付けられそうになる。が、寸前で大地の伸ばしたツタに救われた。
『さんきゅー大地!』
『任せとけ!』
『何やってますの! しっかりしてくださいまし! わたくしがシールド張ってなかったら、鼓膜が破れてますわよ!』
爆風を利用し後方へ飛んだ一花は、沙耶の後方からの弾丸を適当に脚で捌きつつ桜と合流する。
「ふぅ~・・・靴を木製に変えてて助かったよ~。ばあちゃ~ん・・・大丈夫ー?」
「ふんっ。キャロルめ、やりおるわい。初めて戦う相手の手の内を一つ一つ確認しておる。しかしこれならどうする・・・?」
桜は豆を3粒口に含み湿らせた後、地面へ埋める。
「一つ植えては鳥の為。二つ植えては虫の為、残りの一つは人の為。ありがたや。ありがたや」
目を出したツタは成長し、絡み合い20メートルほどの緑の巨人となる。
『な・・・なんですの・・・あれは・・・』
『桜さんの技だ。私のこの扇子で切り裂こうとしたが、不可能だった』
同化し、白い肌となった旋風は後方のキャロルへ扇子を高く上げて見せる。
『大地! 今の貴方の力であれを作ることは可能ですの?』
「無理無理! コアの性能が違いすぎるって! まぁ、搾取まで使えば出来ない事もないが・・・すまん、訓練のためにここいらの植物の命を奪う事はしたくない」
『その気になれば、あれが作れると・・・まったく、どうしてこうもわたくしの周りは化け物ばかり・・・。ええい! 化け物には化け物ですわ! 千里! 少し上空へ移動し、全力で火球では無く威力を集約させた【
『わ・・・私は化け物じゃ・・・』
『いいから早く魔力を高めて下さいまし!』
『う・・・うん』
『氷雪会長は千里の攻撃を合図に緑の巨人を凍らせつつ、後方の桜さんを狙って下さいまし! 大地は千里の火砲が緑の巨人に当たるように、それまでの障害物の除去を! 守は緑の巨人を全力で食い止めて下さいまし! 沙耶はわたくしの合図があるまで待機ですわ!』
『了解!』
各自命令どおりに行動を開始する。
その間にも緑の巨人は一歩一歩と近づいてくる。それを守が青い火球を放ち、牽制しながら動きを止める。巨人の拳が守を襲うが、空中を素早く動き回る守を捕らえる事は出来ない。
『その調子ですわ守! 今の貴方は正にハエの如きですわ!』
『もっといい表現は無ぇのかお前! ってうわっ!』
拳が守をかすめる。
『油断しないで下さいまし!馬鹿守!』
『キャロルちゃん! 準備出来たよ!』
千里の出した両手の前には、真っ赤にたぎった炎の塊が出来上がっていた。
『狙いは巨人のへそ辺りですわ! ・・・放てーーー!』
その掛け声と同時に千里の炎が辺りの木々を焼き尽くしながら、一直線に巨人のへそを襲う。
「ああっ!? 木々がっ!」
大地の悲鳴をよそに一花は竹障を繰り出す。
「【竹障!】」
一花は地面を殴り竹の壁を発生させるが、地面から竹が生えた瞬間、地面から生えたツタが網目状に重なり竹を絡め取る。
「大ちゃんひっどーい!」
火砲は妨害される事無く緑の巨人の腹部へ直撃し大穴を空ける。
そして、放つと同時に旋風が投げていた扇子が大穴の中を通り抜け、その冷気で大穴は凍りつつき始める。巨人を凍らせた扇子は回転しながら後方の桜へと狙いを定めた。
『沙耶!』
名前を呼ばれたと同時に、沙耶は弾丸を放つ。その弾丸は凍った大穴を通過し、巨人の後ろに立っていた、一花を襲う。
「へっ!?」
技を出したばかりの一花は地面に手をついたまま身動き出来なかった。
「いかん! 一花ーーー! っち!」
桜は左右より飛来した旋風の扇子を両手で弾き飛ばす。
その一瞬の間に沙耶の弾丸は一花の太ももを貫通した。
「痛っーーーー!」
一花は脚を抑え苦悶の表情を浮かべている。
その脚からは大量の血が流れ出していた。
「一花姉!」
慌てて大地が駆け寄るより先に、桜の腕が一花を包み込み、優香の方へ投げ飛ばす。
それを楓が超念動で受け止め、ゆっくりと地面へと降ろす。
「ひっ・・・す・・・すごい血・・・」
「優香! 一花を頼んだぞ!」
「はいっ!」
治療中の一花の方へ駆け寄ろうとする大地の脚を桜のツタが巻き付き、そのまま投げ飛ばす。
地面に激突する寸前で、守が何とか受け止め、激突は避けられた。
「何すんだよばっちゃ! 一花姉が・・・!」
「訓練中だ」
「そんな場合じゃ・・・」
「馬鹿者! 仲間がやられたといって一々駆け寄ってどうするんじゃ! 犠牲の連鎖が起こるだろうが!」
「桜さんの言うとおりですわ大地。傍に行きたいのであれば一刻も早く桜さんを倒す事ですわ」
後ろより現れたキャロルが大地を諭す。
「くっ・・・。だったら早くばっちゃを倒せばいいんだろ!」
大地は桜に構える。
「くっくっく・・・ワシを倒すじゃと? 大地。確かにお主の力は強力じゃ。しかし・・・年季が違うわい!【
桜は脚を地面に刺し込む。するとそこから近い植物から一斉に枯れ始めた。
「搾取!? ばっちゃやめろって!」
「そして・・・【
「還元とは・・・小娘、無茶をするな。精霊に溜め込んだ魔力を文字通り還元する技。決勝戦で余が大地様に魔力を還元したのと同じ・・・しかし、小娘の言う通り溜め込んだ年月が違います」
桜は地面に手を当てる。すると先ほど大穴を空けられ凍らされた緑の巨人が再び成長し40メートルはあろうかという大きさまで膨れ上がった。加えて緑の巨人足元に数十ものツタはウネウネと蠢いている」
「さあ、続きをやろうかの」
桜は守達に向かって不気味に微笑んだ。
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