第36話 決勝戦2

戦闘開始の合図と共に飛び出した守と太。

少し後ろからキャロルと千里が続く。


その目の前に身長2メートルを越えているであろう、大男が立ちはだかる。

そして、その隣にはこれまた大柄な女性が立っていた。


『ついに現れましたわね・・・【シルバーバック】猩猩しょうじょう 強一きょういち)気をつけて下さいまし!今までの相手とは比較になりませんわ! 太、型を! 後の2組は何処に・・・!?』


「キャロルちゃん! 横!」


キャロルと千里の側面から青い火球が複数飛来する。


「っち!」


銃で火球を撃ち落すキャロル。


「まずは一匹ゲット~!」


気が付くと千里の目の前に憑依した、長身の猫耳少女が拳を構えていた。

咄嗟にシールドで2人を出す千里。


間一髪間に合い拳を防ぐ。


すかさずキャロルが反転し銃を持ち替え、散弾を放つがかわされ。

猫耳の女性は後方へ大きく軽やかに飛びながら、青い火球を放つ。

キャロルはそれを素早く打ち落とした。


「助かりましたわ千里!」


「ま・・・間に合って良かった・・・!」


「あちゃ~殺ったと思ったんだけどなぁ~、トロいと思ってたのに結構やるね~!」


「何、しとめ損なってんのよヴァレ!」


ヴァレと呼ばれた猫耳の女性の毛皮頭部付近から、声が出ているようだ。


「すみませんご主人~! でもあのシールド硬すぎですよ~・・・」


そこへ沙耶からの通信が入る。


『キャロル。狗神がこっちに来てる』


(狗神は沙耶狙いですの!? 沙耶の実力を知った上で・・・?)


『沙耶! 相手は何か、貴方の雷に対して対策のある可能性がありますわ! なるべく接近されないよう牽制して下さいまし! 大地は沙耶に合流して、2人で狗神ペアへの対応をお願い致しますわ!』


『了解!』


移動を開始する大地。


太の型が終わり、立ち合いの姿勢を取る太。


「どうした。早く来い」


「初めて喋ったじゃねぇか」


「弱かったら殺す。さぁ来い!」


「舐めやがって! おい太! 見せてやろうぜ、俺たちの力を!」


「ドスコーイ!」


太が一気に加速し、渾身の一撃を放つ。


「ぬぅん!」


強一もそれを体当たりで迎え撃つ。


その威力は全くの互角だった。


「篭手田さえ吹っ飛ばした、ぶちかましを止めた!? 近接はまずい!」


守はすかさず援護に入り、強一と太を引き放離す。


『キャロル! こいつ・・・半端じゃ無ぇぞ! 太の一撃を簡単に止めやがった!』


『太でも・・・分かりましたわ! わたくしも前衛に立ちますわ!』


「千里・・・猫の相手は貴方に任せましたわ!」


「ええ!? 無理無理! 絶対無理!」


「千里! 貴方は強い! このわたくしの手など借りなくても千里は、もうすでにわたくしを遥かに超えていますわ!・・・千里は気が付いて居ないようですが・・・手を借りていたのは、むしろこのわたくしの方ですのよ! 自信を持って下さいまし!」


そういい残しキャロルは前衛へと立つ。


残された千里は不安と、プライドの高いあのキャロルに、初めて認められた自信を胸に、両手を前に構える。


「か・・・かかって来なさい・・・!」


後方では、長い癖っ毛の金髪に、耳の生えた、大きな獣姿のコロが、沙耶の弾丸をものともせず、高速で接近していた。


(あの鋼のような硬い毛に、すべて受け流されてしまう。恐らく落雷さえも、体毛をアースとして受け流してしまう。仕方ない・・・武器を変える。」


そこへ大地が合流する。


「大地。もうすぐ狗神が来る。私が相手する。大地は援護をお願い」


「俺がやる! 沙耶が援護してくれ! お前は無茶するな!」


「ありがとう大地。でも大丈夫。私が何とかする」


そこに狗神ペアが到着する。


「下がって、大地」


「・・・分かったよ! 無茶するなよ!」


電柱にツタを絡ませ移動する大地。


(正直、力を使わずに勝てるとは思わない。でも、刺し違えるくらいなら。大地に手は出させない。)


