第88話 感謝

「私は、ヒロさんに感謝しています。

 この数か月で、私は一挙に成長しました。

 それは、ヒロさんのおかげなんです!

 あなたがいなければ、こうはなれなかった。

 本当に、ありがとうございます!」


ヒロは唖然とした。

徐々にレインの言葉が頭にしみわたってきた。

気が付けば、目頭が熱くなっていた。

これまで、プロジェクトマネジメントの知識を人に教えることは何度もあった。

だが、面と向かって感謝されたのは、初めてだ。

しかも、こんなに熱意を込めて。


レインが頑張っていることは、ヒロもなんとなく分かっていた。

プロジェクトを成功に導いたことまでは知らなかったが、それでもレインがおべっかを使っているようには思えなかった。

レインは本心から感謝しているようにヒロには思えたのだ。


女性二人の手前、涙はこらえたが、ヒロは言葉に詰まった。


「ありが…ありがとう…ございます…」


レインがそれに答える。


「お礼を言うのは、こちらの方ですから」


サレナがヒロをじろじろ見ている。


「な、なんですかサレナさん」


ヒロは感極まった姿を見られたくないので、サレナの視界を手で遮った。


だが、サレナがヒロを見ていた理由は違った。


「へぇ、それが大魔導士の光なんだ」


ヒロの体が黄金に光っていた。

レインをプロジェクトマネジメントで成長させたという充実感。

ヒロにいつしか、魔力が満ちていた。


そんなヒロを見て、レインが言う。


「さぁ!

 キラーマンティスの討伐、よろしくお願いします!」


「ははは。レインさんにしてやられました」


「でも、これは信じてください。

 ヒロさんに大魔法を使わせるためだけに私はプロジェクトに挑戦したわけじゃないですし、こんなことを伝えたわけじゃないんです。

 本当に、感謝を伝えたかったんです」


「もうやめてください。

 キラーマンティスがぼやけて見えます。

 …でも、今なら30匹でも100匹でも倒せそうです」


そう言って、ヒロはキラーマンティスの方にゆっくり歩き出すと、再び大魔法でシュテリア大森林に大きな傷跡をつけた。

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