第37話 決勝戦3

強一相手に猛攻を仕掛ける守と太、それを少し後方から、合流したキャロルが強化魔術を施しながら、時に銃で牽制をする。


「太! 動きが鈍くなっていますわ! 一旦下がって体力を回復してくださいまし! わたくしが前に出ますわ!」


「ドスコイ!」


守は交替を援護するために強一の後方へ回りこみ、強一の脚へ蹴りを放つ。

が、びくともせず逆にをの脚を摑まれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。

その隙をキャロルが見逃すはずも無く、一瞬で懐に入り、散弾を放つ。


「もらいましたわ!」


しかし、トリガーを引いた瞬間、強一は拳銃の銃口に手のひらを押し当てた。


「しまっーーーー!」


銃は暴発し粉々に吹き飛ぶ。強一は当てた手のひらをを握り、そのまま攻撃に転じる。

キャロルはそれを、もう一方の銃で受け止めるが、銃は砕け、キャロルも衝撃で吹き飛ぶ。

ビルに激突しそうになるキャロルを、帰ってきた守が間一髪受け止めた。


「た・・・助かりましたわ」


「しかし・・・なんつー強さだよ」


「強さは認めますわ。ですが・・・これだけの実力がありながら、わざと試験の時、手抜きをした。その根性が気に食いませんわ! なぜ手抜きをするのですか? 答えて下さいまし猩猩さん!」


「俺の目的に必要ないからだ」


「あなたの目的とは一体何ですの?」


「俺は同胞を、あらゆる危険から守護する存在にならねばならん。そのためには人類最強の力を得る必要がある。そのための武者修行の地として、日本へ来た」


「なるほど・・・試験で結果を残し軍曹階級になってしまうと、ドラゴンとの戦闘を強いられる。それが嫌だったという事ですわね」


「俺に、人類を守るつもりは無い。むしろ、俺ら大猩猩ごりらの一族にとっては人間の方が憎むべき相手」


「待てよお前。それじゃ、それほどの力を持ちながら、ドラゴンと戦う気はさらさら無いって事かよ!?」


「そう言っているだろうが」


「キャロル! 絶対こいつぶっ飛ばすぞ!」


守の瞳孔は細くなり。口からプラズマがほとばしる。


「分かってますわよ! 守!」


「ドスコイ!」


「太! 回復したのか!?」


太は制服を破り捨て、ふんどし一丁になり四股を踏む。

今までの太とは比べ物にならない位の闘気を放っていた。


「太・・・! そうですか・・・貴方もついに! 武神の加護を!?」


立会いの構えを取る太。そこから一気に強一に突っ込む。


「ドスコーーーイ!」


激しく衝突する強一と太。


「ぬぅっ!」


強一は後方に吹き飛び。ビルへ激突する。

立ち上がろうとする強一に、守の強烈な一撃が顔面を捕らえ、ビルの壁を突き破り中へ転がり込んだ。口を切ったのか、大量の血が吹き出す。


「ほう・・・さっきとは全然違うな・・・これがお前らの本気か・・・面白い! シャンディ!」


今までずっと腕組みをして立っていた、銀髪を結わえた大柄な女性が、動き出す。


「情けないねぇ、アンタ! こんな奴ら相手に、私との憑依を使わないと勝てないなんて」


「そう言うな。こいつらあの二人を倒しただけはある」


「仕方ないね・・・手伝ってやるよ。・・・憑依!」


シャンディは毛皮となり強一に覆いかぶさる。

見る見る筋肉が膨張し、制服がそれに耐えられず裂け、その茶色の毛皮で覆われた肌が露出する。その背中の一部だけは、美しい銀色の光り輝く毛が光り輝いていた。


「出ましたわね・・・【シルバーバック】! 皆さん今までとは桁が違いますわ! 集中して下さいまし!」 



地面に転がる沙耶を抱き上げ、涙を流す大地。

それを不愉快そうに見下ろす狗神。


「何泣いてんのよあんた。気持ち悪いわね」


「狗神! 大地様を侮辱するとは何事だ!」


その間に櫻姫が立ちはだかる。


「又出たよあの弱っちそうな神様」


「コロ。失礼な事を言うんじゃない!」



(バッテリーを渡してたら・・・沙耶はまた無茶しただろう・・・。でも、沙耶なら相打ちくらいには出来たのかもしれない。力の無い俺が余計な事を言わなければ・・・いや、俺にもっと力があれば・・・!)


