第32話 1回戦・2回戦

「さて、みなさん。対戦表が発表されましたので、見に参りましょう」


朝礼終了後、1年生の廊下に抽選で選ばれたチームの対戦表と、構成員の名簿が張り出されていた。対戦表の前に集まるEチーム+αの面々。その対戦表を真剣に見つめるキャロル。


「ふむ・・・1回戦・2回戦は問題無さそうですわね・・・。しかし・・・厄介な人たちがチームを組んでいますわね。まぁベスト4までは当たる事はございませんが」


「紙見て悩んでも仕方ねぇだろ。とにかく今日勝とうぜ!」


「わ・・・分かってますわ・・・では行きますわよ! 本日は学校の敷地に隣接する、特殊訓練施設で行われますので、移動いたしますわよ」


ー特殊戦闘施設ー


「うわー広すぎるだろここ!」


「何を驚いてますの守? これでもほんの一部ですわよ」


「いやぁ、存在は知ってたけど初めて入るからなぁ」


「ほら。ぼさっとしてないで、ステージ前のモニター広場に行きますわよ。そこで黒田先生からの指示があるはずですわ」


ー特殊戦闘施設前モニター広場ー


「では本日は1回戦・2回戦を執り行います。対戦表は確認してると思いますので、今から5分後所定のステージで対戦を開始します。対戦の模様はこのモニターで確認出来ますので、対戦の無い者は対戦相手を研究するも良し。作戦を練るもよしです。では・・・戦闘準備開始!」


「ステージは確か森でしたわね・・・みなさん急ぎますわよ!」


「5分後に開始ってマジか!? 時間無さ過ぎだろ!」


「これは実戦訓練ですわよ! ドラゴンの出現から戦闘まで、最短で行われますわ!」


一同は走りながら準備を整え。


「では5分経過しましたので戦闘・・・開始!」


戦闘開始の笛が鳴り響く。

キャロルは心伝術で皆を繋ぐ。


『相手は前衛4、中衛強化2の編成でわたくしの見立てでは、6名の平均Bの下程度ですわ! 森は恐らく相手方の得意ステージ・・・前衛のお2人は頭上、左右の物陰に注意して前進して下さいまし』


『ドスコイ』


『相手は前衛4だぞ! 前衛が多い場合、お前が前衛に出るんじゃなかったのかよ!?』


『一回戦から甘えないで下さいまし! この程度の前衛4名相手に出来ないようじゃ、篭手田と山田の両名相手など出来ませんわ! 強化魔術は施しておりますので、何とかして下さいまし! ほら、来ますわよ!』


守と太の前に2名の相手が現れる。


『恐らくその2名は囮ですわ! 前衛2名は突っ込む振りをして、急停止して下さいまし!』


『了解!』


指示通り突っ込む2人。


『今ですわ!』


合図と同時に停止すると、木の上から敵2名が守と太が居たであろう地点に強力な1撃を放つ。


「っち外したーーー」


『今ですわ! 沙耶、大地!』


左右後方から2発の弾丸が飛来し、奇襲した2名の内の1人を捕らえる。


弾丸が当たった方の生徒の体が、赤く光り体の前に【戦闘不能】の文字が掲示された。


『何外してますのよ大地! ヘタクソ! バカ!』


『うるせぇ! 外したもんは仕方ねぇだろ!』


「チッ・・・嵌められたのはこっちだ! 一旦後退するぞ!」


『させませんわ!』


キャロルが腕を大きく上げ、逃げようとした敵を囲うように盾を出現させる。


「しまっーーー」


そこへ一瞬で間合いを詰めた太がぶちかます。


「ドッスコーーーイ!」


突進した太は盾ごと相手を彼方へ吹き飛ばしてしまった。


「奇襲は失敗だ! 撤退ーーー」


「させるかよ!」


太が間合いを詰めたと同時に、敵の後方へ回りこんでいた守が、相手の腹に拳をつき立てた。


「畜生・・・せめてこいつだけでも!」


守に殴りかかろうとした瞬間、沙耶の弾丸が命中する。


『さんきゅー沙耶!』


『油断』


『ちょっとあなた方! わたくしまだ何もしてませんわよ! 残りの中衛2人は、わたくしが相手致しますわ! 手出し無用ですわよ!』


そう言ってズカズカと敵陣に突っ込むキャロル。

 

