第35話 決勝戦当日

決勝戦当日。

モニターの前で全体朝礼が行われた。


「守。これを」


キャロルはアタッシュケースを取り出し、その中からガントレットを取り出した。


「預かっていた物ですわ。準決勝で篭手が砕けてしまったので、用意してきました。安心して下さいませ。これが高価な物と分からぬように、特殊な塗装を施しておりますので」


「ありがとなキャロル」


「頼みますわよ。守」


「任しとけ!」


篭手を受け取り、早速装着する。


「さ、ミーティングを開始いたしますわよ」



決勝に向けてミーティングを終了させた一同に、2人の女性が歩み寄る。

その姿を見たキャロルは珍しく動揺する。


「アリーチェ御姉様、エレナ御姉様!? なぜこのような所にいらっしゃってますの!?」


「ふふ。今回、たまたま来賓として招かれましたので・・・それよりキャロル。良く頑張りましたね」


「ありがとうございます。アリーチェ御姉様もお変わりなく」


「あっはっは! あんな泣き虫で弱っちかったキャロルが、まさか決勝まで来るとはな」


「よ・・・余計な事を言わないでくださいまし! エレナ御姉様!」


「褒めてんだよ! で、そいつらがキャロルのチームメイトか?」


守、大地、千里、そして太さえも緊張し直立している。


「そいつら呼ばわりはやめて下さいまし、エレナ御姉様」


「すまんすまん! しかしなぁ・・・うーん・・・こいつらも弱っちそうだな~・・」


「エレナ。失礼ですよ。まだ学生なのですから」


「はいはいーっと」


適当に返事しつつ、キャロルに顔を近づけるエレナ。


「で・・・どいつだ? 最近お前が良く、家まで連れてきている守って奴は」


「なっ・・・何でそんな事知ってますのよ!?」


「メイド達に家の状況報告させてるんだよ。いいから教えてくれって」


「イヤですわ! とにかく邪魔ですので、さっさと用意された席に行ってくださいまし!」


「試合前の大事な時にごめんなさいね。では、頑張ってくださいね。エレナ、神代元帥に挨拶をしにいきますわよ」


「へーい。じゃ、キャロル頑張れよ!」


2人が立ち去った後。


「あなた方は何をそんなに緊張してますの?」


「だって、お前の姉ちゃんだぞ・・・ビビるに決まってんだろ」


「御姉様方は優しい方ですわよ」


「両方すげぇスタイル良かったな~超美人だし」


「大地」


沙耶が睨む。


「うんうん。すごく優しそうな人たちだったよね。女性として憧れちゃうなぁ。キャロルちゃんも、大人になったら、あんな素敵な人になるんじゃない?」


「御姉様がわたくし位の時にはもう、大体今のような感じでしたわ」


「そうか・・・期待薄だな」


守と大地はキャロルの胸を見つめる。


「あんた達~・・・殺しますわよ!」


「もうっ! 守君達は、すぐそんな事言うんだから! 胸の大きさだけが女性の魅力じゃ無いんだから! ね? キャロルちゃん!?」


『あ』


「千里~! あんたが言うと嫌味に聞こえますわ!」


「ええっ! そんなぁ~・・・」



ビルステージの、一番高いビルの上に設けられている特別観覧席に、今回招待された軍上層部の面々が集まっていた。


【元帥】 神代 誠

【大将】 相良 桜  

【中将】 大久保 アリーチェ

【少将】 大久保 エレナ

【少将】 有馬 小春


この5名に加えて 元帥専属軍医 【少将】神代 咲 が誠の後ろに立っている。


「神代元帥。そして西日本防衛軍総統 相良大将。このたびはお招き頂きありがとうございます。」


丁寧に挨拶をするアリーチェとエレナ。


「ほっほっほ。ご苦労だった。座るとよい」


「では失礼して」


先に座って居た小春は立ち上がり、アリーチェに敬礼をする。アリーチェも同じく敬礼を返し、そのまま着席する。


