第三章幕間02~玲奈の決意~


「私は何もできなかった」


 玲奈は自分の手を見つめる

 

 この手は何のためについているのだろうか。


 私のせいで、親友の雫が亡くなった。


 御影は時間がないと言っていたのに連太郎の死を受けいえられず、私は失敗した。


 風花や二階堂家長女の清音の顔を見られなかった。


 私の選択で死なせてしまった。


 御影の判断は正しい。手紙に踊らされた私が原因だ。


 重度の洗脳魔法にかかっていた。連太郎の解析結果。


 そうなってしまっては、もう殺ししかなかった。頭ではそう分かっている。


 私は何をしたかったのだろうか。だが、一つ分かったことがある。


 御影だけは絶対に許さないと。連太郎を殺し、雫を救わなかった事実は変わらない。必ず償ってもらうと。

  

 ~学園長室~


「何故ですか、連太郎を殺した御影さんは罰せられるべきです」


 玲奈の出した計画を却下され、学園長に抗議している。


「確かに、そうなのかもしれません。ですが、亡くなったのは連太郎さんだけではないはずです。それに『フェイルゲーム』で人が亡くなるのは珍しくありません。それは分かっていることでしょう?」


「それは」


 玲奈は言葉に詰まる。


 なら、何もしないのか。犯罪者を野放しにするつもりか。フェイルゲームだからって何をしても許されるのか。


 いくつもの言葉が思い浮かぶ。


 しかし、玲奈にそれを正す力はない


「五大派閥会議でもう決まったことです。あなたも上を目指すなら覚えておきなさい。綺麗事だけじゃ物事は前には進まない。妥協と駆け引きを早く覚えることです。貴方の素直さは美徳ですが、上は魑魅魍魎ばかりです。大人になり天音の言うことをよく聞いて精進しなさい」


 学園長はもう様はないといわんばかりに視線をきり、仕事を再開する。


 玲奈は帰るしかなかった。


 大人になるって何だろうかと考えながら。




 ~クラブ室~


 S級クラブ『零宮の調べ』、構成人数は百人を越え、各学科のSクラスの上位、つまり各方面のトップクラスが在籍している。


 そのクラブのトップが生徒会長天野川天音だ。


 今日は部長室におり、玲奈の話を聞いている。


「つまるところ、玲奈さん、貴方は御影さんを罰し正当な裁きを受けてもらいたい。要約するとそういうことですよね」


 玲奈は頷く。しかし、天音は駄目な子供をしかるような表情で一から説明する。


 どうして駄目なのかを。


「一つ一つ説明します。御影さんの件ですが、フェイルゲーム内の殺人、御影さんの場合は正当だと判断されました。重度の洗脳魔法にかかった相手は、殺すしかない、それは分かりますね」


 語りかける様に、授業形式で問いかける


 それは、玲奈も分かっていた。一連の成り行きを聞かされ、連太郎にとって最善の手だったと思う。


 洗脳魔法にかかった人物は、軽度なら気絶させるか、強い衝撃を加えると解けるが、重度の場合御影がやった方法の他は殺すしかない。


 御影がやった方法も、本来この学園で十人使えるかどうかの魔法で非常に高難度かつ、特殊魔法だ。

 

「それは分かります。でも御影さんには、ほかにも救える力があった。だったら何で使わなかったんでしょうか」


 それは事件が終わった後、後日に御影に質問した言葉に近い。


 天音と御影は会ったこともない。しかし答えは同じだった。


「それは、仲間じゃないからですよ。救うなら相手は最良のことをするべきだ。貴女の悪い癖ですよ。御影さんは最善の判断をした。貴女も救われたうちの一人です。契約者を守る行為であったとしてもそれは事実です。なのに、それ以上のことを求める。傲慢ですね。貴女は踊らされて、自身の身も危険に晒した。貴女は自覚を持つべきです、学園長派時期ナンバー二として、貴女も今回狙われていた、なにも教えなかった私達も悪いとは思いますが火中の栗は拾わないようお願いします」


 コノヒトハナニヲイッタノダロウカ。


 これじゃあまるで。


「ああ、学園長は話されてなかったみたいですね。なら私から説明します。今回の件はクラブ派の内部分裂と御影さんの契約者フェリスさんの排除の計画は私達学園長派も掴んでました。今回は傍観者として、一切関与しないことを学園長と話し合って決めました。細かな作戦内容や貴方まで狙われるとは知りませんでした」


「知っていたのですか」


 知っていてなにもしなかったのか。玲奈には信じられなかった。


「上に立つものは時には何かを切り捨てなければなりません。それが親しき間柄だったとしても。その判断をできるようになりなさい。そのために貴女はここに来たのではないのですか」


 私がここに来たのは。


 天音がまだ説明していたが頭に入ってこなかった。








 待ち人がやってきた。相手はカティナだ。


 あの出来事から話していなかった。


 陽気なカティナには珍しく顔が険しい。


 「こんなとこに呼び出してどうしたってんだ」


 今二人は校舎裏にいる。


 「今からでも遅くはありません、御影さんのクラブを辞めるべきです。あの人は悪魔です。連太郎や雫を救う方法があったのに、救わなかった。あんな人と一緒にいるべきではありません」


 「聞かなかった事にしておくよ」


 カティナは感情を抑え、帰ろうとする。


 「待ってください」


 玲奈はカティナの手を掴むが振り払われる。


「これ以上玲奈を嫌いになりたくない。師匠の言葉よりも、誰だが分からない手紙を信用して、師匠を妨害して雫を死なせた。師匠は神じゃねーんだ、死んだ人を生き返らせるわけねーだろぉ、玲奈ならそんなこと分かってるだろ。しっかりしろよ、なぁ!!」


 カティナは胸ぐらを掴み、押し出す。


「パーティーは解散しよう。二人じゃ無理だし、思い出がありすぎて私もつれぇよ。私は師匠についていく。敵同士にならないことを祈るよ」


 今度こそカティナはこの場を去る。


 この日、玲奈は全部失った。パーティーも親友も幼馴染も。


 無くして決心する。誰も御影を裁かないなら、私が裁くと


 二つに分かれてしまった道が交差するとき、何が起こるのか、それはまだ誰にもわからなかった。

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