しばらくして森の奥から悲鳴と銃声が聞こえ・・・森に静寂が戻った。

ステージ内に設置されたスピーカーより優香の声が流れる。


『勝者Eチーム+α!』


モニターを見ていた生徒達から歓声とどよめきが同時に起きる。

試合を終えてモニター室に戻ってくる一同。


「おう! よかったぞお前ら! 見違えたな!」


出迎えてくれたのは狗神ペアだった。


「敵を褒めるなんて、貴方らしいですわね、仁」


「正直、心配してたんだが・・・さすがキャロルだな」


「人の心配では無く、自分の心配をしたら如何かしら?」


キャロルは、仁の後ろで仁王立ちしているコロを指差す。


「仁~・・・あんたねぇ・・・キャロルと仲良くお話してんじゃないわよ! つーか、そこのあんた。前に会った時はその神・・・精霊? とにかく居なかったわよね?」


コロは大地と櫻姫を指差す。


「無礼者! 狗神ごときが・・・恥を知れ! 余は櫻姫であるぞ!」


「何よアンタ偉そうに・・・櫻姫? 聞いた事無いぞ? 見た所そんなに神格が高そうには見えないし・・・植物の神様? 精霊? 曖昧な存在ね」


「落ち着けって櫻姫!」


「これが落ち着いていられましょうか! 大地様もなぜお怒りにならぬのですか!」


「とにかく、頼むから落ち着いてくれ!」


「・・・畏まりました・・・。」


「あなた様を存知あげぬ、私どもの無知と、狗神のご無礼をお許しください」


仁は深々と頭を下げる。


「お主、狗神の契約者か。しかと教育しておけ。今日の所は、大地様とお前に免じて無礼を許す」


「感謝致します」


「・・・所でコロ・・・貴方、厄介なチームを組みましたわね・・・」


「あいつらか・・・まぁ心配すんな。お前らとは反対の島だから、戦う事はないわよ」


「それはどういう意味ですの?」


「そういう意味だよ」


「す・・・すまんキャロル! さっきから何言ってんだコロ! 行くぞ!」


仁に引きずられるように、コロは連れて行かれた。


「聞きましたわねみなさん! 決勝まで必ず行きますわよ! そしてコロのチーム【参神】を完膚なきまでに叩きのめして、さしあげますわ!」


「お前、最初から優勝するって言ってただろうが」


「う・・・うるさいですわ! 皆さん予定通り優勝しますわよ!」


1回戦、第1試合が終了し第2試合が始まる。それをモニターで見る守達。


「まじかよ・・・篭手田と山田2人だけで相手を制圧しちまいやがった・・・」


「あれが彼らの実力ですわ」


「あいつら、俺の銃なんて当たってもダメージ無いんじゃないか?」


「無いかもですわね」


「大地。大丈夫。私がなんとかする」


「沙耶でも勝てるか分からないですわよ。太ならあるいは・・・」


「ドスコイ」


「太君も頑張る言ってるよ」


「とにかく、準決勝で当たるはずですので、対策を練っておきますわ」


「おい、見ろよキャロル。仁とコロも2人で勝っちまったぞ・・・つーかあの狗神ペアしか見当たらないんだが・・・」


「他のメンバーは出てすらいませんわ。2名で十分という事なのでしょう。ま・・・決勝まで行って嫌でも引きず出しますわ」


「だな」


「さ・・・本日は2回戦も執り行われますので、わたくしたちもミーティングを行いますわよ」


モニタールームの端で集まる一同。


「次の相手は前衛2、中衛2、後衛2の私達と同じ構成ですが、魔術主体ですので前衛の2人は気をつけてくださいまし。ちなみに実力は1回戦よりも格上ですわ」