沙耶は、手に持ったアタッシュケースからナイフを2本取り出す。


(キャロルが、私専用に作ってくれた近接用武器。私の特性を良く観察してある)


そのナイフからバチバチと電流がほとばしっていた。

獣姿だったコロが人の姿へと戻る。


「へぇ・・・沙耶。あんた狙撃専門だと思っていたけど、ナイフも使えるのね」


「勘違いしてる。わたしの専門は暗殺」


沙耶はナイフを構える。


「気をつけろよコロ。あれはヤバそうだ」


「うっさいわね! 分かってるわよ!」


双電刃そうでんじん、【疾雷しつらい】」


2本のナイフを地面に突き刺す。その瞬間雷が地面を這い、コロを襲う。

コロはそれを跳躍しかわす。


「毛の無い足裏を狙ってきたわね!」


「隙ありだぜ!」


ツタで移動し、背後へ回った大地が銃撃を放つ。


「ッチ!【堅毛壁もうこへき】!」


毛が高質化し弾丸を弾く。


「まじかよ!」


「大地。ナイス」


沙耶は手を天高く上げ、そして振り下ろす。


「飛んでたらアースは使えない。【一発雷】!」


轟音と共に落雷が発生し、コロを襲う。


「やばっ!【毛球障もうきゅうしょう】!」


長い髪の毛がまるで毛玉のように丸まる。落雷が直撃し衝撃で毛玉は地面にめり込んでしまった。


「大地。充電する。バッテリーを。」


「駄目だ! 又お前が火傷しちまうだろ!」


「いてて・・・沙耶あんたねぇ! 髪の毛が焦げちゃったじゃないの!」


「大地・・・早く! 大丈夫。私は大丈夫だから」


「駄目っつってんだろ! ふ・・・副隊長命令だ! お前を俺のせいで、傷つける訳にはいかねぇんだよ!」


「大地・・・」


「今度はこっちの番よっ!」


コロは一気に沙耶に跳躍する。


(ごめんキャロルーーー)


沙耶は咄嗟に、両手に持ったナイフを、突進してくるコロに投げつけた。


「【神砕き】!」


鋭い歯でナイフを噛み砕き、そのまま一瞬で沙耶の懐に入り、拳を突き立てた。衝撃で地面を転がり、ビルに衝突し停止する。


「沙耶ーーーー!」


沙耶【戦闘不能】


「そんな・・・」


沙耶に駆け寄り抱き上げる大地。


「ふぅ・・・厄介な奴が片付いたわ・・・。後は楽勝ね」


「俺が・・・力も無いくせに・・・余計な事言うから沙耶が・・・ごめん・・ごめんな沙耶」


一方その頃。ヴァレ、アリシャと戦闘中の千里。


青い火球と、強力な爪を組み合わせた攻撃に、防戦一方を強いられていた。


「いや~大した魔力量だね~。こんだけ、攻撃してるのにまだ尽きないなんて。でも何時までもつかね~?」


「こんなトロイ奴相手に何時まで手こずってんのよ! 駄猫!」


「すみません~」


そう言いながら、爪を振りかざす。それを横飛びし、かろうじてかわす千里。地面は大きな爪の形に抉り取られる。


(ひぃ・・・怖い! こっちの火球は全然当たらないし・・・でも・・・逃げてばっかりじゃ、いつかやられちゃう・・・! どうしたら・・・!)


千里はその時、キャロルとの訓練を思い出す。


「千里。実戦では、わたくしが先にやられてしまう、もしくは戦況によっては離れる事があるかもしれませんわ。その場合の対応を今から教えますわ」


「わ・・・私に出来るかな・・・」


「むしろ、強大な魔力を持つ貴方でないと出来ませんわ。まず、全身に出来る限り強力なシールドを展開します。そのまま中距離で魔術を使いつつ、牽制を行って下さいまし。千里の魔力なら、この同時展開が可能なはずですわ。すると相手は近接攻撃にて、勝負を仕掛けてくる可能性が高いですわ。」


