衝突、御影対雫01

「芭蕉線」


 雫は器用に全ての扇子を投げる。


 人間が回避する動作は決まっている。


 屈む、ジャンプする、後退する、左右に避ける。


 雫の芭蕉線はその全てに対応した技で、左右に三つ、上下に三つ同時に投げることによって回避できなくする。


 スピードは気も乗り、百五十キロ程度。御影との距離からして一、二秒程度。


「甘いぜ」


 一瞬の内に槍で弾き落とす。


 常人には早くても御影には止まって見えた。


「開け」


 これで決まるとは思ってなかった雫は次なる策にでる。


 扇が開き、電動カッターの様に回転しながら、再度御影を襲う。


「魔力糸か」


 弾いてもたたき落としても再度戻ってくる扇子に御影はそう 結論づける。


「あらあら、分かってしまいましたか。どうされますか御影さん」


 御影の言った通り雫は扇子に魔力糸を接着させることにより自在に操っていた。


 魔力糸自体はステージ一の生活魔法で、普通の糸の代用として変わりに使ったり、物をくっつけるために使ったり、物干し竿代わりに使ったりと便利魔法として認知されているが、雫はそれを応用して、扇子に魔力糸をくっつけ自在に操っている。


「こうするぜ、断罪」


 扇子を一カ所に集まるよう弾き、ギロチンの様に上から叩き割る。


「あらあら野蛮ですわね。でもこれでチャックメイトです」


 雫の本当の狙いは、御影の足止めで、扇子に付けた魔力糸とは別。隠蔽していた魔力糸で御影をぐるぐる巻きにして拘束する。


「で、どうする気だ」


 御影はまだまだ余裕そうで、涼しい表情で出方を窺っている。


 雫はたまらなく不愉快だった。


 今優位に立っているのは私です。なのになんですかその表情は、・・・・・・から生かしておけといわれましたが・・・・・・殺しちゃいましょうか。


 上からの命令で、半殺しで済ませようと思っていた雫だったが、叱責覚悟で殺そうと決意する。


「ひと思いに殺しちゃいます。元の姿に戻れ」


 一つの扇を手にとり魔力を流す。


 扇子が扇になり巨大化する。


 雫の背丈ほどの扇になり、御影に詰め寄り腹から真っ二つにするべく薙ぎ払う。


 手応えが無い、肉を切り裂く感触も、骨を斬る感触も。


 しかし目の前の御影は口から血を吐きながら、上半身と下半身が分かれている。


 まさか。


 雫は一つだけ心当たりがあった。


 唇を強く噛みしめ、つぅーと血が流れる。


 御影の死体が消えた。


 やはり幻術魔法、でもいつからでしょうか。


 特殊魔法に分類される、幻惑魔法と呼ばれるステージ4相当に属する魔法。


 特殊魔法はオリジナル魔法ともいわれていて、ほんの一握りしか使えず、使える特殊魔法も一人一人違う。そして、その人の切り札として使われる場合が多い。


 雫は魔法辞典を読んだ事もあり偶然覚えていた。


 しかし・・・・・・と思う。幻惑魔法は、特殊魔法の中で比較的メジャーで使える人も多いが、それでも魔法使いでもない御影が使えるのは雫には理解不能だった。


 御影の気配を必死に探る。


 上!


 御影の突きを大扇で受ける。


「やるな」


 御影は距離をとりそう口にする。


 幻惑魔法からの一突きで、雫を昏倒させる予定だった。


 舞先生この世界での魔法事情を聞き、特殊魔法の幻惑魔法で勝負を決めにかかっていたが、知っていたようで対処方法も完璧だった。


 かけたのは、雫が最初に攻撃する前、既に雫の気配に気付いていたが分からない振りをした。


 かけた幻惑魔法は八級の弱い魔法で、激痛を与えれば解除される様な、そんな魔法だ。


 もう少し強い魔法をかければよかったと後悔しながらも、この戦いを楽しんでいた。


 御影にとってこの戦いはウォーミングアップみたいなものだった。


 相手が本気なのが好ましく、今の雫はまさにうってつけだった。


 なめられていますね・・・・・・この私が。


 雫にとってここまで虚仮にされたのは初めての経験で、血が沸騰するように、煮えたぎっていた。


「一つ言い忘れていました。玲奈さんより私の方が上です。戦闘科一年S組第十二席二階堂雫・・・・・・後悔しても遅いですよ」




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