「なら楽勝だな!」


「あら、大地・・・貴方1回戦居ましたの?」


「居たよ!?」


「2回戦は参加して下さいまし」


「だから居たって!」


「さて・・・そろそろ2回戦が始まりますわ。みなさん準備を」


「もう始まんのか!?」


「実戦では、連続出現もよくある事ですわ。それを考慮してあるのでしょう。次は・・・平坦な岩ステージでしたわね」


モニタールームのステージに立っている優香が、拡声器を持つ。


「1回戦は全て終了しましたので、続けて2回戦を開始致します。今から5分後所定のステージにて、開始の合図をします。では・・・戦闘準備開始!」


「さ・・・2回戦参りますわよ!」


『おう!』


ー2回戦平坦な岩ステージー


あまり高低差の無い平地に、大小様々な岩が転がっている。

各自準備を終え、戦闘開始の合図を待つ。

ステージに設置されたスピーカーに、スイッチが入り優香の声が流れる。


「では2回戦・・・戦闘開始!」


開始の合図と同時に、敵方の上空より大量の槍の様なものが、守達に向かって飛来する。


『うおっ! あぶねぇ! なんだこれ・・・氷!?』


『敵の動きが早い。思ったより使い手ですわね・・・気をつけてくださいまし! 多分この攻撃は前衛の足止めが目的で、敵の前衛中衛は、左右に分かれて後方へ向かっているかもしれません。今から探知魔術を行います。 前衛への援護はしばらく行えませんので、自力で何とかして下さいまし! 千里は、わたくしの後方左右の警戒をお願いしますわ』


キャロルは両手を地面につける。


(・・・! 妨害されてる!? 探知できませんわ!?)


『沙耶! 大地! 敵方を探知も出来ませんわ! 平地ですので、目視での索敵をお願い致しますわ! 太は前方の敵、残された相手後衛をお願いします! 守はこちらに合流して下さいまし!』


『俺には何も見えないぞ!』


『右翼3、左翼2敵兵目視確認』


『流石ですわ沙耶!』


(後衛1を囮に残しての全員後衛への特攻。沙耶をよほど警戒してますのね・・・ですが・・・)


『敵勢力、右翼2 左翼1に訂正。場所がばれた、もう当たらない。ポイント3-2付近に移動し大地と合流する』


『ナイスですわ沙耶。大地! ポイント3ー2にて沙耶と合流して下さいまし!』


しかし大地からの返答は無かった。


『・・・大地がやられましたわ! 沙耶! 作戦変更ですわ、恐らく相手は分の悪い沙耶へのアタックは取りやめ、中衛のわたくし達を左右より挟撃してくるはずですので。どちらにも対応出来るように、ポイント5-2でわたくし達の援護をお願い致します。わたくし達3人は5-5辺りで見晴らしのいいポイントに移動いたします』


『大地が心配・・・了解』


移動する3人。しかし、移動後、特に襲撃がある訳では無く膠着状態が続く。


『さて・・・相手からの動きがありませんので、こちらから仕掛けますわ。私は連絡の無い、太の様子を見に行って参ります。帰ってくるまでに守は右翼の2名を、千里は左翼の1名を倒しておいて下さいまし』


『げ! キャロルお前離れるのかよ!?』


『キャロルちゃん抜きで・・・私1人でなんて・・・無理だよう・・・』


『甘えないで下さいまし! 千里は火球を複数出し前進しながら、身を隠せそうな岩を砕いて行けばじきに相手が現れますわ。守はいつも通り、落ち着いていけば問題ありませんわ。では・・・』


