孤児院の奇跡


 そこに現れたのは二人、御影とミュンだ。


 なぜ来れたのかレータは聞かなかった。


 何故ミュンと来たかわからないが、都市でも顔が利き手段は無数にある・・・・・・聞くだけ野暮という奴だ。


 院長先生に聞いていたので、レータはやっぱりかと思うぐらいでそこまで驚きはない。


 ただ理由について分からないだけだ。


 フェリスの策略について聞きたいのなら、レータはぼかしながら遠回しに忠告するつもりだ。


 成功すると嫌な予感がしたし、これまで幾多に渡ってフェリスの事を助けてもらっているので、ささやかな恩返しがしたかった。


「こんばんは。レータさん」


「一週間ぶりね、今晩は御影さん。いつもフェリスを助けてくれてありがとうね」


 御影と会う時はいつもフェリスがいるため言えなかった言葉。


 暖かい笑顔をレータは御影に向けた。


「肝心のフェリスは感謝しているんだかしていないんだか分からないですけどね」


 レータの純粋な感謝に、御影は頬を掻く。


「ごめんなさいねちょっと院長先生を呼んでくれないかしら。あなたにとってもいい話よ」


レータは心臓の鼓動が速くなるのを感じながら院長先生の部屋をノックする。


「院長先生、お客様です」


「今日来てくれたのですね。レータさんよく今まで頑張りましたね。さあ行きましょうか」


 院長先生は、すでに準備しており、期待と不安で入り交じったレータの背中を押し二人の前に立つ。


「ミュンこないだぶりね。御影さんご足労いただきありがとうございます。あなたのおかげでこの孤児院はおろか、たくさんの人が救われました。スラムの一員として感謝しています」


 院長先生は深々とお辞儀する。


「頭をあげてください院長先生。元々スラムの人達は救う気でいました。ある人との約束で、生まれや身分で虐げられたものに力を、困っている人には救いをと。それに、俺は昔、スラムの人達に救われました。だから俺は、場所はどうあれ、スラムの人達のために、微力ながら力になろうと思いました。この孤児院も岬やレータさんが関わっていると知って、力になりたいと思ったんです。ちょっと打算はありますけどね」


 そう言って御影は年相応の笑みで、純粋に笑う。


 それは学園では見せない御影の一部分。


 魑魅魍魎の学園や上位人よりスラムの方が余程純粋だと御影は思っている


 御影の言った事は本心だ。学園と都市を自由に行き来する伝手を得られたら、スラムの改革をしようと。


 今回は・・・・・・があるため時間がなく、優先事項とここ二週間やってもらいたいことをミュンに伝え、これからやるスケジュールは朝までびっしりだ。


 しかし御影は無理を言ってここに来た。


 病人を治すために。


 御影は敵には容赦しないが、基本的には善人だ。


 ギーレン達はその境界線を越えてしまった。だから犠牲となった。



「今からレータさんの息子さんを治療します。一つ約束して欲しいことは絶対にフェリスや他の人に言わないでください」


「命にかけて言いません」


 息子が治るのなら悪魔にだって魂を売り渡す。レータはそのぐらいの気持ちだった。


 御影はレータの目を見て頷き、寝ている病気の息子の横に座る。


 これは魔腐病だな。


 あっちの世界ではありふれた難病なので御影はすぐにわかった。


 魔腐病とは、魔力は普段血と同じで体内を循環している。例え魔法を使えない人でも、必ず元となる『マナ』は存在し、魔法や魔力に対する抗体を作っている。それが何らかの要因で上手く全体にいきとどかなくなり、いきどとかなくなった所から徐々に機能が低下し、やがて腐敗する。


 対処法は、魔法薬や治癒魔法を使ってもらい、外部から機能してない場所に魔力を取り入れる。


 初期ならその方法で四割の確率で治せるのだが、少年は重度なので、延命措置にしかならず、本当に治すのならかなり高度な治療魔法が必要だ。


 しかし御影はこの魔法を使えた


「彼の者に安らぎを、リヴァイブ・ラ・キュア」


 治癒魔法の中でパーフェクトヒール等と同じで最上級に位置する魔法。あらゆる病気、呪い、状態異常を治す。パーフェクトヒールは身体異常を治す最上級に対し今回の魔法は病体異常を治す最上級。


 その時見た光景をレータは一生胸に刻むであろう。


 神々しい光がレータの息子を包み込み、土色の手足が、白い顔が、赤みを帯びてきて、あんなに苦しそうだった表情が、安らぎ、呼吸がリラックスしていた。


「オルン」


 思わずレータは駆け寄る。オルンはゆっくりと目を開き。


「お母さん、何だか生まれ変わったみたいに楽になったよ」


 そんなオルンの感想をレータはぼろぼろと涙を流し優しく抱きしめる。


 その光景は見て御影は優しく微笑み、ギーレンに目配せし、院長先生に一礼して静かに去ろうとした。


「あの」


 レータは感謝の気持ちと、フェリスの陰謀を言おうとした。


「それ以上は言ったら駄目ですよ。レータさんはオルン君を守らなければならない。せっかく治ったんですから、これからは幸せに暮らしてください、まぁフェリスと関わっている時点であれなんですけどね。感謝の気持ちはフェリスの依頼を終わってから聞きます」


 何も言えずレータは御影が去るのを見届けた。


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