大地の魔力の上昇を感じ取る櫻姫。


「大地様!?」


「櫻姫。俺は力が欲しい! でも、俺このポンコツな頭じゃ何も思いつかない! 何か方法を知っていたら教えてくれ! この通りだ!」


涙を流しながら櫻姫に土下座をする大地。


「だ・・・大地様!? お辞めになって下さい! 従者である余に、主である貴方様が頭を下げるなど!」


「何だあいつ。困ったときの神頼みでもやってんのかしら。ちょっと面白そうだから見てましょうよ。どうせヴァレとアリシャやられちゃったみたいだし、強一は援護なんて必要ないでしょ」


「コロ! のん気な事言ってないで早くとどめを刺せ! 何が起こるかわからないぞ!」


「頼む」


「・・・方法はございます。余が大地様の前に顕現した時より、いざという時のために少しずつ魔力を拝借し、蓄積しておりました。それをお返しすれば一時的に、大地様本来の力を使う事が可能でございます。ですが・・・魔力回路の狭くなった大地様に本来の魔力を流すとなると、体に相当の負担がかかり、気絶してしまい、とても戦うどころではございません」


「それでも構わない! やってくれ! 俺は何としても勝ちたい。 最初から最後まで足手まといじゃ。戦いを教えてくれたキャロル。俺の口だけの命令を聞いてやられちまった沙耶。前線で常に強敵と闘ってくれている太と守! あいつらの仲間って言えるだけの力が欲しいんだよ!」


「・・・分かりました。では、魔力をお返し致します」


櫻姫は大地の後ろへ回り、そのまま背中から優しく抱きしめる。

同時に大量の魔力が大地へ流れ込む。


「うわああああああああ!」


体の焼け付くような痛みに、悲鳴を上げる大地。

意識が遠のき始める。


「負けて・・・負けてたまるかよーーーー!」


大地は自分の腕に噛み付き意識を保つ。


「大地様・・・!」


その姿を見た特別観覧席の桜が慌てて立ち上がる。


「いかん! なんという無茶をさせるのだ櫻姫様は! 狭い回路にあれだけの量の魔力を流したら・・・壊れてしまうぞ! 止めさせねば!」


「大丈夫じゃ桜」


「黙れ誠! お主には大地の苦しみが分からぬであろう! あれは想像を絶するーーー」


「桜。ワシを信じろ」


「っつ・・・何かあったら殺すからの。隊長殿」


桜は再び席につく。


「うおおおおおおおお!」


「おい! ヤバイぞコロ!」


「分かってるわよ!」


コロは慌てて大地にとどめを刺そうとするが、突然現れた樹木などが邪魔をし、近づく事が出来なかった。

次々と現れる木々を後退しながらかわし、ビルの屋上へと避難したコロ。ビルの上から見下ろした光景に目を疑った。


「何よこれ・・・森・・・森が出現したわよ!」


森の中、よだれを垂れ流し立ち上がる大地。


「大地様・・・・! あぁ・・・やはり貴方様は特別なお方。 余の敬愛するご主人様でございます」


大地に土下座をする櫻姫。その姿は小さな着物の少女の姿では無く、美しい大人の姿となっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・行くぞ・・・櫻姫!」


