第38話 決勝戦4
(先ほどの爆発に加え、後方での魔力の上昇・・・あれは間違いなく大地のもの。戦いに集中していて心伝術に割く余裕がありませんでしたわ・・・。しかし、どうやら2人とも見事、相打ちを果たしたようですわね・・・。こちらも負けてられませんわ・・・!」
「太! 守! 千里と大地・沙耶は、見事相打ちを果たしましたわ! これで3対2の構図が出来上がりました! これで負けては・・・顔向け出来ません事よ!」
「まじか!? すげぇ・・・すげぇよあいつら! 負けてらんねぇな!」
「ドスコーイ!」
「数など関係ない・・・全て倒す・・・! 【
強一の体はさらに膨れ上がる。離れていても溢れ出す闘気が空気を伝って伝わってきた。
「っつ・・・何て力・・・でも・・・負けませんわよ!!!」
「ドッスコーイ!」
太が全力でぶちかます。しかし巨大化した強一に止められてしまう。
「相撲など突撃さえ止めてしまえば、何も出来ないただのデブになるんだよ!」
「ドスコイ・・・!」
普段は温厚な太が青筋を立て激昂しているのが分かる。
「太が怒ってる・・・! やっちまえ太!」
太は素早い動きで後ろへ回り込み、強一のベルトを掴み、そして・・・
「ドスコオオオオオオイイ!」
「浮いた!?」」
「なん・・・だと!?」
そのまま地面に思い切り叩き付ける。
すかさず太は頭上高く上げた足を、地べたに倒れている強一に向かって振り下ろす。
それを紙一重でかわす強一。地面にめり込んだ脚を逆に摑まれ、バランスを崩された太は仰向けに倒れる。
見上げた先には、両手を合わせ握りこみ、頭の上まで高く振り上げていている、強一の姿がはあった。
その組んだ両手を、まるでハンマーのように太の腹目掛けて振り下ろす。
「ドッ・・・ス・・・コ・・イ」
「太ーーー!」
吐いて意識を失う太。【戦闘不能】の文字が表示される。
「相撲ならお前の勝ちだ。相撲なら・・・な」
そう言って、太の脚を掴みビルに向かって投げ飛ばす。ビルに衝突する寸前、柔らかい盾に包み込まれ、何とか衝突を免れる。
「ナイスだキャロル!」
「もう頭に来ましたわ! 貴方には、武人としての誇りや礼儀は無いようですわね!」
キャロルは腰のガンホルダーの中から、手甲と手の平サイズ大の予備小型拳銃を取り出し装着する。
「行きますわよ、守!」
「応! ぶっ飛ばして太に謝らせないと、気が済まねえ!」
「来い。一瞬で楽にしてやる」
強一へ向かって勢いよく前進するキャロルと守。
キャロルは小型拳銃を強一へ向け、発砲した。
「そんな玩具がこの俺に効くか!」
強一は避ける事もせず体で受け止めた。
その瞬間、辺りに煙幕が立ち込める。
「煙幕か・・・小賢しい真似を!・・・後ろだ!」
背後より襲撃いようとしていた守に、強烈な裏拳が放たれる。
その拳を両腕のガントレットで受け、そのままその手にしがみつく。
「今だ! キャロル! やっちまえーーー!」
煙幕の中からキャロルが姿を現した。
その握りこんだ左拳には、キャロルの魔力のすべてが注がれており、金色に光り輝く。
「これが・・・わたくしの・・・全力ですわーーーー!!!」
キャロルの黄金の拳は強一を捉え、激しい爆発が起こる。
「ぬぅ・・・!」
キャロルの渾身の一撃は、強一を口から悶絶させるも、戦闘不能にするには至らなかった。
(・・・後は頼みましたわ・・・守)
「キャロル! 逃げーーー」
強一は腕を勢いよく振り、掴んでいる守を吹き飛ばす。
守は建物の壁を突き破りながら飛ぶ。
そして、すぐさま、目の前で腕を抑え膝をついているキャロルの髪の毛を掴み持ち上げる。
「っつ・・・!」
持ち上げられたキャロルの左腕は、力なく垂れ下がっていた。
「手甲に爆薬を仕込み、無理やり威力を上げれば、拳どころか腕が砕けるのは分かっていた事だろ」
「う・・うるさいですわ・・・」
キャロルは右手の小型拳銃を強一に向ける。
「その勝利への執念だけは認めよう」
その拳銃を強一の巨大な手が、キャロルの右手ごと握りつぶす。
華奢なその腕は音を立て砕ける。
「ああああああああ!」
激痛に悲鳴を上げるキャロルに【戦闘不能】の文字が浮かび上がる。
「キャロル!」
「戻ったか・・・ふん。後はお前だけだな」
強一は髪の毛を掴んだまま、投げ飛ばす。
