豪の思惑とフェリスの危機

「何の音でしょうか」


 倉庫にいた、御影と雫にもその音は聞こえた。


「気にするな、今は自分達のことだけに専念しろ」


 音が気になる雫に、御影はそう叱咤する。


 本音を言えば、御影も音の方に向かいたかった。


 音の方角、距離からHクラスの寮近くで、何かがあったのだろうと推測できた。


 しかし、まだやることは終わっていない。


 倉庫を出た二人は、追っ手の『夜露死苦』のクラブメンバーを倒しつつ、目的の人物の方に向かった。


 幸い、あっちをこちらの方に向かっており、時間にして二十分、三十人ほど倒した頃に、目的の人物と遭遇した。


「よぉ、また会ったな。貴様のせいで全てが台無しだ」


「敵対した者を潰しただけだ。そんな事をいわれる筋合いはない」


 豪は唾を吐く。


 反吐がでるほど御影の表情は涼しげだ。


「さっきの爆音を聞いたか。仲間がてめぇの寮を爆破した。お仲間達は死んでるだろうな」


 豪がばらしたのは、只、御影や雫の苦痛にゆがむ顔を見たかったからだ。


「なっ!風チャンはどうなったのですか」


「あっ!だから言っただろう、死んだと」


「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」


 激高した雫は、扇で斬りかかろうとするが御影がそれを止める。


「冷静になれ。相手の思う壺だ。豪は『現場』を見ていない。すべて臆測だ」


「けっ、すかし野郎が、まぁいい、こんなとこにいてもいいのか。また『大切な仲間』が消えるぜ」


 豪が持っている情報を話す。今度は確実な情報で、初めて御影の顔に焦りがでる。


 そっちは完全に予想外だった。


「5分以内に必ず帰る。それまで任せていいか」


「任せてください。もう頭は冷えました」


「頼むぞ」


 言うが早いか、御影は姿を消し、豪も追わなかった。


 豪の狙いは最初から雫だ。


「てめぇをぶっ殺す。それが俺の禊ぎだ」


 死んだ副部長のために、ついてきた仲間たちのために、成功したという証がほしかった。


 豪は殺気を漲らせる。


 もはや捕獲というのは頭になく、殺すか殺されるかの命のやりとり。


「なんのことか分かりませんが、風チャンに危険を及ぼしたものは、お姉ちゃんが許しません」


 一瞬の静寂の後、二人は激突した。















 ~指揮科一年D組の寮~


 アパートタイプの寮で二人一組の部屋割り。外は持ち回りで、護衛の方々が複数いる。


 個別の部屋は二つあり、中間にリビングがある。そこの住人、フェリスとラビはリビングにいた。


「又御影が昇格したの、クソなの死ねなの」


 熊のヌイグルミをぼふぼふ殴るフェリスにラビは苦笑する。


「フェリスちゃんは御影さんのこと嫌いなの?この前会った時の印象はいい人そうだったんだけどなぁ」


 ラビは極度の人見知りだが、幼なじみで親友であるフェリスしかいないので普通に話せた。


「ラビちゃんは見る目がないの。ちょっと実力があるからって調子に乗ってる、お金に意地汚い屑野郎なの」


 この場に御影がいたらどの口が言ってると抗議するが、居ないので、フェリスは言いたい放題だ。


「あはは、フェリスちゃん、じゃあ何で御影さんと契約したの?」


 酷い言い様にラビは苦笑しつつ、純粋な疑問をフェリスにぶつける。


 そんなに毛嫌いしているのなら何で契約したのかと。


「やむにやまれず事情があったの。そうじゃなければあんな奴・・・・・・、そんな事より、ラビちゃんのこと聞かせてほしいの、まだあのくそ幼なじみと契約しているの?」


 話したくないのか、フェリスは強引に話題を変える。


 さっきまではしかめっ面だったが、瞳は好奇心に満ちていた。自分の嫌なことは聞かれたくないが、友達や他人の事は聞きたいらしい。


 今度はラビが言いずらそうだった。


「う~ん、そんな事言っちゃ駄目だよフェリスちゃん、あの人はあの人でいろいろ忙しいと思うの、だから仕方ないよ」


 この前フェリスがラビをダンジョンに誘ったのは、ラビがまだダンジョンに入ったことはなく、一学期の課題がまだと聞いたからだ。


「まだあの言葉信じてるの?あの野郎は詐欺師なの」


 幼なじみは戦闘科で、『俺が仲間を集める』といったきり、姿を現さない。


 しかしラビは信じて待っていた。


 会いに行こうと思えば会いに行けるが、邪魔になるから会おうとしない。


 そのことがフェリスには歯がゆかった。


 正直幼なじみの事はどうでもいいが、ラビが可哀相だった。


 今回はごり押しで何とか通したが、次回は同行での試験突破は禁止された。


 完全に出遅れたラビ。今は売れ残っている奴は、学期契約専門の高額フリーか中途入学者か、どうしようもない屑か。


 お金があまりないラビは一番目の選択肢は取れず、二番目は凄く競争率が高いため『獣人』であるラビが選ばれる可能性は低い。


 残るは後一つしかなく、フェリスはどうにかしたかったが、自身も『嫌われ者』であるため協力は・・・・・・。


 そんなときフェリスにある妙案が浮かんだ。


「ラビ・・・・・・」


 フェリスが何か言おうとした時、庭が騒がしかった。


 争うような音。敵襲だった。


 護衛の誰かが吹っ飛びバリンとカラスが割れる。


「きゃあ」


 ラビが悲鳴を上げ、フェリスにしがみつく。


 そして・・・・・・。








「・・・・・・殺す」


 窓から入ってきたのは四人。護衛で守っていた剛我達は既に倒されていて、守る者はもはやいない。


 侵入者は無慈悲に、フェリスにナイフを投げた。












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