第34話 準決勝2

モニター広場に戻った沙耶を、祝福する者は無く。恐怖にも似た視線を寄せた。

そんな中、沙耶に歩み寄るEチーム+αの面々。


「沙耶・・・やりすぎですわ。何があったのか知りませんが、限度を越えていますわ。頭を冷やしてらっしゃい」


「沙耶ちゃん。あ・・・ありがとう。でも少し怖かったよ・・・」


「とりあえず、よくやってくれた・・・が、キャロルの言う通りだ。お前は本当は優しい奴だろ? 何があった?」


「ド・・・ドスコイ」


「・・・」


「沙耶!」


「何、大地。貴方も否定するの?」


「馬鹿! 何やってんだ沙耶! やりすぎだ!」


「そう。貴方もそう思うのね」


きびすを返す沙耶の腕を大地が掴む。


「違う! お前・・・火傷してるじゃないか!」


「えっ」


「ほら・・・顔にも火傷が・・・すみませーん! あ! 丁度良かった! 咲さん! 沙耶を治療してください!」


「友達みたいに呼ぶんじゃ無ぇよ! 俺は少将なんだぞ! もっと敬えガキ共!」


「お願いしますよ~・・・女の子が顔火傷してるんですよ!?」


「そいつが火傷さした方は、黒こげだぞ」


「ちゃんと篭手田には、後で沙耶と謝りに行きますから! この通り!」


大地は沙耶の頭を押さえつける。


「ったく・・・しゃーねーな・・・ほれ、見せてみろ」


咲の手が当たった所の火傷が、みるみる治癒し、やがて完全に元に戻った。


「すっげー! 流石少将閣下! ありがとうございました!」


「ちゃんと後で謝りに行けよクソガキ」


手を振って立ち去る咲。


「大地・・・」


「今度あんな無茶したら・・・俺が許さないからな!」


そう言いながら、小さくデコピンを沙耶のおでこにかます。


「イテッ・・・うん。」


「さ・・・謝り行くか!」


「一緒」


「おう! じゃあそういう事だから・・・ちょっくら謝り行ってくるわ!」


そう言って救護室に2人は向かった。


「仲・・・いいね。大地君と沙耶ちゃん」


「多分、大地の悪口を言われて、沙耶は怒ったんですわね。ですが、やりすぎたのは事実。叱るのも仲間の仕事ですわ」


「しかし・・・俺ら位、ちゃんと迎えてやるべきだったな・・・完全に怯えたほかの生徒と、同じ目で見ちまった・・・あいつ孤独だったろうな。後でちゃんと話そう」


「そうだね・・・悪い事しちゃったな・・・」


ー救護室ー


用意されたベッドの上に、聖が横たわっている。

まだ傷は完全には癒えてはおらず、痛々しい包帯まみれの姿になっていた。

聖は部屋に入ってきた、大地と沙耶に気が付く。


「ガハハ! 何だお前ら、辛気臭い顔をしてどうした!」


「うちの沙耶が済みませんでしたあああ!」


大地は頭を下げるが、沙耶はそのまま聖を睨みつけている。


「ほら、沙耶! お前も謝るんだよ!」


大地が、沙耶の頭を下げさせようとする。


「まぁ待て、非礼を詫びるのはワシの方じゃ!」


聖はベッドから降り、立ち上がる。まだダメージの残る体はふらついていた。

さらに、傷口が開いたのであろう、包帯からは赤い血は滲む。


「おい! 寝てろって!」


「そうは行くか! 種子島を本気にさせるためとはいえ、相良を馬鹿にしたのはワシだ! 2人ともすまん! この通りじゃ!」


両膝に手を当て頭を下げる聖。関節から激しく血が吹き出る。


「どう大地? 許す? 貴方が許すなら私も許してあげる」


「俺、気絶してたから何がなんだか・・・とにかく許すよ!」


「なら私も。・・・ごめんね」


小さく頭を下げる沙耶。


「ガッハッハ! ワシも、まだまだじゃのう! 種子島には完敗じゃった!」


「沙耶でいい」


「そうか! 沙耶! 今度は負けんぞ! 必ずもっと修行してお主を倒す! 首を洗って待ってろ! ガハハ・・・」


そのまま、笑いながら後ろのベッドに倒れこみ動かなくなった。


「お・・おい!? 大丈夫か!?」


「大丈夫。気絶してるだけ。行こう大地」


「本当に大丈夫なのか!?」


不安を残しつつ2人は、救護室を立ち去った。


「お、大地と沙耶が戻ってきたぞ!」


「沙耶、謝罪は済ましてきましたか?」


「うん」


「そうですか・・・沙耶、先ほどの戦い良くやってくれました。感謝いたしますわ。流石は【一発雷】と呼ばれるだけはありますわね」


「ありがとな、沙耶。お前のお陰で俺達は勝ち残れた」


「ドスコイ」


太は頭を下げる。


「沙耶ちゃん・・・ありがとね。あとごめんね? 私すぐにやられちゃって・・・」


「・・・みんなのお陰」


「お! 沙耶~! お前そんな事言えるようになったのか! 俺は嬉しいぞ!」


沙耶の頭を右手でワシワシと撫でる大地。


「大地様。余も頑張りました。褒美を」


頭を差し出す櫻姫。


「おっ! そうだな! さんきゅーな!」


空いている左手で櫻姫を撫でる。

沙耶は心なしか、撫でられながら嬉しそうな表情をしていた。


「さて、みなさん。モニターをご覧下さいませ、準決勝の2戦目が行われていますわ。【参神】対【武刀会】ですわね・・・武刀会の方は、総合評価A~Bで構成されていて非常にバランスが良く、構成員の全てが武器使いという編成ですわ。 」