「はっ! お任せ下さい」


「コロ! 俺らもとっておきを出すぞ!」


「う・・・うるさいわね! やればいいんでしょ! やれば! 奥義【狂化きょうか】」


コロは再び大きな犬の姿へ戻り低い唸り声をあげる。


「グルルルル」」


次第に毛色は真っ赤に染まり、体の回りにあふれ出す闘気が、赤い麟片となって舞う。

ビルから飛び降り森の中心にいる、大地へ向かって高速で接近する。が、森から多数のツタが狗神を襲った。

それを時にかわし、時にその強靭な顎で噛み千切りながら進む・・・しかし、ツタの多さに次第に対応出来なくなり絡めとられ、身動きが出来なくなってしまった。


「グルルルルル」


地面にひれ伏した狗神の前に、大地と櫻姫が現れる。


「無様だな狗神の。これが大地様本来の実力であるぞ」


ツタで抑えられつつも、その、人程度なら丸呑み出来そうな大口を開き、噛み付こうと抵抗する。


「さぁ大地様。散々嘲笑ったこやつらに、制裁を。生かすも殺すも貴方様次第にございます」


櫻姫はツタの締め付けを強くする。狗神の体の骨が軋みをあげる。


「やめろ・・・。コロ、仁。まいったと言ってくれ・・・。俺は・・・お前らの事・・・友達を・・・傷つけ・・・・・・」


「大地様!」


大地は気絶し、その場に倒れ込んでしまうと同時に【戦闘不能】のが表示があらわれた。


櫻姫も元の少女の姿へ戻る。狗神を押さえ込んでいたツタも、しわしわと枯れてしまった。

自由になった狗神の大口が大地を襲う。


「させません!」


その前に立ちはだかる小さな櫻姫。

が、その大口はゆっくりと閉じる。

仁とコロの憑依が解け、それぞれ人の形に戻っていった。


「ちょっと仁! 何で憑依を解くのよ! あのまま食えば、私達の勝ちだったでしょ!」


「参った。俺たちの負けだ」


仁に【戦闘不能】の文字が浮き出る。


「ちょっと! 何勝手に・・・!」


「コロ。説明が必要か?」


「・・・わかった! わかったわよ! あー参りました! これでいいんでしょ!?」


コロにも【戦闘不能】の文字が表示された。


「櫻姫様。恐れ入りました。数々の無礼失礼致しました」


仁は櫻姫に方膝をつくを付き頭を下げた。


「うむ。お主の実力。しかと見せてもらった。お主は、この狗神程度の契約者にしておくには、ちと惜しい逸材であるな。お主が望むなら、もっと格の高い神を憑ける事も可能だが如何か?」


「ちょっと! 何勝手な事言ってんのよ! 他の神を憑けるですって!? 冗談じゃないわ! 仁は私の仁なんだからね!!!」


「黙ってろ小娘。で、仁とやら。もっとおしとやかで美しく、そして強い神など幾らでもおるぞ?」


「・・・お言葉ですが櫻姫様。私はこの、がさつで、落ち着きの無い、このコロといると、無性に落ち着くのでございます」


「・・・そうか。ならよい。よかったな小娘」


「あああ・・・当たり前じゃないの! 仁は私の・・・そう! 犬なんだから、勝手にどっか行ったりしないわよ!」


コロは顔を真っ赤にして口走る。


「誰が犬だよこら!」


「あんたに決まってるでしょ!」


「あの、櫻姫さま・・・やっぱり交換・・・」


「ふ・ざ・け・ん・なーーーー!」


強烈な蹴りが仁の腹に直撃し2転3転しながら仁は転がって行った。


仁に2つ目の【戦闘不能】の文字が重なって表示された。




その様子を特別観覧席で見ていた、桜は、ほっと胸を撫で下ろす。


「大地君は桜の思っておるより強い子じゃよ」


「正直耐えられるとは思わんかった。想像を絶する激痛だったろうに・・・」


「しかし、桜さんのお孫さんに憑いている、あの神様は一体何者なのでしょうか? かなり上位の神格とお見受けしますが・・・」


「あのお方は、桜・梅・菊の花の精霊神からなる【参華神さんかしん】の内の1神、櫻姫様だよ」


「参華神というと・・・桜さんの飛梅(とびうめ)もその内の1神ですよね?」


「ワシの飛梅は精霊で、梅姫うめひめ様の眷族だが、あの櫻姫様は木花咲耶姫このはなさくやひめ様の直系。格が違うわい」


「桜さんより強そうには見えないけどなぁ。あの程度の森を創る事くらい、桜さんなら出来るだろ?」


「エレナ・・・お前の目は節穴か? 大地の魔力だけであの威力。それに加えて、精霊の特性【同化(どうか)】と神の特性【憑依】さらには、他の植物より魔力を吸収する【搾取(さくしゅ)】も使えるのだぞ・・・大地自身の魔力もまだ成長途中の段階・・・」


『化け物じゃないですか!?』


「誰が化け物だ!」


再び小春とエレナに再び鉄拳が下る。


『すみません・・・』


「ま・・・正直わしも、あの力を恐れた内の一人なんじゃが」


「若い力を止めておく事は、もうワシらには出来ぬよ。若者は自ら道を切り開いて行くもんじゃ」


桜はひじを突き小さくため息をついた。


「歳は取りたく無いもんだね・・・まったく」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る