第74話 ボス

距離のあるヒロにもはっきり聞こえる声だった。

やけに響くガラガラ声。

人間の声だが、人間の声じゃない。


「え!?ゾームがしゃべっ…」


ウィルがそう反応した瞬間、人間の言葉を話すゾームが太い腕を裏拳のようにウィルへ放った。

ウィルは腹に一撃を食らい、5メートルはあろうかという距離を飛ばされた。


「ウィルさん!」


ヒロはとっさに叫んだ。

ウィルはただではすんでいないだろう。

戦闘不能であることは確実だ。


一体あのゾームは何者なのか。

人間の言葉を話す。知能があるということだ。

今日、時間を早めて襲撃したことも、奴の考えかもしれない。


近づくにつれ、ゾームの姿が確ヒロにも認できる。

蜘蛛の体にの上に、人間の上半身。その上半身は屈強な筋肉に覆われた男の体だった。

スキンヘッドの頭に、入れ墨のような紋章が入っている。

体には鎧を装着しており、兵器の矛は通りそうにない。


ヒロが到着するより先に、メグがその一回り大きなゾームの前に立ちはだかった。


「エルザス…!」


メグは、仇の名前を言った。

このゾームが、エルザスということなのか。


ゾームが答える。


「お、俺の名前を知っているのか。

 俺が人間だったころの知り合いか?」


「兄さんをどうした!」


「兄さん?

 人間は一杯食ってきたからな。

 すまんがいちいち覚えてない」


メグがファイアボールをゾームに放つ。

だが、バリアにかき消された。


「そのお前のバリア。

 それは、兄さんが得意だった魔法…!」


「お、おお。

 あの魔導士の家族か。

 いやぁ、あいつを食っておいてよかったぜ。

 このバリアは役に立っているからな」


「兄さんはやっぱり…

 お前は…お前は何者だ!?」


「俺の名前を知ってるなら、分かるだろ?

 コロシアムの格闘家、エルザス様よ。

 もっともっと強くなって、シュテールの人間を食い殺す。

 そのためにパラサイトスペクターの力でいろんなものを食って準備してきたんだぜぇ?

 それなのに、やけに俺のしもべどもの蜘蛛がやられるから来てみたら…

 こざかしい方法で倒してんじゃねぇか」


「目的はなんだ!?

 すぐに殺してやる!」


メグは兄の死を再認識し、頭に血が上っている様子だ。


「はぁ?

 なんでそこまでいろいろ話す必要があるんだ?

 今すぐお前は死ぬのに。

 俺に食われて」


エルザスの後ろから、さらに2体のゾームが現れた。


二体とも、エルザス同様、鎧を着ている。

これまでの方法では倒せないため、兵器も討伐隊も避けていた。

雰囲気も他のゾームと何か違う。


「こいつらは、俺が手塩にかけた特別な蜘蛛ちゃんたちだ」



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