第56話 訓練2

次の日も同じく、空き地での桜を相手とした戦闘訓練が行われていた。


「はっはっは! 甘い! 甘いぞ守! ほれ、お主で最後じゃ!」


桜は植物の手で掴んだ守を、思い切り木々の中へ投げ飛ばす。

守は木々をなぎ倒しながら吹き飛び、巨木に激突しやっと静止した。


「ち・・・チクショウ・・・」


「ほれ、優香。治療してやれ」


「はっ・・・はい!」


駆け寄る優香。

傷ついた守に手をかざし治療を開始する。


(ふむ・・・少しずつやりにくくなってきたのう。こちらの手の内を覚えられつつある・・・仕方ない・・・)


「一花! お主も訓練に参加しろ!」


縁側で昼間から酒を飲んでいた一花を、桜が呼ぶ。


「え~・・・。ばあちゃん1人で十分でしょ~?」


「早くしろ」


「・・・はいは~い」


一花は気だるそうに重い腰を上げ、ふらふらと桜の方へ歩いて来る。


「皆。次の戦闘訓練からこの一花が加わる。いいな」


「よろしくね~!」


一花は皆の方に手を振る。


「桜さん!? 桜さん1人で歯が立たないのに一花さんまで!? 無理ですよ!」


「ふんっ。どうせ無理なら色々な経験を積んだほうが良かろう。口答えするな」


「1人だろうが2人だろうが関係無ぇよ・・・!」


治療が終わった守はすぐさま立ち上がり構える。


「守君ってば男の子~♪ 後でなでなでしてあげるね~♪」


「ほれ、傷が治ったのなら始めるぞ」


桜は一花の後ろへ飛び退く。

一花はその場に胡坐をかいて座り込んだ。


「【かぐや】。同化するよ~」


一花の髪の毛から黒髪で美しい着物を着た少女が現れ、その少女は光の塊になり胸の中へ吸い込まれていった。


『気をつけろ守。能力は分からないが、優香先生の口ぶりからするとかなりの実力者らしいぞ』


『分かってますよ氷雪会長! まずは火球で様子を見ます』


守は口を大きく開け大きな青い火球を桜に向かって放つ。


「おー守君はせっかちだね~・・・。 そんなんじゃ女の子に嫌われちゃうよ~?」


一花は握り拳を高く振り上げる。


「【竹障ちくしょう】!」


そして地面に叩き付けた。

すると、地面から複数の竹が生えてき、壁となり火球を阻む。


「あっはっは! 残念~♪・・・ん?」


一花の周りに旋風の氷の竜巻が巻き起こり始める。

地面から竹を出現させた竹の先端に捕まりその場から離れた。


「うーん。旋風ちゃんの技は発動がちと遅いね~・・・ってうわっ!?」


そこへ沙耶の弾丸が飛来する。

突然地面から生えたツタが一花に巻き付き弾丸をの軌道上から逸ら事に成功する。が、その弾丸はそのまま桜を襲う。


「っつ!?」


桜は手を硬い樹皮に変化さ、せそれをぎりぎりの所で弾いた。


「危ない危ない・・・二枚抜きとは恐れ入ったぞ」


「ばあちゃん助かったよ~」


「馬鹿者! 油断しおって! 真面目にやらんか!」


地面に降り立った一花は再び座り込む。


「へいへーい。それじゃあ少し真面目にやりますか~。沙耶ちゃんはちょっと厄介だね~」


一花は手に持った一升瓶を口につける。

そして口に含んだ酒を一気に守達の方向へ向かって噴出した。

その酒は黒い霧となって視界を遮ると共に守達を包み込む。


『なんだこの霧は・・・皆注意してくれ』


「【黒霧こくむ】からの~【赤霧せきむ】!」


一升瓶を少し地面から浮かし、そして地面にドスンと置く。

それと同時に黒い霧となっていた霧が赤色へと変わり。そしてーーー


ドオンという凄まじい爆発音と共に地面が震え、巨大な火柱が上がる。


「ばっかもーん! やりすぎじゃ!」


「あっはっは! みんなー生きてる~?」


チリチリと燃える木々の中から、突然大きな火球が一花目掛け一直線に飛んできた。

それを再び竹で壁を作って防ぐ。


「おー! あの爆炎からすぐさま反撃してくるなんて、炎耐性が高い子がいたのね! 守君・・・じゃない、千里ちゃんか!」


燃え盛る炎の中から千里が現れる。

同時に辺りに氷の竜巻が発生し。激しく燃えていた炎が一瞬で鎮火された。

千里の横に旋風と沙耶。そしてその中央に上空から降りてきた守が立つ。


「すごいすごい! ばぁちゃんすごいよこの子達!」


今までトロンとしていた一花の目が別人のようにはっきりとし、輝き出す。


「ふんっ。やっと目が覚めたか。仕切り直しじゃ! いくぞ一花!」


「は~い!」



一方、刀坂の工場では、キャロルが作業台で何やら複数の龍鱗鉱を並べて実験を行っていた。


「まさかとは思いましたが・・・。これは・・・この反応は・・・」


キャロルは工場の奥にある小部屋へと歩き出す。

その小部屋では刀坂が椅子に座り休憩を取っていた。


「どうした。クラス5の龍鱗鉱なんぞ持って」


「ちょっと見て頂きたい事がございますの」


キャロルは龍鱗鉱を机の上に置く。


「これがどうした」


「見ていて下さいまし。」


キャロルはそれに手を触れ目を瞑る。

すると鱗の形をしていたは見る見ると形が変化し始め、そして一本の刀が出来上がった。