キャロルは力なく地面を転がった。
「キャロルーーー!」
守は、放たれた矢の如くキャロルの元へ走り出した。
「キャロル! 返事しろキャロル!」
しかしキャロルからの返事は無い。
そこへ咲が到着する。
「咲さん!? キャロルを・・・キャロルをお願いします!」
「うるせぇ! 分かってるよこの俺を誰だと思ってやがる! てめぇはさっさと戦闘に戻れ! どいつもこいつも世話焼かせやがって!」
キャロルは咲に担がれ、運ばれて行った。
膝をついて動かない守。
「どうした? 早くかかって来い。弱いやつから死んでいく。それだけだ」
守はゆっくりと立ち上がり、強一の方を向く。
「キャロルの髪の毛はな・・・さらさらで綺麗なんだぞ・・・それをあんな風に乱暴に掴みやがって・・・」
「それがどうした? 頭でも打ったのか?」
「・・・殺す・・・殺す殺す殺す!」
守の体が徐々に龍化を始める。大きな角と羽、鋭い牙、加えて大きな尻尾が出現た。
そして、守の装着していたガントレットの塗装が剥がれ、使用している龍麟鉱が変化を始める。鱗が増殖し始め、肘の辺りまで包み込んだ。
「どうするんだ誠。このままじゃ世間に、正体がばれてしまうぞ」
「この戦闘はここの学生達しか見れぬようになっておる。人の形を保って居れば、正体に気が付く者もおるまいて、人の形を保っておれば・・・な」
「ふんっ。そのためのこの面子か・・・。言っておくがもしもの時は容赦せんぞ」
「・・・はぁ守君・・・調教したいわ~・・・うふふ」
「小春が反応してる!? まさかあの彼は・・・」
「そうじゃ、【京都大災厄】のクラス5・・・そのドラゴンの腹にあった、卵から生まれたのじゃ」
「いいのか誠、まだこいつらは知るべきでは無いと思うが」
「良い。予言の日に彼を投入する可能性は高い。その時の編成にはお主らも加える予定じゃ、そうその時じゃよ」
「予言の日・・・来年ですか・・・。それまでに彼は戦力になりえるのでしょうか?」
「それはキャロル君にかかっておるな」
「キャロルが? 何故?」
「じきに分かる」
強一と対峙する守。
「気をつけなアンタ。あの彼は只者じゃないよ」
「わかってる」
守は尻尾を地面に打ち鳴らしながらゆっくりと歩いていく。
「殺す・・・殺す!!!」
地面を蹴り、その翼で飛行しながら鱗で纏われた右腕で殴りかかる。
強一はそれを両手で受ける。が、受けきれず、建物をいくつも破壊し突き抜けていった。
舞う土煙の中をその羽で切り裂き。立ち上がった強一にクルリと空中で一回転し尻尾を叩き付けた。
それを頭の上で両手をクロスさせ受け止めるが、止める事は出来ず、地面にめり込む。
「クハッ・・・!」
強一は立ち上がろうとするが、両腕が折れており立つ事もままならない。
その髪の毛を鷲掴みにし無理やり起こし、そのまま持ち上げた。
両手からは大量の血が流れ出している。もはや意識は無く【戦闘不能】の文字が表示されていた。
「・・・死ね」
守は口を大きく開け、プラズマの火球を作り出し、それを強一の頭目掛け放つーーー。
轟音が鳴り響き、辺り一帯のビルが砕け散っていった。
しかし、守は不満そうな顔をしている。
「・・・優香姉・・・邪魔すんじゃねぇよ!」
一瞬の間に強一を救出した優香が守と強一の間に、立ちはだかる。強一の肉体は優香のシールドに守られており軽症だった。
「もう勝負は決しています! 優勝はあなた達Eチーム+αです! 引いて頂戴・・・守!」
「どけよ! そいつは・・・そいつだけは絶対殺す!」
「退きません! どうしてもというなら、私を殺してからにしなさい!」
「退けっつってんだろ!」
「守・・・! 貴方の【守】という名前は、私と巫女姉が多くの人を守れるようにと、願って付けた名前です! こんな事をするためのに付けた訳ではありません!」
「・・・優香姉・・・」
「私に・・・与えられた貴方を殺すという使命を・・・全うさせないで下さい・・・お願いします・・・」
大粒の涙を流しながら、守を睨みつける優香。
「分かったよ・・・」
人間の姿へ戻る守。
「守・・・! うわあああぁあん!」
泣きながら守に抱き付く優香。
「ごめんな優香姉。・・・ありがとう」
急いでステージを後にする守。
