第30話 試験前日

「やったーーー! 勝ったぞーーー!」


カプセルから出て皆でハイタッチを交す。


「ぎりぎりで勝った位で喜ばないで下さいまし! 足手まといの大地が、戦力になったんですから当たり前の結果ですわ!」


「大地君本当にすごいよ・・・! 植物の蔓を使って移動するなんて・・・」


「色々試したんだが、接近されたら土の入ったリュックを背負って、そこから出た蔓を操って移動しながら、ハンドガンで応戦って形が一番安定したからな。これで俺も戦えるぜ!」


「流石でございます。大地様」


「櫻姫のお陰だよ!」


「では、褒美に今夜一緒の布団で寝て下さい」


「断る!」


「まったく・・・大地様はお堅いのですから・・・」


「しかし、やっぱりチームの要は太お前だよ!」


守は太の立派なお尻を叩く。


「ド・・・ドスコイ」


「照れんなって! 頼りにしてるからな!」


「でも太君あんまり無理しないでね?」


「ドスコイ」


顔が赤くなる太。


「太お前もしかして・・・千里に惚れてんのか? いや・・分かるぞ確かにいい胸だが・・・・」


「ドドドドスコイ!」


太は照れたのか、軽く大地に張り手を入れる。

大地は吹っ飛び壁に激突した。


「痛ってーな太! この馬鹿力!」


「大地君がからかうからだよ~・・・」


「ごめんね太君」


「・・・沙耶、貴方からは何かありまして?」


「問題ない」


「黒田先生はいかがでしょうか? 私達の動きに問題はありまして?」


「正直、ここまで上達するとは思いませんでした・・・。良く頑張りましたね。明日いよいよ試験ですので、今日は早めに上がって英気を養うとよいでしょう」


キャロルが小さくコホンと咳払いをし


「そ・・・それでは皆さん・・・か・・・帰りにラーメンはいかがです?」


一同は予想外の言葉に固まる。


「キャロル・・・お前熱でもあんのか? 明日試験だぞ大丈夫か?」


守はキャロルのおでこに右手を当てる。


「い・・・嫌ならいいんですのよ!? なら・・・守! 行きますわよ!」


「俺だけ!?」


「ちょっと待った! 2人で食事なんてこの黒田 優香の目が黒いうちは許しませんよ!」


「わ・・・私も行く!」


「俺も、もちろんいいだろ~? 沙耶も行くだろ?」


「油マシマシ粉落とし」


「楓も行く~!」


「ならワシも」


突如現れた誠に皆が驚く。


「普段あんまりいらっしゃらないのに、ラーメンの時だけ何処からとも無く現れますわね」


「まぁ、そう言うでない。ふむ・・・お主は?」


「大地様憑き神の櫻姫にございます」


「ほう! ついに桜の術を解術しおったのか。やるのう、キャロル君」


「まだ2割ほどですが・・・」


「ワシは、この学校の校長で神代 誠と申します。大地君をどうぞよろしくお頼み申し上げまする」


頭を下げる誠。


「言われずとも。ふむ・・・お主が大地の師匠であれば間違いなかろう。しかしお主・・・厄介なものを抱え込んでおいでで」


誠は片手を前に出し言葉を遮る。


「お察しを」


「・・・良かろう」


「さて皆、何時のもラーメン屋に行くとするかのう」


ー豚骨ラーメン誇乃豚野郎ー


「これで10杯目だぜ・・・」


「見てるこっちが食欲無くなってくるぞ・・・」


「ドスコイ」


「太君美味しいって!」


「替え玉しすぎでもう汁ねぇぞ」


「お相撲さんってやっぱりすっごい食べるんだね! 私なんてラーメンハーフでお腹一杯だよ~」


楓は小さいお腹をさすりながら言う。

沙耶は食べ放題の高菜を、ずっとウサギのように食べ続けている。


「さて・・・そろそろ出るかの」


「守」


「分かってるよ・・・。誠さんキャロルの分は僕が払いますので」


「・・・なるほど。ほっほっほ。青春じゃのう・・・分かったぞい」


「守!? 何で姉ちゃんじゃなくて、キャロルさんの分を払ってあげるの!?」


「そういう約束したんだよ! いいじゃねぇか別に!」


「わ・・・私も守君に今度奢って欲しい!」


「だ・・・駄目ですわ! これは守への罰なんですから!」


「わかったよ・・・今度は千里に・・・」


『駄目』


千里と優香の声が重なる。


「守はモテモテだね~羨ましいぜ!」


沙耶が大地の服を少し引っ張る。


「大地。今度奢って」


「沙耶~! お前だけだよ~!」


「この前千里にも、それ言ってた」


「そうだっけ? 覚えてないなぁ・・・あはは」


一同はラーメン屋の暖簾をくぐる。


「では皆明日の試験がんばるのじゃぞ」


「はい!」


それぞれの帰路につく一同。

まず方向が違う沙耶と大地と太が別れ、次に優香が千里を送るために別れた。残ったキャロルと守。


「守」


「はいはい・・・家まで送れって言うんだろ」


「少しは分かってきましたわね」


2人はやはり無言で歩き続け、そのままキャロル邸に到着する。


「明日は頑張ろうなキャロル」


「言われなくても」


「じゃ、又明日な」


「守・・・ちょっとコーヒーに付き合いなさい」


「ラーメンの後にコーヒーって・・・。いいぞ。どこの店に行こうか」


「わたくしの部屋ですわ」


「部屋!? いや・・・駄目だろ! 親御さんに見られたら誤解されちまう! 店に行こうぜ!」


「両親はこのお屋敷には住んでおりませんわ」


「いや・・でもよう・・・」


「あーもう鬱陶しいですわね!」


キャロルは守の腕を掴み勢い良く屋敷の方へ投げ飛ばす。


「受身とって下さいまし!」


屋敷の前に転がる守。


「いてて・・・明日試験ってのに無茶しやがるな・・・」


「その程度で怪我するようならそれまでですわ。さ、行きますわよ」


キャロルの部屋中まで連れて行かれる守。途中に出会うメイド達は、2人の姿を見て持っていたお皿を落とし。強面の男達は2度見3度見していた。


(生きて帰れるかな・・・)


