第31話 試験日当日

いよいよ定期昇給試験当日。朝から学校中その話題で持ちきりだった。


朝礼前、廊下に集まるEチーム+α。キャロルは複数の袋を取り出し、守と大地以外に手渡す。


「これはあなた方のスーツですわ。試験の際は着用して下さいまし」


受け取る皆はお礼を言いつつも、浮かない顔をして受け取る。中に変なマスクが入っているのそ知っているからだ。


「今日はいよいよ試験当日ですわ。緊張せずに参りましょう」


「キャロルお前もな」


「わ・・・わたくしが緊張!? フンッ。あり得ませんわ」


「そうは言っても緊張するよな~」


「わ・・・私達元々最下位だったから・・・もう上がるしかないから大丈夫だよ。リラックスしていこうよ、ね?」


「ドドスコイ」


「ありがとう太君。太君が、みんなちゃんと強くなってるから、安心していいて言ってくれてるよ」


「太にはかなわねぇけどな~!」


「大地。強くなった」


「沙耶に言われると実感あるな~!」


キーンコーンカーンコーン♪

授業の予鈴が鳴り、優香が歩いて来る。


「あら、貴方達。いよいよね。頑張って下さい」


優香は、守とキャロルを勘ぐるように睨みつけ教室に入って行った。


席に着く生徒たち。


「はい。では皆さん、今日はご存知の通り定期昇格試験が行われます。各自個人の鍛錬と、チーム戦による連携の成果を存分に発揮してください。では、朝礼が終わりましたらまずは、入学時に行われた振り分け試験と同じ内容で、個人の入学時から成長度合いを計測した後、チーム戦での勝ち上がり戦を行って頂きます。これに優勝すると、個人の階級よりチーム全員1階級の特進が可能になります。みなさん優勝を目指して頑張って下さいね。」


優香の話も終わり生徒はぞろぞろとグラウンドに移動を始める。


「さ、皆さん。先ほど渡したスーツを着て下さいまし!」


「ほ・・・本当に着て試験を受けるのかよ・・・やっぱ恥ずかしいぞキャロル」


「恥より結果ですわ! さぁ着替えますので、男性は廊下で着替えてくださいまし!」


守と大地、それに隣のクラスから合流した太が、しぶしぶ廊下でスーツに着替える。


「おい守。今教室の中であいつら着替えてるんだよな・・・覗いてもばれないんじゃないのか・・・?」


「大地様・・・それは如何なものかと。小さいですが触るなら余の胸をお使い下さいませ」


「変な事考えんなよな。今からチーム戦やろうって時に、チームワークの乱れるような事やめとけよ」


「ドスコイ」


太の大きな手が大地の頭を鷲掴みにする。


「いでで! わかったって太! 千里は見ないから!・・・つーか千里見ないなら見るところ無くね?やーめた」


「聞かれてたら殺されるぞお前」


ガラっと扉が開き白いスーツに包まれ白夜叉のマスクを被った沙耶が現れる。


「聞いてた」


大地に向かって銃を構える沙耶。


「大丈夫! ペッタンコも守備範囲!」


「誰がペッタンコですって~!?」


沙耶の後ろから赤色のスーツを着たキャロルが現れ、同じく大地に銃を突きつける。


「やべっ! 逃げるぞ守!」


「待て誤解だ! 俺はそんな話してねぇ!」


「疑わしきはなんとやらですわ!」


「やべっ、逃げるぞ大地! こうなったらあいつは聞かねぇ!」


逃げ出す2人を追いかけるキャロル。

最後にピンクのスーツを着た千里が後ろから現れる。


「あれ? 沙耶ちゃん、皆は先に行っちゃったの?」


「ペッチャンコ。大丈夫。」


沙耶は自分の胸に手を当て、嬉しそうに撫でている。


「えっと・・・? あ、太君は黄色なんだね! 似合ってるよ!」


「ドッドスコイ」


顔を赤くする太。


「それじゃ・・・とりあえず私達も、グラウンドに行きましょう?」


残った3人もグラウンドへ向かった。


ーグラウンドー


生徒達がざわめいている。その視線の先には、カラフルなスーツを着た守達の姿があった。


「おい、キャロル。なんかすごい注目されてて恥ずかしいんだが」


「注目なんて好きにさせとけば宜しいですわ」


それを見た優香が駆け寄ってくる。


「ちょっとちょっと貴方達! 戦闘に必要な武器に加え、盾や篭手など一部を保護する防具は認めますが、全身を覆うスーツなどの、防具の着用は違反ですよ!? 公平では無くなってしまいますからね。」


