第104話 ジョセフのいないクエスト(その1)
佐藤夏樹は結局テレサの言っていることが理解できずに黙り込んだまま寝室で枕に顔を埋めながらベッドに寝そべっていた。
「あぁ~、マジでテレサの言っていた執念の意味が分からねえ……強くなるためには根性入れて修行するんじゃダメなのかよ?」
テレサの執念とは一体何なのか、悩み苦しみ佐藤夏樹は考えるのをいつの間にか辞めていた。今分からないことを無理に分かろうと頭を抱えて答えが出るほど世の中はラノベやアニメ、マンガのようにご都合主義ではないことが分かっていたからだ。
元々佐藤夏樹は普通の高校生であるため戦うという意識自体が低かった為常に戦いの恐怖というものに怯えながら生きてきたテレサのように感覚が研ぎ澄まされているわけではないのだ。
「とにかく分からねえことを無理に分かろうとしたってぶっ壊れるだけだ。今は楽しいことでも考えるか……」
そうは言っても異世界には漫画やアニメなんてものはないため精々この世界の書物を読む程度しかない。佐藤夏樹は以前ジョセフに読み書きを教えてもらったためそれなりに言語を理解することはできるのだ。
「そこにいたのか?佐藤夏樹」
佐藤夏樹はハッとしながら顔を埋めていた枕をポイっと軽く投げ顔を見上げる。
「何だよ、ジョセフか……」
「何だはないだろ。どうせ暇ならこの本でも読んでおきなよ」
ジョセフは佐藤夏樹に『無属性魔法集』と書かれた本を差し伸べるように渡す。
「マリーがお前には無属性魔法の適正があるって言ってたからさ」
佐藤夏樹は「そんなものがあるならもっと早くに……」と小言を俺に言う。
ジョセフは(そんなことを言ったってそんな本があるの知ったのだって今さっきなんだから早くもくそもないんだけどな、細かい事気にしたってしょうがないんだけどさ)と内心思っていた。
佐藤夏樹は本を手にした瞬間黙々とページを捲り睥睨とした表情で本を読む。
「ジョセフ、これなんて読むんだ?ところどころ読めねえ部分があるんだけど……」
ある程度読み書きは教えていたんだけどまだ佐藤夏樹が平仮名程度しか読み書きができないことをジョセフはスッカリと忘れていた。
「これはだな、『言語理解』だな。この魔法はいわゆる固有魔法で呪文名だの詠唱しなくても発動できるみたいだな」
「お前はいいよな、その気になればチート能力を授けてもらえたのに貰ったのがこの世界の読み書きができるだけなんだからよ……」
佐藤夏樹はジョセフのことをかなり羨ましがりながら本を読んでいた。
「『言語理解』か……って、さっきまで読めなかった字が嘘みたいに読めるんですけど!」
「……ん、それはよかったじゃん」
佐藤夏樹は文字が読めることに喜びを感じ、他のページを次々と捲りながら文字を読みページを開く手が止まらずにいるのをジョセフはじっと見ていた。
「これが『ハイスピード』でこっちが『身体強化』か……文字が読めるようになるってのは楽しいもんだな。日本にいた頃だってここまで面白いと思えることなんてなかったのによ」
これは佐藤夏樹は化けるな。
「問題はお前の魔力がどれほどのものかだな。俺と同じくらいの魔力量であれば使いすぎない方がいいだろう」
「お前いつも『パープルサンダー』とか『スパーク』使いすぎでばてているからな」
「それにしても何で宮廷に?まだ早い気もするが……」
ジョセフは佐藤誠に尋ねると深刻そうな顔をしてジョセフに言う。
「テレサの奴に執念を感じないと言われてよ……俺は根性だけでなんとかなると思っていたのだが俺には何が足りないと思うよ?」
佐藤夏樹は俯いた状態で俺に答えを求めていた。
「それはもうお前自身が見つけているんじゃないのか?」
「んなっ?」
予想外の一言に佐藤夏樹は驚いたのか声を失っていた。
「おいおい、俺が悩んでいるのにそれはないだろ!」
佐藤夏樹はいつものようにキレのあるツッコミを俺に入れる。
「それでいいんだよ」
ジョセフはほっこりとしながらそう言うと「全く、お前に相談した俺が間違いだったよ……」と肩を竦め唖然としていた。
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