キャロルの部屋でコーヒーを待つ守。少ししてキャロルがコーヒーを運んで来た。

守の前にコーヒーカップと、ミルクが置かれる。


「どうぞ」


「い・・・頂きます」


「部屋の物に触ってませんわよね・・・」


「触るわけねぇだろ! そう思うなら連れて来んなよ」


「守にそんな度胸が無いのは、知ってますわ」


「うるせぇよ」


2人はコーヒーを味わう。店のコーヒーとは比べ物にならない程の芳醇な香りに濃厚なミルク。砂糖の差は良く分からなかったけど多分高いやつなんだろう。


「で、何か話しがあんのか?」


「ありませんわ。ただ1人より2人の方が飲んでるって気になるだけですわ」


「何だよそれ」


キャロルはコーヒーカップを置く。


「・・・こうして貴方とコーヒーのわたくしの部屋で飲むなんて出会った当初は想像だにしませんでしたわ」


「何だよ突然」


「わたくし、中学の時は、友達と言える人は居ませんでした。唯一話せる相手は、私の付き人の剣だけでしたわ」


「お前、友達居なさそうなタイプだもんな」


「高等部になってもその先も、友達なんて必要ないと思っておりました。放課後あなた方の面倒を見るのも、正直嫌でしたわ。・・・今ではそうは思いませんが・・・。しかし、同時に思うのです。私は向上心を失って妥協してしまったのではないか。楽な方へ逃げているのではないかと。それが・・・怖いのですわ。多分わたくしは今回の試験個人能力測定では、ぎりぎりA判定程度だと思います。自分でも分かりますの。全く成長していない事が」


「お前が成長しないなら、俺らが代わりに成長してるだろ。気にするなよ」


「でも・・・このままでは2年生ではBクラス・・・3年生では留年の可能性も・・・」


守はカップを音を立てて置く。その衝撃でカップの取っ手が折れてしまった。


「どうしちまったんだよお前! 落第すんなら一緒に留年してやるよ! 大地も千里も沙耶も太も、そしてお前が揃ってのEチーム+αだろうが! 俺らの隊長はお前以外居ないんだよ!」


キャロルはその言葉に目を丸くし・・・そして、突然立ち上がり、後ろにあったベッドに飛び乗っり、ベッドを囲ってるカーテンを閉める。

カーテン越しに小さく嗚咽のような音が聞こえてくる。


「キャ・・・キャロル・・・? 俺はてっきりいつも通り言い返して来るかと・・・。お前も悩みとかあるよな。当然だよな。すまねぇ・・・言い過ぎた」


守はキャロルの方へ歩きだす。


「こ・・・来ないで下さいまし・・・変態」


「お前はすげぇ奴だよ。俺が保証する。だからいつものように威張ってろって」


キャロルは袖で目の辺りをゴシゴシと拭き、カーテンを開ける。その目は赤く充血していた。


「泣いてませんからね」


「何もいってねぇよ」


再びコーヒーのテーブルに座る2人。


「コーヒーカップ壊しましたわね」


「すまん」


「50万払ってくださいまし」


「・・・ごめんなさい」


「丁度、取っ手の無いカップが欲しかった所なので構いませんわ。さ、これ以上は黒田先生が心配致しますので、帰りましょうか」


「おっ・・・もうこんな時間か・・・」


屋敷の外まで出る2人。


「・・・今日見たこと、他言は許しませんわ」


「泣いてた事か?」


「泣いてませんわ」


「そういう事にしといてやるよ。じゃあな」


「背負って堀の外までお運びいたしましょうか?」


「いや、大丈夫だ。これ位ならもう越えられるから」


「そう・・・ですか」


「なんだか残念そうだな」


「別に。では又明日」


「おう」


守は大きくジャンプし一気に堀を越える。


キャロルはそれを見送ったあと再び部屋へ戻り、自分のコーヒーカップと取っ手の取れた守のコーヒーカップ、両方に冷めたコーヒーを注いだ。そしてもう、そこには居ない守に話しかける。


「貴方は本当に不思議な方ですわね」


しばらくして家までたどり着く守。良く見ると玄関に優香が腕を組んで仁王立ちしていた。


「何やってんだ優香姉」


「遅い! 遅いですよ守! 何で送るだけで2時間もかかるのよ!?」


「ああ・・・キャロルの家でコーヒー飲んでただけだよ」


「きゃ・・・キャロルさんの家に!? へ・・・変な事してないでしょうね!?」


「してねぇよ!」


「ご両親は!?」


「両親は今家には住んでないって言ってたぞ」


「変態! 守の変態! 私に黙って大人になるなんて!」


「何かあっても言わねぇよ!? とにかく何もしてねぇよ!」


優香を押しのけて家に入る守。


「守が・・・私の守が・・・他の女に・・・」


優香は暫く放心状態で玄関の前に立ちつく居していた。

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