第94話 スタンフォード邸(その3)
「ジョセフ君を見ているとリサ王女の婚約者は適任だなと見ていて分かるよ」
「スタンフォードさん、お世辞はいいですよ」
「いいや、私は本当に思っているよ。リサ王女が頑なに婚約を拒否し続けていたのに君を選ぶってことは相当リサ王女が認めているということでもあるからだよ」
スタンフォード氏の一つ一つの言葉からは嘘偽りなく本音を言っているみたいだった。ジョセフが昔読んでいたシャーロック・ホームズシリーズではワトソン博士とスタンフォードは元同僚の間柄らしいので王様にも忠実なる貴族であることは間違いないだろう。
ジョセフは異世界で今までまともな大人に出会うことがなかった為少しホッとしているところがある。スタンフォード氏の紅茶のチョイスが中々いいセンスをしているということだ。
「スタンフォードさん、この紅茶味だけでなく香りもいいですね」
「ほう、ジョセフ君はこの紅茶の良さが分かっているみたいだね。この紅茶はワトソン王国でもかなりの高品質なお茶の葉を使っているのだよ。砂糖がなくてもしっかりと味が楽しめるのもこの紅茶の魅力だよ。もし良ければこの紅茶パックを分けてあげてもいいがどうかな?手紙を配達したお礼として」
「ありがたくいただきます」
スタンフォード氏はとても親切で紳士的なアニメやラノベに出てきそうな貴族のような感じである。
日本でも紅茶を飲む人というのは少なく、コーヒーを飲むのが大人だと言わんばかりにテレビはコーヒーの広告ばかりをしていてジョセフは日本とは紅茶好きにとってはかなり住みにくいなと思っていたのだが異世界では寧ろ紅茶のような飲料水を飲む人の方が多いことに気付きまた異世界での生活に安心感が湧いていた。
異世界にコーヒーがあるのか疑問にも思うのだがジョセフは異世界で初めて美味い!と思えた紅茶に巡り合えたことには感謝感激していた。それをスタンフォード氏が少し分けてくれるというのだからジョセフはお茶の匂いを楽しみながらちびちびとゆっくりと飲むようになっていた。
「やっぱりスタンフォードさんが選ぶ紅茶は間違いありませんわ。この紅茶をジョセフ様と一緒に味わえると考えるだけでも贅沢なのに」
リサもこの紅茶を気に入っていたみたいで、少し大袈裟に言いすぎている部分はあった。
「確かにこのお茶は今まで飲んだお茶の中で一番美味しい……」
「うんうん、この紅茶売っている人見たことないけどどこで売っているんですか?」
テレサが紅茶を美味しそうに飲みながら今まで飲んだ紅茶よりも凄いと感動し、ジンジャーはスタンフォード氏に尋ねる。
「実はこの紅茶は王都でも販売されていないのだよ」
「「なっ!?」」
テレサとジンジャーは同時に声を出し驚く。
「このお茶は私自らが趣味で栽培している高品質なお茶の葉を用いているため大量生産はしていなくてね……」
スタンフォード氏自らが栽培している数少ない貴重な紅茶を頂けるのかと考えるとジョセフは肩を竦め声を詰まらせていた。そんなに大切なものを自分達は提供されているのかとジョセフは考えるだけで色々と迷惑になっていないのか心配になり、これを他の人が栽培してその味を再現できるかも怪しいものだった。
「スタンフォードさん、貴重な紅茶を俺達に提供して下さりありがとうございます。それでは俺達はこの辺りで失礼します」
ジョセフは普段人前で脱ぐことのなかった帽子を脱ぎ、スタンフォード氏にお辞儀をしお礼の言葉を述べ、スタンフォード邸を出る。
「ジョセフ君、君もリサ王女の婚約者であるなら陛下が他の貴族が王位を狙っているのは分かるだろうがこれだけは言っておこう、何があってもリサ王女の傍にいてほしい。王女は生まれ持った能力のせいで心を中々開いてくれなったのを君にかなり開いているみたいだからそれだけはお願いできるかな?」
「ええ、できるだけリサの傍にいられるよう努力します」
「これからも王女と陛下、この国の皆の為に貢献してくれることを祈るよ」
「はい!」
帰り際にスタンフォード氏はリサの傍にいるよう促したりとかなり王女と王様を慕っているのが伝わった。
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