第91話 理由

「私はエルザスのことをこの5年間、調べた。

 エルザスは、この王都シュテールを恨んでいる」


ヒロは興味深くその話を聞いた。


「確か、エルザスはコロシアムで格闘家をしていたんですよね。

 それが、シュテールを恨むようなことになったんですか?」


「コロシアムは、国営。

 ヒロが所属する冒険者ギルドと同じで、シュテリア王国直轄の事業。

 エルザスは、王国から格闘家の権利を取り上げられた」


「取り上げられた…?

 彼は何かしたんですか?」


「エルザスは当時、強くて人気の格闘家だったらしい。

 何度も試合に勝っていた。

 負けなしの時代もあった。

 ただ、もっと強い格闘家が現れた」


「その格闘家に、エルザスは負けたんですね?」


「そう。

 エルザスはその新しい格闘家に負けて、勝てなくなった。

 エルザスの時代が終わった。

 人気も次第に落ちていった…。

 そして、勝てなくなったエルザスは、その格闘家に、試合前に毒を盛って殺そうとした。

 新人格闘家の勘が鋭くて、毒は飲まなかったみたいだけど」


「なるほど…不正を働こうとしたと…。

 それがばれて、格闘家の資格を国からはく奪された、と言うことですか」


メグはうなずく。


「エルザスは、人気だったのに、落ちぶれた。

 新しい格闘家を応援する王都シュテールの人間も、格闘家の資格を取り上げた王国も、エルザスはきっと恨んでいる」


「…逆恨みですね。

 なんとも自己中心的な」


「前の満月で、私はエルザスに家族を襲った目的を聞いた。

 ただただ、バリアを手に入れるため。

 そんなことを言っていた…」


メグの顔が険しくなる。


「兄さんは全く悪くない。

 エルザスが、自分勝手な理由で襲っただけ…。

 私は、あいつを許さない。

 必ず…」


復讐する。

メグは言葉を続けなかったが、きっとそんな言葉が続くのだろうとヒロは思った。

早く、こんなネガティブな感情から解放してあげたい。


「プロジェクトの目的は、ゾームから王都を守ることです。

 結果的に、襲い来るゾームを討伐することになります。

 エルザスを倒すことは、必然的に達成することになるでしょう。

 …もうすぐです」


ヒロは自分なりの言葉でメグを元気づけた。


「私も、がんばる」


メグが、珍しくヒロに向かって少し微笑んだように見えた。

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