「盾や篭手は認められているのに、スーツは駄目ですの?」


「イメージとして、人の手で操作される物ですね。なので武器も認めてるとは言っても、地雷や固定自動機銃掃射の設置などは違反になります。能力による地雷や機銃を能力で遠隔操作する場合は認めますが・・・少し線引きが難しいですがとにかく、スーツは制服か訓練服へ着替えて下さい。肉体強化は魔術で行えば認められますので」


「ですがーーー」


守はキャロルの口を押さえる。


「分かりました黒田先生、着替えてきます」


「むぐっ・・・ちょっと守・・・」


「後でスーツ着の差で負けたとか、言われても気持ちよく無いだろ? ルールには従おうぜ。その上で勝てばいいだろ」


「そ・・・それもそうですわね・・・」


(よかった・・・)


一同は心の底から安堵した。


「では先に試験を始めていますので、着替えが終わったら戻ってきて下さいね」


Eチーム+αが着替えて戻って来た頃には、試験は半分ほど終わってしまっていた。


「戻ってきたようですね、では貴方6人の試験を開始しますね。まずは威力測定から行います。各自準備をして下さい」


「おっ、例の落ちこぼれ変態チームのお帰りだぜ」


「6色の色のスーツなんて戦隊物かっての」


いつものように陰口が聞こえるが一同は気にしないでいる。


キャロルが皆を集め言う。


「さて・・・馬鹿にされていますが、無視して下さいまし。わたくし達の特訓の成果を、今日見せてさしあげましょう。コホン・・・では、Eチーム+α! 出陣ですわよ!」


キャロルの気合の掛け声に皆が答える。


「応!」


「まずは守! 貴方から見せて差し上げなさい!」


「まかせとけ!」


「では黒田君からお願いします」


守は目を瞑り、深呼吸し呼吸を整える。


「おい、あいつ入学の時大声出して暴れてた奴じゃねぇか?」


「黒田先生の弟らしいぜ、あいつこそ『黒田の落ちこぼれ』だよな」


集中した守には陰口は聞こえなかった。


集中、集中。魔力を体にめぐらせゆっくり目を開く。その目は確かにドラゴンの瞳そのものだった。

次第に握った右拳に、青いプラズマが発生し始める。


そして、その右拳大きく弓のように引き、を思いっきり優香のシールドに叩き付ける。


辺りに大きな音が響き渡り、優香の用意したシールドが全て粉々に吹き飛んでしまった。

それを、目の当たりにした生徒達は一瞬呆気に取られた後、大きな歓声をあげる。


(本当に・・・本当に良く頑張りました・・・。守、貴方は本当に私の自慢の弟ですよ・・・)


優香は涙目になりながら、大きな声で宣言する。


「・・・黒田 守君! 特A!」 


「おっしゃああああぁ!」


Eチーム+αの仲間に向かってガッツポーズする守。


「すごい! すごいよ守君!」


「やったな守!」


「努力の結果」


「ドスコイ!」


皆が賛辞の声を上げる中、キャロルが、ツカツカと守の傍に歩いて来て、胸倉を激しく掴む。


「守! 貴方、そんな実力がありながら・・・わたくしとの組み手の時など、手抜きをしていたのですの!? 答えなさい!」


キャロルは龍の瞳を真っ直ぐ見つめて、問い詰める。


「一発集中して打つのと、組み手のように常時維持するのは違うだろうが!ーーーブフッ」


キャロルの右ストレートが、守の腹へ炸裂する。


「何・・・すんだよ・・・お前・・・」


腹を抱え込む守。


「今日の所は、この一発で我慢して差し上げますわ。ですが、わたくしに手加減した事。それと、その程度の事に気が付かないだろうと、わたくしを見くびった事。この試験が終わったら覚えてなさい」