「何で近接で来るってわかるの?」


「中距離、遠距離で貴方のシールドを破壊出来るとなれば、大型魔術。しかし、そうなれば千里との大型魔術勝負になりますわ。単純な魔術の威力勝負で、貴方に勝てる人などそうは居ないはずです。そうなれば威力の高い近接戦にて勝負をつけに来るはずですわ」


「なるほど・・・」


「相手が遠距離の場合は中距離まで近づいて下さいまし。相手が逃げるなら御の字。向かってくる場合は中距離で、適当に戦いつつ、わざと相手の近接攻撃をシールドで受けながら、少しずつ自らヒビを入れて、まるで効いているかのように振舞って下さい。そしてシールドが割れた瞬間、相手がチャンスと思い、止めを刺してくる瞬間。魔力を暴走させ爆裂させてくださいまし。爆裂はほかの魔術より発生が早く、相手は逃げられないはずですわ。」


「・・・でもそれじゃ・・・相手の人・・・大怪我しちゃうんじゃ・・・死んじゃったりしたら・・・」


「心配はありません。教師の方近くで監視していますので、万が一にもそういう事はありませんし、会場にはあの【白衣の悪魔】の咲さんも居ますので安心して下さいまし」


「よかった・・・」


「しかし、千里。その作戦を実行する際は必ず、私の渡した制御装置を外してはなりませんよ。これは相手方への心配では無く、貴方が怪我をなさらないように、ですわ。また黒こげにはなりたくは無いでしょう?」


「うん。ありがとうキャロルちゃん。頑張ってみるね」


(キャロルちゃん・・・私・・・頑張ってみるね)


ヴァレの攻撃で千里のシールドにヒビが入る。


「そろそろ限界みたいね~。あんたの魔力も凄かったけど、うちのご主人はもっと上なんだよね~」


「ひっ!」


千里は怯えるように、後ずさりをしながら火球を放つ。

それをひらりとかわし、上空からヨーヨーのように高速回転をしながら、鋭いつめを振り下ろす。

千里のシールドはそれを受けきれず、粉々に砕け消失してしまった。


「あっ・・・!」


そのまま千里の目の前に着地し、グッとしゃがみ力を溜める。


「とどめだよ~。奥義【凶爪まがづめ】」


ヴァレの指先から漆黒の鋭い爪が出現し、飛び上がりざまに千里の腹に目掛け突き刺すーーーが、千里の腹を貫く事は無く皮一枚の所で爪は停止した。


「なっ!? 2重シールド!? 1枚目は囮!?」


「ヴァレ! 罠よ! 下がりなさーーー」


「ごめんね?猫ちゃん」


千里は両手を前に出し、魔力を暴走させる。その腕に腕輪はついていなかった。


(ごめんね、キャロルちゃん。でもこの猫ちゃん達、多分制御したままじゃ倒せないとおもう)


激しい爆音と地響きが起こる。周囲のビルはすべて吹き飛び、ステージ全体を爆風が駆け巡った。



(千里!? 貴方まさかーーーー!)


爆発が収まった後、クレーターの出来た地面に3人の女性が倒れていた。その3人ともに【戦闘不能】の文字が表示されていた。慌てて救護班と優香が到着する。


「ヴァレさんと、アリシャさんには私がシールドを張りましたので、軽症なはずです! それより千里さんを早急に救護室に運んで下さい!」


それを見ていた誠がひと言。


「咲。」


「分かってるよジジィ! ったく何度も世話を焼かせやがって! あの女!」


咲はビルの屋上から飛び降り、現場へ向かった。


「化け物かよあの魔力量・・・!アリーチェ姉様と同じ位あるぜ」


「私以上よ。エレナ。それにあの子ままだ若いのよ。もっと増える可能性は十分考えられます。コントロールさえ覚えれば、かなりの戦力になる事でしょう」


「ただの魔力供給係かと思ってたが、やるなぁ!」


「エレナやられちゃうんじゃないの~?」


「馬鹿言うなよ小春! まだまだ若いもんには負けん!」


ふんっ!と鼻を鳴らすエレナ。


「ワシは早く若い者に負かして欲しいんじゃがなぁ~?」


後ろで肘を突きながら、独り言のように呟く桜。


「・・・精進いたします」

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