第99話 退屈な一日(その2)

 「リサ、宮廷には書庫があっただろ?そこに行っていい?」


 「私も一緒にならいいですよ」


 ジョセフはリサの了承を得て書庫へと二人で向かい寝室を出て長い廊下を渡り歩く。


 廊下や階段には赤い絨毯が地平線のように敷かれているためファンタジー世界の宮廷という感じがしておりジョセフが小学生の頃に異世界転移しているのなら間違いなく大はしゃぎしていただろう。だが、今は人生に……人類に絶望している状態で異世界に転移させられた身であるため好奇心というものは薄れていた。


 しかし、今日のジョセフは特段何もやることがないので書庫で本を読むくらいしか暇をつぶすことができない。


 ジョセフは普段本と言えばラノベか漫画くらいしか読まないのだがちゃんと小説を読んだとしたらアーサー・コナン・ドイルが執筆したシャーロック・ホームズシリーズの『緋色の研究』くらいしかない。


 ホームズはかなり面白い人物で必要ないと思った知識は部屋を掃除するかのような感覚で片付けていたりとかしているような人物でそんな風に脳内を整理できるというのは常人が簡単にできることではない。


 「リサ、書庫にはどのような内容の本があるんだ?」


 ジョセフは気になっていたためリサに尋ねる。


 「私も全部は分かりません。古代魔法だったり挿絵の付いた物語とか辺りはあったと思いますよ?」


 リサは曖昧な感じに答える。


 少なくとも色々な呪文の載っている本とか子供に読み聞かせるような絵本があるのは分かった。テンプレ展開を考えるなら間違いなく王国代々伝わる禁書があったりとかもするだろうがあまり伏線張ってしまうと後々面倒ごとに巻き込まれる可能性が大有りなためこれ以上詮索しない方が身のためだだとジョセフは判断した。


 「それにしてもどうして書庫へ?あまり愛する人の心を読んで不快にさせるのは良くないと思って心は読んでいないので理由が分からなくて……」


 「愛する人っ……か、好奇心ってやつだよ。どうせ魔物討伐とかできないのなら書庫でこの世界の知識を得た方がいいだろうから」


 そうだ、知識とは武器だ。


知識は誰にも奪われることもなく失うこともないからだ。


 どんなに強くてもそれを正しく使いこなせなければ意味がない。意味がないからこそ知識を身に着けどのように対策すればいいか考えていくしかない。


 世の中であるため本の情報を鵜呑みにするのではなく参考程度にしようと考えている。


 会社の上司が新入社員とかにマニュアルを渡し仕事を教えてくれるだろうがそれ通り仕事をこなすも時間がかなりかかったりすると「何で遅いんだよ!」と理不尽に怒られることなんてのはよくあることだ。かといって独自のやり方で仕事をこなすと「何で教えた通りにやらないんだ!」と上司が怒声をあげたりするため正直その辺りが社会の汚さというものなのかもしれない。


 ジョセフはそうこう考えていると書庫へと到着し扉を開ける。


 扉を開けるとそこはまるで図書館という感じに大きな本棚にズラーっと薄い本から分厚い本がびっしりと並んでいた。


 「ここが書庫です」


 「この前行った図書館よりも随分と凄いんだな」


 ジョセフは思わず声に出してしまいリサはクスッと無垢な笑みを浮かべる。


 「図書館に置いてある本の殆どは一部ここから貸し出しているものなんですよ」


 「そうだったのか……」


 「他国から輸入した本などは一旦こちらの書庫に保管してその後図書館に運ぶんです」


 リサが本の説明をし、ジョセフは取り敢えず本のタイトルを見ながらと思ったものを手に取りページをペラペラと捲り読む。


 「神様が言語能力が分かるようにしてくれたおかげでこんな感じに本を読んだりすることができるため退屈を凌げるのだがこれがもし身体能力や魔力類が底なし状態にしてもらったらこんな風にリサと一緒にここへ来ることはなかっただろうな」


 ジョセフはふと思い出し笑いをしながら本棚に置いてある本に手を取った。


 その本は『古の魔法集』と大きな文字で書かれた赤い本だ。


 「その本はどれも使い物にならない魔法しか書かれていないので読んでも使えるかどうかは分からないんですよ」


 リサは後ろからジョセフに言う。


 「そうなのか?」


 「はい、今ジョセフ様が開いているぺージに光属性究極魔法『インドラ』ていう魔法がありますが未だに体得できたものはいないと言われているくらいですし」


 「発動条件とかも書かれてないみたいだが?」


 「そもそも『インドラ』に限らずこの本に載っている魔法自体が誰も見たことがないみたいですし本当に存在したかも分からないので信憑性に欠けると言った方がいいかもしれません……」


 『インドラ』を体得したものが誰もいないというのにどうやってこの本に記載されているのだろうか。『インドラ』に限らず『アシュラ』『シヴァ』と言った魔法関連もだがそれを体得したものがいるからこそこの本が世に出たのではないのかと疑問が大きくなるばかりだが、今のジョセフとリサにそれを知る余地はないのだろう。


 『アシュラ』は闇属性究極魔法でありこれも発動条件すら書かれておらず、『シヴァ』に関しては光と闇属性の複合魔法みたいだ。と知りジョセフが何故か名前を知っていた『パープルサンダー』はあるのかとページを捲るとやはり『パープルサンダー』の名前が載っていた。


 『パープルサンダー』の発動条件に関しては光属性と闇属性魔法に適性あるものが毒などによる攻撃で瀕死になったり心に何らかの深い傷を負うことで無意識に発動可能になる、とのことで最初に作られた複合魔法で人間、魔人族でさえ扱うことが困難な未完成魔法であり命にかかわる殺人的な魔力消費を強いられるため広まることはなかったと書かれていた。


 「いや、これ普通に禁書じゃん……」


 「確かにこれは真面目に考えれば禁書の部類に入ってもおかしくはありません」


 ジョセフの傍らにいたリサは横から声を漏らすように言う。


 「俺が発動している『パープルサンダー』ってのが古の最初期の複合魔法ってのは分かったがやっぱりこの本に書かれている魔法がどんなものか知りたいとは思わないのか?」


 「知りたいです!ジョセフ様が使っている『パープルサンダー』が実現しているのですから他の魔法もどんなものか……」


 リサはこくりと頷く。


 ジョセフはこの『古の魔法の書』に書いてある魔法を体得できれば何とかこの世界の秩序と愛を守れるのではないかと考え始めるようになった。

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