「なんておっかない編成なんだよ」


「さて・・・この強敵相手に【参神】はどう戦うか見ものですわね。・・・始まりますわ」


戦闘開始の合図を皮切りに、各自戦闘を開始する。

平坦の岩ステージという事もあり、互いに逃げも隠れもせず、中央での乱戦となった。


「流石に【参神】のメンバーはフル出場してますわね・・・ですが実際戦っているのは犬神ペアと猫神ペアのみ・・・余裕ですわね・・・」


「ひっ・・・刀とか・・・斧とか・・・怖いよ・・・」


「さすがに4対6では、一方的とはいかないようですわね。仁とコロも苦戦してますわ・・・しかし」



ー平坦な岩ステージー


「おいコロ! 流石に分神じゃ厳しいぞ!」


「うるさいわね! 分かってるわよ!」


黒い獣姿の仁、金色の毛並みのコロが敵の猛攻を紙一重でかわしながら言う。


「憑依するぞ! 今日はどっちが?!」


「私が乗るに決まってるでしょう! 仁、あんたが働きなさいよ!」


「まったく・・・うおっ! あぶねっ!」


回転しながら飛んできた大斧を、間一髪でかわしつつコロの傍に着地する。


「行くぞ!・・・憑依!」


仁の叫びと共にコロは金色の毛皮のような姿になり、仁に覆いかぶさる。


『負けたら許さないからね!』


「ならお前が戦えよ!」


「ヤダ。めんどくさい」


「ご主人~私達も憑依しましょう~。早く終わらせて帰りましょうよ~」


「この駄猫! 雑魚! 馬鹿! 屑! 私が戦ってあげるからさっさと乗りなさい!」


「え? ご主人自ら!?」


「そう言ってるでしょうがこの駄猫! 狗神の方は仁が戦ってるのよ! なら、この私が直々に出て実力の差を、思い知らせてあげるのよ!」


軽やかな身のこなしで、怒鳴りつけている小柄な女性の所に着地する。


「憑依!」


長身の猫耳の女性も同じく毛皮となり、小柄な金髪の女性に覆いかぶさる。


「あんた無駄に大きいのよ! ぶかぶかじゃないの!」


『申し訳ありません~』


サイズが合わないのか袖を大分余らせている。


「さて・・・仁。どっちが多く倒せるか勝負よ!」


「俺と勝負してどうするんだよアリシャ!」


「うるさーい! いいから勝負するの!」


「分かった分かった! じゃ・・・行くぞ!」


「ムキー! 私に命令するなんて生意気よ!」


仁は構えを取り、アリシャは左肩をグルグルと回している。




「あれが本来の彼らの戦闘スタイルですわ」


「人数減っちまったけど・・・大丈夫なのか?」


「まぁ見てて下さいまし」


仁は目にも留まらぬスピード、そして理不尽な威力の拳と蹴りで敵を次々と制圧し、アリシャは軽い身のこなしと、高火力の魔術を組み合わせ敵を翻弄する。数分もしない内に、【参神】は勝利した。


「マジかよ・・・おいキャロル! あんな化け物に勝てるのかよ!?」


大地は驚きを隠せない。


「憑依したあの方達は篭手田さんクラスですわ・・・ですが・・・わたくし達も負けて居ないはずですわ!」


「いや・・・負けてると思うけど」