「なんと!」


常に冷静な刀坂が、立ち上がる。その勢いで椅子は床に音を立てて倒れてしまった。


「どういう事だ! 説明しろ!」


刀坂はキャロルに詰め寄る。


「落ち着いて下さいまし。順を追って説明致しますわ」


刀坂はキャロルから少し離れ腕を組む。


「仕組みは簡単ですわ。守の血を鱗の血管の痕に流し込み、そして思念をこの鱗へ送る。ただそれだけですわ」


「守・・・ああ、龍の子とはあいつの事だったのか・・・。なるほど。それでな・・・」


「事情はご存知のようですわね。彼がクラス5の龍鱗鉱で出来た篭手を使って戦った際、変化したのを見てもしかしたら・・・と」


「誠の奴・・・折角俺が造ってやった篭手を勝手に小僧へ渡しおって・・・」


「あの篭手も刀坂さんが製作を!? 素晴らしい出来でしたわ・・・。あまりの美しさに、わたくし見とれてしまいましたもの・・・」


「ふんっ当然だろ。そんな事はどうでも良い。話を続けろ」


「この方法はまだ初めてなので、効果時間、形状、強度などはまだこれからですが・・・。しかし不思議な事に、クラス5の龍鱗鉱以外では同じ方法を試しても全く反応しませんの・・・」


「なんじゃ、知らんのか」


「何をですの?」


「龍の子はクラス5のドラゴン。奴の腹から取り出された卵から生まれたのだ」


驚愕の事実にキャロルは刀を握ったまま固まってしまう。


「え? そ・・・それじゃあ・・・」


「その鱗は奴の母親の物だ。流れている血液が近いが故に反応したんだろう。鱗に血液を飲ませ、思念を送ると、特殊型などの個体差はあるが、変化することは一部の研究者の手のよって発見はされていた。しかし、ドラゴンの血液は長く保管は出来ず、捕縛し血液を採取するにしても費用や安全、そして道徳の面でも望ましくないという理由で、実用には居たらんかったのじゃ。単純な構造にしか変化できないそれを使うより、殺して加工した方が手っ取り早いからな。しかしクラス5となると別。単純な形でも十分な戦力となる・・・。」


「そう・・・ですの・・・これは守の母の形見ですのね・・・」


キャロルは手に握った刀を見つめる。


(道理で奴がこの工場に入って来た時、その鱗がざわついた訳だ・・・)


「で、そいつをどうするつもりじゃ。特許でも取って一稼ぎでもするのか?」


「ーーーっ!? 馬鹿言わないで下さいまし!」


キャロルは机を激しく叩き付ける。


「これが講評されば守の血が・・・いえ、守自身が研究のために狙われ、危険に晒されてしまいますわ! 絶対に公表は致しませんわ!」


キャロルは鋭い眼差しで刀坂を睨みつける。


「・・・だが、公表し他国と共同で研究を行ったほうが、より進歩するのでは無いか? そちらの方が多くの人を救う事に繋がるだろ」


刀坂も上から負けじと睨み返す。


「わたくしは勿論、多くの人を救いたいですわ! ですが・・・それによって仲間の命が危険に晒されるような事は望みません!」


少しの間キャロルと刀坂は睨み合う。


「では、何故この事を俺に言った? 俺が喋らんとも限らんだろ」


「・・・お父様の尊敬している師匠だから・・・だけでは無く数日の間、貴方という人をわたくしが見てきたからこそですわ」


「数日で何が分かる」


「わたくし、人を見る目には自信がございますの」


「ふんっ」


刀坂は工場の方へ歩き出す。

そして、キャロルに貸していた隣の空いている作業場にゆっくりと腰を下ろした。


(・・・まったく。親子揃ってとんでもない物を見せてくれやがる。しかも、生意気にも自分の信念をはっきり持って、この俺に歯向かって来る所までそっくりだ)


刀坂は作業台をその大きな手でそっと撫でる。


(・・・お前が使っていたこの作業台で、又新しい時代の物が生まれたぞ。お前が造った武器は新しい時代を切り開いた。お前の娘の武器はどんな世界を造るのだろうか。・・・なぁ栄斗ーーー)


桜の木の前で解術を続けている大地は丸一日、解術による痛みに苦しんでいた。

最初は痛がり声を出していた大地も、次第に声も出なくなり、ただ胸を押さえて苦悶の表情をし続けている。


『もう少しにございます! 御耐えになって下さいまし!』


胸に突き刺さった木の根を伝い言葉が流れてくる。


「ずっと・・・言ってるだろ・・・それ・・・」


『本当にございます!・・・では最後の仕上げに参りますので、少し痛みます』


「又・・・かよ・・・、うわああぁぁあ! 胸が・・・焼ける・・!」


大地に激痛が走り、胸を押さえ叫ぶ。少しその状態が続いた後、気を失いその場へ倒れこむ。

胸に突き刺さっていた桜の根が抜け、木と同化していた櫻姫が姿を現す。そして倒れている大地の頭を抱き上げ、その膝に大地の頭を乗せた。


「見事にございました。解術はこれにて終いにございます。今はゆっくりとお休みくださいませ」


櫻姫は優しく大地の髪を繰り返し撫で続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る