キャロルは素早く太の居た方向へ走り去る。


『じゃ・・・俺らも行くとするか』


『怖いけど・・・頑張らなくっちゃ!』


守と千里も別々の方向へと歩き出す。


守がしばらく歩くと正面の岩陰から1人の男性が現れた。


「あんまりに来ないもんで、こっちから来ちまったぜ?」


「いやーそっちのチームは強いからなぁ・・・魔術主体の俺達が正面切って戦っても、やられるのが落ちだろ?」


「じゃあ何で、でてきたーーー」


守は意図に気が付き、その場を離れようとする・・・が、脚が地面から離れない。


「何だこれ!?」


後ろからもう1人男性が現れる。


「簡単なトラップ魔術さ、君、戦闘力はびっくりするほど成長したけど、それ以外は全く成長してないんだよね。魔術慣れしてないんだよ君達は。じゃ。さようなら」


正面の男は銃を取り出し守に向ける。後ろの男は両手を前に構え火球を作り出す。


「チッーーーー!」


守は咄嗟に地面を殴り、地面ごと魔術を抉り取る。


「なっ! この馬鹿力が!」


一瞬で正面の敵に回り込み、横腹に一撃を叩き込んだ。


「ーーー死ねぇ!」


後ろに居た男の放った火球が守を襲う。


しかし、それをガントレットで弾き飛ばす。


「嘘だろーーーー」


言い終わる前に腹に拳がめり込み、その場で崩れ落ちる。


「危ねー! 魔術ってのはほんと厄介だよな」


『こちら守、右翼2名制圧したぞ』


『では、千里の援護に向かって下さいまし』


『太は居たのか?』


『見当たりませんわ』


『そうか、とりあえず俺は千里の所に向かう』


一方、千里はおどおどと、火球で岩場を壊しながら前進する。


『心細いよ~・・・守君・・・キャロルちゃん・・・』


『こっちは終わったから今からそっちに向かう』


『守君早く来てよ~・・・!』


『千里。気をつけて』


『ひえっ!』


前方から多数の弓矢が飛来する。

千里は身の回りを覆うようにシールドを展開しそれを防ぐ。


『移動した。死角を移動してる。私からは狙撃出来ない。かなり手練』



再び岩陰に隠れた女は弓矢を装填しつつ呟く。


「なんつーシールド密度だよ、私の矢あんだけくらってヒビ1つ入らないなんて・・・こうなったら」


背中に付けていた靫の中から一本の矢を取り出す。


「回転火薬式の弓矢・・・これを私の魔術で補強すれば、あのバリアを貫ける・・・けど彼女の体も・・・ええい! 負けられないんだよ私達も」


弓を大きく引き千里に向かって放つ。


「死なないでくれよ」


放たれた矢は、火薬の爆発を推進力に高速回転しつつ、千里に向かって一直線に飛んでいく。


「ーーー!」


千里が気が付いた時には既に遅く。弓矢はシールドに命中する・・・が、そしてそのままシールドは弾かれ地面に落ちる。


「な・・・なんつー硬さだよ! そんなのありかよ!?」


「えっと・・・こっちから飛んできたから・・・」


千里は片手を前に出し、矢の飛んできた方向へ特大の火球を放つ。


地面を抉り取りながら火球は勢い良く飛んで行き、女の隠れていた岩をかすめ、壁に衝突し大爆発が起こる。


「あ・・・あわわ・・・やりすぎちゃった・・・」


「ちょっと貴方! 正気!? 殺す気ーーー」


立ち上がる弓使いの女。

それを逃さず沙耶の銃弾が襲い、命中する。


「ヘブッ」


「だ・・・大丈夫!? 駆け寄る千里」


「あんたを心配した私が・・・馬鹿だったわ・・・」


弓使いの女の前に【戦闘不能】の文字が浮かび上がった。

そこへ、反対からが走ってきた守が到着する。


「あれ? 千里倒したのか?」


「うん。だけど怪我させちゃったから・・・回復してるの」


「しかし・・・終了の放送が無いな・・・キャロルの奴大丈夫なのか? 連絡してみるか」


『おいキャロル。皆制圧したぞお前の方はどうなんだ?』


『・・・』


「もしかして・・・キャロルがやられた!? 俺見てくる!」


キャロルの方に走り出す守。


「ちょっと待ってよ守君~!」



岩場を直進するキャロル。


(通信が妨害されてますわね・・・コントロールといい作戦といい・・・結構出来る方ですわね・・・ここまでにあったトラップは3つ。それなりに高度な術式をこの短時間に・・・)