「うるさい大地! とにかく・・・泣いても笑っても明日が最後ですわよ! 勝ちますわ! 絶対に勝ってみせますわ! 明日は頑張りますわよみなさん!」


『おう!』


準決勝の日程が終了し、下校する生徒達。

守も下校しようと校門をくぐる。


「守」


「キャロル? どうしたお前」


「別に。私を家まで送って下さいまし」


「何だよ突然」


いつも通り無言で歩く2人。

もう何度通ったであろうか、キャロルの家へ続く道の景色を眺める守。

人気の少なくなった細道。キャロルは突然守の前に出て振り返る。


「どうした?」


「ねぇ守。貴方、沙耶が勝って帰って来た時、その姿を自分に置き換えましたわね?」


「・・・お前人の心でも読めるのか? 洗脳は犯罪だって小春さん言ってたぞ」


「そんな事しなくても、貴方のあの表情を見れば分かりますわ。もし自分がドラゴンになったら、沙耶に向けられた生徒達の冷ややかな視線。あの恐怖の視線を向けられる。そう思いましたね?」


「・・・そうだよ。チームメイトの俺らは・・・いや、俺だけは沙耶にその視線を、向けちゃいけなかった。でも・・・向けちゃまった・・・沙耶をそういう風に見ちまった・・・俺は・・・馬鹿だ!」


拳を強く握る守。


「ほんと馬鹿ですわね。そこで思考が停止するなんて、思い出して下さいまし。その後もみなさん沙耶に対して恐怖したいましたか? 他の生徒は知りませんわ。ですが、チームメイトは普段通りに、すぐ戻ったではありませんの? 貴方自身、沙耶に対する恐怖は、その時だけだったはずですわ。」


「そうだけどよ・・・」


「すぐ普段通りに戻れたのは、それだけの時間を沙耶と共有し、性格の本質を理解出来ていたからですわ。・・・わたくしは、貴方もその信頼を得るだけの時間を、みなさんと共有してきたと思っていますわ」


「そうだろうか・・・自信無ぇな・・・」


「自信を持ちなさい守。少なくともわたくしは貴方を裏切ったり侮蔑したり致しませんわ」


キャロルは一歩、守へ歩み寄り胸にその華奢な手を当てる。


「この、わたくしのために一度失った、人の心臓と、左腕に誓いますわ」


キャロルは真剣な瞳で守を見つめる。


「・・・ありがとなキャロル」


守は右手でキャロルの頭をワシワシと撫でる。


「ちょっーーー何しーーー大地の真似事ですの!?・・・今日・・・今日だけですわよ!」


少し撫でた後手を放す守。


「すまん・・・あまりに髪が触り心地よかったから・・・つい撫で過ぎちまった」


「構いませんわ。・・・今日だけですわよ! わたくしが泣いてしまった事を、内緒にしてくれているお礼ですわ!」


「やっぱ泣いてたのかあれ!」


「う・・・うるさいですわ! とにかく・・・明日は決勝戦ですわ! さっさと帰って寝る事ですわね!」


「じゃ・・・又明日」


「又明日」


2人はお互いに手を振り別れを告げる。

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