第27話 6月中旬
放課後いつも通り訓練を行ってると、久しぶりに誠が顔を出す。今日は珍しく咲と一緒だった。
「ほっほっほ。皆よく頑張っているようじゃのう」
「これは神代校長。もう少し頻繁に顔を出して頂けると助かりますわ」
「ジジィは暇じゃねぇんだよ、文句言うな」
「今日は皆に稽古を付けてやろうと思ってのう。」
誠は羽織っていたローブを脱ぐ。誠の肉体は年相応・・・いや、それよりも更に老いた体のように見える。古強者とは知っていても、その弱々しい姿を見たキャロルは、不安を覚える。
「・・・有難いお話ですが・・・その、お体に触らない程度にお願い致しますわ」
「ジジィなめてんのか? 昔よりは衰えちまったが、それでもお前らの100倍はつえぇぞ」
「その前に皆を集めてくれるかの? 見稽古も稽古の内じゃて」
キャロルは笛を吹き皆を集める。
一同は誠と咲に挨拶をする。
「先ほど説明した通り、各自自分の最も得意とする間合いから、わしを倒しにかかってくるが良い。まずはキャロル君からじゃ」
「・・・参ります」
次々と順番に組み手を行っていく。
各自全力で誠に挑むが、その老体とは思えない、軽快な動きで技を受け流され、近づかれたが最後、抵抗も出来ず気が付けば空を見上げる始末であった。
「ふむ・・・みな、入学したときより上達しているようじゃの」
「先生が相手だと上達しているのかどうかも分かりません・・・」
最後に投げられた守が誠を見上げながら言う。
「ではそれぞれ順番に講評していくかの」
「最初にキャロル君。お主は中距離から2丁の銃での戦闘が主で、他にも近接格闘術や妨害魔術も使え、非常にバランスが取れてはおるが、すべての攻撃が軽いのが欠点じゃ。まぁ・・・魔力量の少ないので仕方がないのは分かる。じゃが、チームの時はともかく1対1の時などはあえて懐へ飛び込み、近距離から最大魔力で、強力な一撃を叩き込む方法の方が、勝率は上がるはずじゃ」
「なるほど。魔力の配分という事ですわね・・・確かに・・・中距離ではわたくしは、色々な術で翻弄出来てしまうが故に、近距離での技の開発が疎かになってしまっていたかもしれませんわ」
「次に守君。能力が使えるようになって何よりじゃが、まだまだ出力が上げられるはずじゃ。それに格闘術がまだまだじゃから、そうじゃのう・・・優香君と組み手を行うがよいぞ。彼女の夜の訓練に付き合ってみるがよい」
「有香・・・黒田先生ですか・・・聞いてみます」
「次に千里君。かなり魔力のコントロールが上手くなってきたのう。だがまだその腕輪を外すのは先の方がよい。あと・・・炎の魔術だけではなく、回復やその他魔術の練習もそろそろ始めてはどうかの? キャロル君という良いお手本がおることだし」
「キャロルちゃん・・・教えてくれる・・・?」
「簡単なもので良ければ7月までには、間に合うとは思いますが・・・暴発はしないで下さいまし」
「が・・・がんばる!」
「さて・・・大地君は飛ばして、沙耶君」
「ちょっと待って下さいよ! 何で飛ばすんですか!?」
「狙撃手としての力は並程度じゃよ。なぁに、心配はいらんぞ。力さえ完全に戻ればお主はちゃんと戦えるようになる。焦るでない。ゆるりと待たれよ」
「俺だって役に立ちたいのに・・・」
「何を言うのじゃ。お主は銃を取って間もないのに並の実力があるのじゃぞ? センスはある。わしが保証する。というより桜がお主のその力を恐れ、封じたのが何よりの証拠じゃて、今は我慢せよ」
「・・・はい」
「では、沙耶君の講評を続けるぞ。沙耶は狙撃手としては超一流じゃ。しかし手抜きはいかんぞ? わしは全力でと言ったはずじゃぞ。お主の弱点は向上心が足りない事じゃ。力が欲しいときに足りぬのでは後悔してもしきれんぞ」
「・・・検討する」
「さて太君。君はかなりの攻撃力を誇る反面、隙が多い上に体力の消費が激しいのが欠点じゃ。まぁ相撲の特性上体力は難しいが。少しでも隙を減らすよう相撲以外の、別の格闘術を取り込むと良い。基礎を覚えるだけでもかなり違ってくるはずじゃ」
「わたくし、格闘術には心得がございますわ。太、基礎的な動きだけでも覚えてみませんか?」
「ドススコイ」
「えっと・・・相撲を極めても居ないのに、他の格闘技を習うのは相撲の神様に失礼だって・・・」
「ほっほっほ。そういう考えもあるのう。あくまで対人戦での話じゃ。ドラゴン相手には小細工はあまり効果は無いからのう。しかし太君や、覚えておいてほしいのじゃが、格闘技とは形こそ違えど、目的は同じいう事じゃ」
太はコクリと頷く。
「さて・・・皆の物。講評はこれにて終了じゃ。みな宿題にして精進するのじゃぞ」
「ジジィそろそろ・・・時間だぞ。これ以上はこの俺が認めねぇ」
「咲もこう言ってる事じゃし、そろそろワシはおいとまするかの。では」
『ありがとうございました!』
一同は誠に礼を言った。
帰宅後、食事中に守は優香に聞く。
「なぁ、優香姉。今日神代校長に言われたんだが、組み手の練習を優香姉としたらどうかって、言われたんだが・・・俺に武術を教えてくれないか?」
から揚げをかき込んでいた優香の箸が止まる。
「神代校長先生が・・・本当にそうおっしゃってたの?」
「確かに言ってたぞ」
「はぁ・・・先生は私にも宿題を出されたようね・・・。よりによって守と・・・いいわ。今日から食後1時間組み手をしてあげる」
「まじかよ! ありがてぇ」
「その代わり、1つお願いがあるの」
「な・・・なんだよ」
「一日一回私の言う事を聞いて欲しいの! 今日は・・・一緒にお風呂に入る事!」
「絶対嫌だ!!!」
「そんなぁ~・・・」
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