それぞれの思惑、そして最終局面へ

「殺す殺す殺す」


 念仏のようにぶつぶつと呟く連太郎。


 顔は無表情でもはや面影もなかった。


 御影は一目で分かった、操られていると。


 全く胸くそが悪い。


 御影はこの魔法を知っていた。


 幻惑魔法の一種で催眠魔法。


 御影は使えるが、あちらでは闇魔法と並ぶ禁忌の魔法に設定され、使われたものは術者が解除するまで解けない事から別名『洗脳魔法』とも呼ばれている。


 しかし・・・・・・と御影は思う。


 あの魔法は対象者より数段上の魔力と技量がなければかからないはずだ。


 少ししかいなかったが魔法の腕前は、シンリィと水流より上だった。


 全てを知っているわけではないが、御影が考えている人物なら、それは難しい。


 だとしたら・・・・・・。


 御影は槍を構える。


 突破口はある。













「馬鹿か貴様等、全く、気を抜きすぎだぞ」


 副部長がスイッチを押した時、只一人、舞先生は磁場障壁を敵を包むようにして展開し、爆発を上へと逃がした。


 計算して意図的に、種次達の近くに、火の粉をふらせたのはご愛敬だ。


「面目ない癒杉教諭。僕は肝心な所でいつも失敗する。何のための予測なのだよ」


「ご、ま、は(ごめんなさい舞先生。反省してまーす)」


「すいません、癒杉先生。油断していました」


「へっへーん、いーじゃねーかよぉー、こうして助かった・・・・・・あつっあつっ」


 三下の尻に火の粉が飛び散り、三下は手で尻の火の粉を払いながら走り回る羽目になった。


「全く、貴様は反省が足りないぞ。それはそうと、結局は間に合ってしまったか、御影は甘やかしすぎだぞ」


 呆れた視線を三下に向け、後半は独り言だ。


 舞先生が思う、御影が契約者のフェリスに対する対応。


 舞先生自身はフェリスに対して思うところはない。どこにでもいる一生徒との認識だ。


 最も、御影に対するフェリスの傍若無人さ、調べた後の印象は最悪に近いものだったが。


 御影がフェリスに対して行ったことは、はっきり言って御影らしからぬ過保護すぎるものだと思った。


 まずフェリスを一人で初心者ダンジョンに挑戦させたとき、教師らしからぬ事だと思ったが、このまま失敗してくれればいいと思った。


 教師はやっていても人間だ。人並みの欲もある。御影という貴重な人物を目の前にそう思うのも無理はない。


 結局、最後は御影が気絶しているフェリスを抱え、スライムは倒しクリアした。


 そこまではいい。百歩譲って契約者だ。契約者を成功させるのは当然の行為だし、終年契約しているなら一蓮托生だ。


 しかしこの後行った事に舞先生は目を見張った。


 恐ろしく高度な魔法陣。おそらくだれも解読できないだろう。


 これでも日本有数の知識を持っていると自負している。その私でも分からなかったんだ・・・・・・おそらく。


 そして、数々の危機をフェリスが知らぬ所で阻止してきた。


 舞先生は疑問に思う、あれだけ罵倒され、最低辺の契約をし、御影がしたことは報われない。何故そんな人物を守るのか。


 それをぶつけたとき、御影は苦笑いしてこう答えた。


 ・・・・・・だと。


 だから、今回御影には伝えなかった。彼は『呪縛』から解き放たれるべきだと。


「結局無駄になったか、全く規格外すぎるぞ御影」


 そう呟き、哀愁を見せたのは一瞬で、さてと・・・・・・と、舞先生はいつもの意地の悪い笑みで種次達の方に向く。


「早く行くぞ。この一連のフィナーレだぞ。喜べ、特等席で見せてやるぞ」


「お手柔らかに頼むのだよ」


「み、も、が(御影さんのために、もう一仕事頑張るぞー」


「はい、私も頑張ります」


「へっへっへっ、おれっちはこの辺で」


 逃げようとする三下の首根っこを捕まえ、舞先生達はとある場所に向かう。


 種次は兄が言った事を思い浮かべた。


 少し違う部分もあるが、概ね目垣一の『理解』通りに事が運んでいる。


 そして種次は、この後の展開も一に教えてもらっている。


 この一連の出来事で、二階堂雫、藤島玲奈、七瀬連太郎、フェリス、ラビ・・・・・・が死に、四人が学園を去り・・・・・・二つの勢力が力を落とす。


 この結末を変えられるとしたら。


 頼むのだよ御影。







 ~藤島玲奈の自室~


 変な胸騒ぎがして、いつもは寝る時間なのに、起きていた。


 むっ、


 そして、こんな夜更けにベランダ方向から矢が飛んできて、玲奈は掴む。

 

 明確な殺意はなく矢には手紙が括り付けられていた


 それを呼んだ後、手早く身支度をすませ、何処かへと向かう。


 局面は最終段階へと移行する。


 果たして結末はどうなるのか。


 それはまだ誰も知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る