キャロルは殺意の視線を、守に向ける。


「・・・すまん」


「罰は終わってから与えますわ。・・・とにかく皆の度肝を抜いてくれた事。褒めてさしあげます事よ。さ、いつまでもそこに居たら邪魔ですわよ。」


手を差し出すキャロル。守それに摑まり起き上がる。


他の皆の試験も次々に行われ、1日目の個人測定は終了した。


測定も終わり教室にて帰りのホームルーム。

 

「お疲れ様でした。各自今日の個人測定の結果表が、手元にあると思いますので、それを参考にしながら、明日から3日かけて行われる、チーム戦のミーティングを入念に行って下さい。では又明日」


ー放課後ミーティングルームー


「では皆様、今日の個人測定の結果の紙を見せてくださいまし」


それぞれは結果の紙を差し出す。

キャロルはそれを受け取り、入力した後モニターに映し出す。


黒田 守 【威力 特A】【速度B】【知力C】【防御B】≪総合評価A≫

相良 大地【威力C】【速度C】【知力A】【防御D】≪総合評価C≫

円城寺 千里【威力A】【速度D】【知力B】【防御D】≪総合評価B≫

大久保 キャロル【威力B】【速度B】【知力 特A】【防御B】≪総合評価A≫

種子島 沙耶【威力A】【速度B】【知力A】【防御C】≪総合評価A≫

本田 太【威力 特A】【速度D】【知力D】【防御 特A】≪総合評価B≫


「これが結果一覧ですわ。評価は平均を基準に付けられているようですが、詳しい事はわかりませんわ。とにかく、わたくし達の評価はチームで言うと、平均B+って所ですわね」


「おい・・・大地の知力Aってのはどういう事だよ」


「へっへっへ。キャロルに言われて勉強したのさ! 俺は副隊長だからな!」


「大地。流石。」


沙耶は小さい拍手を大地へ送る。


「相対評価ですので、知力は毎年少し勉強すれば結果が出る科目ですのよ。特戦校の生徒方々は、知力試験に力を入れる者は少ないのですわ。現に2年生からは評価の対象外となりますのよ」


「へ~・・・つーかお前妙に、この学校の事詳しいな」


「・・・わたくしの姉妹の御姉様に聞きましたの」


「キャロルちゃん、御姉ちゃんがいたの!?」


「キャロル、お姉さんは美人なのか!?」


「大地様・・・余という者がありながら・・・いいのです・・・余は2番目でも3番目でも・・・」


「大地。そんな事聞くと撃つよ」


「沙耶はすぐ俺を撃とうとするなって! 櫻姫はちょっと黙ってろ!」


「美人ですが・・・あなた方には縁の無い方ですわ。長女は対龍軍中将。次女は少将ですもの」


「なんておっかねぇ家系・・・」


「とにかく先ほど言った通り、これは相対評価ですわ。つまり評価Cという事は全体での真ん中程度という事ですので、その事を頭に入れておいて下さいまし」


「という事は俺らのチームは少なくとも、真ん中より上位の実力って事か?」


「あくまで試験でという事ですわ。実戦とはまた違いますが・・・それに手を抜いている者も、ちらほら確認しておりますわ」


「そんな奴いるのかよ。こっちは一生懸命やってるってのに」


「ええ。わたくしも腹が立ちますが、わたくしの見立てでは、実力はトップクラスと見ておりますわ」


「うへ~・・・出来ればやりあいたくねぇな~」


「何言ってますの大地! みんな倒して優勝するんですのよ! 副隊長を勝手に名乗るなら、自覚を持ってくださいまし!」


「はっはい!」


「では、みなさん。明日は1回戦・2回戦が行われますので、今日は帰って明日に備えて下さいまし。では解散!」




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