ガラッという岩の崩れる音がし、キャロルは音のしたほうへ銃を向ける。

そこには太が立っていた。


「ドスコイ!?」


「ドドスコイ!」


「ドススコイで!?ドスコイですの?」


「ドスコイ・・・!」


太は頷く。

キャロルは太の方へ歩み寄り。

太の腹に銃を付き付け、そして、発砲する。


膝を付いた太の姿が、次第に女性の姿へと変わっていく。


「なぜ・・・変化は完璧だったはず・・・」


「変化は完璧でしたわ。ですが・・・わたくし、ドスコイ語は話せませんの」


「そんな・・・」


「一度、はぐれた仲間が、戻った時は疑うのが鉄則ですわ。爪が甘かったですわね」


女性はその場でバタリと倒れる。


『勝者・・・Eチーム+α!』


モニタールームの隅。


「大地~・・・! 貴方、何一番にやられてますの!?」


「仕方無ぇだろ! 摑まる物が無けりゃ、俺は高速移動できねぇんだから! これでも一生懸命走って逃げたんだぞ!?」


「小娘。余の前で大地様を侮辱すると言うなら、覚悟は出来ておるのであろうな」


「大地悪くない。私がアシスト出来なかった」


「そう怒るなってキャロル」


「大地君。仕方ないよ。次頑張ろう?」


ガクリと肩を落とす大地。


「とにかく・・・もっと余裕で勝てると思って居ましたのに・・・思ったよりみなさん実力を上げているようですわね・・・いよいよ次は準決勝ですわ。しかし次の相手のチームは【金剛拳】正直辛いですわ・・・」


「【金剛拳】って4名編成じゃなかったか?」


「数の問題では無いですわ・・・ 籠手田聖・山田三四郎・大国 司・白髪 妙。特Aクラス4名編成ですわよ」


「げっ・・・キャロルが4人いるような感じか!?」


「胃に穴が開きそうだな・・・」


「何ですって大地!?」


「冗談、冗談」


「大国さんと白髪さんの力が未知数ですが・・・そこは対応していくしか、ありませんわ」


「ま・・・やるだけやるしか無ぇだろ!」


そうこうしている内に、2回戦の残りが消化されていった。


「皆さん本日の1回戦・2回戦お疲れ様でした。明日は準決勝、明後日は決勝を執り行いますので、対象の生徒は明日も頑張って下さい。尚、準決勝まで残れなかった生徒は、夏季休暇中、補習を行います」


この補習は事前に通達されていなかったので、生徒達からブーイングが巻き起こる。


「まじかよ・・・準決勝まで残って良かったな」


「当たり前ですわ。夏季休暇は別の予定を組んでおりますので、補習している暇はありません事よ」


「予定? お前何か予定あんのか?」


「教えませんわ」


「では皆さん・・・解散です!」


優香の解散の号令により生徒達はぞろぞろとそれぞれの岐路についた。


「おい、大地帰ろうぜ」


「わりぃ・・・俺、部室に寄って帰るから先に帰っててくれ」


「そうか・・・じゃ、又明日な!」


放課後、静まり返った校庭に銃声が響く。


(このままじゃ・・・俺だけ足手まといのまんまじゃねぇか・・・畜生!)


「大地様。明日も試験がありますので、今日は早くお帰りになった方が、よろしいかと」


「ごめんな櫻姫。付きあわせちまって・・・」


「余は常に貴方様の傍に」


櫻姫はその場に正座し大地を見守る。


「大地。力が入りすぎてる」


「うおっ! 沙耶か・・・びっくりしたぞ・・・何やってんだお前」


「別に。大地は相手を追いながら撃つ癖がある。それじゃダメ。着弾までのラグを考えて点に向かって撃つの。着弾する頃に相手が、自ら当たりにくるように」


「へぇ・・・少し分かった気がするぞ。流石だな沙耶は」


「別に」


少し後ろに下がり、階段に座り本を読み始める沙耶。


「おいおい、お前帰らないのか?」


「大地待ってる。帰りラーメン奢ってくれればそれでいい」


「・・・ありがとよ」


「頑張って」


ー黒田家ー


夜闇の中に拳の交わる音が響く。


「くっはーーー! 全然優香姉相手に一本取れねぇ!」


仰向けに寝転がる守。


「何言ってるの・・・貴方結構強くなっていますよ」


「本当かー・・・? なぁ優香姉。篭手田と山田ってどのくらい強いんだ?」


「そうねぇ・・・武術の技は圧倒的に相手の方が上ですかね・・・ただ単純な力に関しては劣って居ないと思いますよ?」


「勝てると思うか?」


「やってみなければわかりませんよ。さ、明日もあるのですから、今日はここまでにしましょう」


「はいよ」


「では、一緒にシャワーを浴びましょうか!」


「浴びねーよ」


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