第11話 特別な依頼

ヒロがコンサルティングを意識し出してから、数日が過ぎた。

レインの予言通り、ヒロの冒険者コンサルティングは繁盛していた。

ヒロが受付に立つ日は冒険者がいつもよりも多く来る。

ヒロはやりがいを感じていた。


だが、一方で、物足りなさも感じた。

これまでプロジェクトマネージャーとして、自分もチームの一員となって目的を達成してきた。

だが、この冒険者コンサルティングは、あくまでもチームビルディングの助けをしているだけだ。

もっと、元の世界にいた頃のようにチームで何かを成し遂げたい。そんな思いもあった。


ファシュファルはこの世界を豊かにしろとかほざいていたが、こんな無茶ぶりは上司にもされたことはない。

何をすればよいのやら。


そう思って今日も冒険者にコンサルティングしていた。

そんなヒロにレインが話しかける。


「ヒロさん、ギルド長が呼んでます。

 ここは私が代わりに対応しますから、ギルド長のところへ行ってください」


「え?ギルド長が?」


レインがヒロの耳元に口を寄せ、ヒソヒソ声で言った。


「(なんだか、特別な依頼のようですよ)」


いきなり顔を知近づけてきたレインに、ヒロは少し緊張しつつ返事をした。


「特別な依頼…王国からの依頼かな?」


なお、ギルド長とはこの冒険者ギルドの取りまとめをしている人間だ。

ヒロからすると、直属の上司となる。


ヒロはギルド長の部屋に向かった。

ドアをノックする。


「ギルド長、入りますね」


「おお、ヒロくんか。入ってきてくれ」


ギルド長のジューマンの声がした。


「失礼します」


部屋は応接間のような作りである。

部屋にはヒロ以外に、二人の男がいた。低い机を挟んで、二人が向かい合わせに座っていた。

一人はもちろん、ジューマンである。

ジューマンが椅子から立ち上がり、ヒロに声をかけた。


「ヒロくん。王国からお呼び出しだ。王国からの特別な依頼があるのだよ」


太った体。禿げ上がった頭。鼻の下には整った髭が生えている。

ジューマンの向かいの座席に、ジュドーがいる。


「ジュドーさん、こんにちは。

 1週間ぶりぐらいですかね。」


ヒロはジュドーに挨拶をした。

ジュドーとは、仕事の依頼で森の一件の後も何度か顔を合わせていた。

ジュドーがヒロに言葉を返す。


「おお、ヒロ!ヒロのギルド受付、評判いいぜ!

 助けた甲斐があったよ。

 いや、ヒロの魔法で結局俺が助けられたのかな?」


「そんな、ジュドーさんがいなかったら死んでましたから。

 感謝してます」


ジューマンが割って口を開いた。


「王国から、ギルドへ特別任務の依頼なのだよ。

 それで、私はジュドーくんを推薦したのだけどね?

 ちょっと、内容がちと複雑で、ねぇ」


そう言って、ジューマンはジュドーの方を見た。


「そうなんだ。

 俺は基本的に依頼は断らないんだが、今回の依頼は何をすればいいのか分からなくてな。

 ヒロなら、どうすればいいか分かるんじゃないかって思ったんだ。

 一緒に王宮へ来て、依頼内容を詳しく聞いてほしい」


「えっと、何をすればいいか分からない依頼ってどんなんです?

 具体的には、何をする依頼なんでしょう?」


ジューマンが答える。


「簡単に言うと、未知の魔物を討伐できるようにせよ、ということだねぇ」


「…なんですか、それは」


ジュドーも加えて話す。


「まぁ、本当にそんな感じの依頼なんだ。王宮に一緒に来てくれないか?」


「よろしく頼むよ」


ジューマンがヒロに向き直って行った。

ヒロがジューマンに尋ねる。


「いいですけど…ギルド長は同席されないのですか?」


「君に任せた!最近のヒロくんの活躍なら、きっと王国の特別な依頼も対応できる!」


ヒロは思った。

ダメだこいつは、と。

こんな新参者に王国からの依頼を丸投げするなんて。


ジューマンは、ギルドのまとめ役。一応管理職的な側面ががある。

ヒロからすれば、ヒロが部下でありジューマンは課長的な立場の人間だ。

が、ジューマンが管理をしている様子はなかった。いつも部屋にいて、何をしているか分からない。

面倒そうな依頼は、大体誰かに丸投げする。


元の世界で言うなら、ダメ上司である。


が、そんな上司の元で働いたことは、これまで何度もあった。

それに、もともと管理されるのが好きではないヒロは、逆に言えば放置してくれるジューマンの元で働くのもいいかと思っていた。

信頼されている、と肯定的に受け取るとしよう。


「了解です。王宮へ行って、依頼の詳細を聞いてきますね。

 ジュドーさん、行きましょうか」

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