「エレナ~! すごいじゃない! 決勝まで残ったのよ貴方の妹。やっぱ大久保家の血統は優秀ね!」


「うーん・・・正直、キャロルが勝ち残ってるのが信じられない。てのが本音だな。頭は相当に切れるんだが・・・それだけではなぁ・・・チームメイトも優秀には見えないし」


「着いて早々に、ぺちゃくちゃ喋ってんじゃ無ぇよお前ら」


「あら咲。居たの?」


「ジジィの後ろに居たろうが! 無視しやがって!」


「はっはっは!・・・でも、こうやって特戦校の同級生が集まるなんてなぁ。懐かしいぜ。私達、同じチーム組んで、この大会に優勝したんだよな」


「懐かしいよねぇ! これで巫女みこちゃんがいたらチーム【かしまし乙女】勢ぞろいだったーーー」


「おい! 馬鹿小春! やめろ!」


咲、小春、エレナの3人は固まり、恐る恐る誠の顔を見る。

正面を向いている、アリーチェの頬にも冷や汗が伝う。


「ばっかもーん!」


3人へ桜の、植物でできた拳での制裁拳骨が下る。


『痛ったーい!』


「馬鹿者共が! 実力は成長したが、思考は学生と変わっておらんみたいだの! お主らはもう学生では無い! 人の上に立ち、命を預かるという重みが欠けておるから、余計な事を口走る!」


『ごめんなさい・・・』


「・・・まったく・・・。誠。気にするでないぞ」


「うむ」


緊張していたアリーチェも、ほっと胸を撫で下ろす。

そして、この雰囲気を変えようと、話を切り出す。


「所で・・・このメンバーを見ると、何だか授業参観みたいですね。皆、何らかの形で少なからず、関わりがある子ばっかりで」


そうこう話している内に【参神】と【Eチーム+α】が戦闘準備を始める。

その様子は、特別観覧席の少し上に設けられたモニターで確認できた。


「まぁ・・・因果とはそういうものじゃよ」


「そういえば桜さん・・・ちょっと聞きたい事あるんですけど・・・守ってどの子です?」


「なんじゃエレナ・・・お主、守を知らんのか・・・?そうか、お主はまだ少将だったの。詳しい事は階級制限中将以上の国秘だが・・・ほれ、あのキャロルの少し前に立っている小僧だよ」


「え!? あの相撲の!? キャロル・・・まぁ、確かに少し変わったセンスを持ってるとは、思っていたけどよ・・・」


「違うわい。その横の奴だ」


「あの何の変哲も無さそうな小僧がですか!? あのチームの中で使えそうな男は、あの相撲の奴位で、後の男は似たり寄ったりの雑魚だったぞ!? 弱い奴はあいつの一番嫌いなタイプだろ!?」


再び桜に殴られるエレナ。


「痛って! 何すんですか!?」


「もう1人の雑魚はワシの可愛い可愛い孫だ。それも国秘じゃからお主は知るまいて」


「えっ。・・・しゅみません・・・」


「さて・・・みなさん、始まるようですよ。見せて貰いましょう。私達の次を担う後輩達の実力を」


ー最終戦ビルステージー


戦闘準備を済ました一同は開始の合図を待つ。


『みなさん』


『どうしたキャロル』


『正直、ここまで勝ち残るとは思いませんでしたわ。本当に《《良い》》チームになりましたわ』


『何言ってんだ! お前のお陰だよキャロル! ありがとな!』


『本当だよ。 ありがとうキャロルちゃん!』


『ケツ蹴られたのは、痛かったけど今じゃ感謝してるぜ!』


『ドスコイ!』


『及第点』


キャロルはコホンと小さく咳払いをして


『・・・みなさん。では、私もおまけのαではなく、正式にEチームに入れて頂けますか?』


『当たり前だろ! ほんと・・・お前は、変なところ不器用だよな!』


『う・・・うるさいですわね! では・・・Eチーム・・・出陣ですわ!』


『了解!』


戦闘開始の合図と共に、新生Eチームは、一斉に行動を開始する。

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