モニター広場に入った守に、恐怖の視線が注がれる。
(・・・そうだよな。当然だよな・・・。)
そこへ大地と沙耶が現れた。
「うおおお! 見てたぜ守! お前本当は凄い奴だったんだな! これで俺らの優勝だぜ! やったな!」
片手を上げ、ハイタッチの構えをとる大地。
「・・・? どうした守。優勝嬉しく無いのか?」
「大地・・・モニターで見てたろ・・・? 俺が怖くないのか?」
「怖い? 何で? すげーじゃん! 羨ましいぜ! でも隠し事は良く無ぇな! ダチだろ俺ら!」
大地はそう言って腹を軽く殴る。
「さ、キャロルと千里は救護室にいるぞ、太は2人に付き添ってる。行こうぜ!」
「お・・・おう」
走って先に救護室に向かう大地。その後ろを守と沙耶が追う。
「守。怒って当然。自分を責めないで。大丈夫。大地は貴方を怖がったりしない。そして私も」
「ありがとう・・・そして、ごめんな沙耶。お前が篭手田を倒して帰って来た時、俺は正直沙耶の事怖いと思っちまった。その時も大地だけは笑って出迎えていた。やっぱあいつ・・・すごい奴だな」
「うん。大地はすごい」
沙耶は嬉しそうに少し笑った。
救護室のドアを勢い良く開ける大地。守と沙耶もそれに続く。
ベッドにはキャロルと千里が横たわっていた。
「キャロル! 千里! 大丈夫かーーーブッ!」
咲のパンチが守の顔面に炸裂する。
「うるせぇんだよガキが!」
「さ・・・咲さん・・・キャロルと・・千里は・・・」
鼻血を手で押さえながら守は聞く。
「守君!? 見てたよ! 勝ったんだね! おめでとう!」
「ドスコイ」
「太くんも、おめでとうって!」
「あ・・・ありがとう。 でも、ごめんな・・・怖かったろ・・・?」
「ううん。守君は守君だよ。それに私もキャロルちゃんに、あんな事されたら怒っちゃうよ!」
そう言う千里は大分治癒しているものの、火傷の痕が所々残っていた。
「そうか・・・みんな・・・ありがとう・・・!」
下を向いて涙を流す守。
「守! こっちにいらっしゃい!」
「キャロル!?」
そこにはベッドから体を起こし、座っているキャロルの姿があった。その左手にはギブスが、右手も包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「キャロル・・・お前その両腕・・・」
「大丈夫ですわ、両手とも明日、もう一度治療すれば完治致しますわ。それよりこちらへ」
キャロルの傍まで近寄る守。
「守。顔をこちらへ近づけて下さいまし」
「な・・・なんだよ」
言われるがまま、近づける守。
目の前まで近づいた所で突然、キャロルの頭突きが炸裂した。
「痛ってーーー! 何すんだよキャロル!」
「何をわたくしがやられた位で、我を忘れて暴走してますの! 情けないったらありませんわ!」
「うるせぇ! お前がひどい目にあわされたんだ、怒るに決まってるだろ! 悪いかよ!」
「まったく・・・守。もう一度こちらに顔を近づけて下さいまし」
「嫌だよ! また頭突きすんだろ!」
「いいから早く!」
しぶしぶ顔を近づける守。頭突きを警戒し目をつむる。
「・・・ありがとう」
「へ?」
「ちょっとキャロルちゃん! 今耳元でなんて言ったの!?」
「ななな・・・何も言ってませんわ!」
顔を真っ赤に染めるキャロル。
「ねぇ守君! 何て言われたの!?」
「え?それはーーー」
「と・に・か・く! 皆様! 無事、当初の目標、優勝を達成する事が出来ましたわ! 皆様のおかげですわ!」
「そうか・・・優勝したんだよな俺たち」
「そういや優勝したんだったな! 忘れてたぜ!」
「うん。本当に優勝しちゃうなんて・・・夢見たいだよ!」
「ドスコイ!」
「奇跡」
「では皆様お祝いに・・・本日の帰りにラーメンを食べて帰りますわよ!」
「おーう!」
「てかキャロル、両腕が使えないのにどうやって食べるんだ?」
「わたくしを誰だと思っていますの? 秘策があるに決まってますでしょう?」
騒ぎ立てる生徒達を、腕を組み無言で見つめる咲。
(俺らの時もこんな感じだったな・・・けっ。懐かしいぜ)
「あれ? 今咲さん笑いました?」
「笑って無ぇよ、殺すぞ」
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