クラス替え試験05~御影対ドゲ~


 正直、プゥや目垣や三下やボブじいさん以外の0クラスの人達の人となりを三週間たった今でも御影はあまり知らなかった。


 喋ったことも一言二言、話しかけても興味無しの無関心。


 目はあらぬ方向を見ており精神が死んでいる様だった。


 俺が四月に帰ってこれれば彼らを救えたのだろうか。


 御影は担架の方を見る。


 どう足掻いても過去は変えてないけない。だが。


 相手を見る。


 貧乏くじを引かされたようなやる気のない顔で、そばかす顔の中肉中背の男は、構えず剣を下ろしたままだ。


 開始早々参ったと言わんばかりに。


 俺の知らない五月にやられた0クラスの人達の分まで敵をとってやる。


「さぁさぁさぁ、とうとう最後にして、本日のメインイベントの始まりりまだぁ~!はたしてたして、奇跡の一日の一人『御影友道』の実力はいかに、注目の一戦が今始まります。


「第十試合、0クラス、御影友道対Hクラス、ドゲの試合を開始する」


 ドゲは自分の運の悪さに落ち込んでいた。


 よりにもよって奇跡の一日の一人とあたりことになるとは。


 元々0クラスをいたぶるために参加した。一人、実力が違う新人が入ってきたのは新聞や噂で聞いていたし、当たったら恨みっこなしだと、Hクラスの面々と話していた。


 実力が遙かに上の御影と戦う気は試合が決まった時点で無かった。


 コインが落ち、ドゲが降参を口にしようとするが、口が開かなかった。


「最初に言う、すまんな。個人的に恨みはない。だが今までやられてきた0クラスの分、俺達がHクラスに行って舐められないよう。他の派閥への牽制、理由は多々あるがお前には見せしめになってもらう」


 ドゲは震える視線で審判をみて悟る。


「お前等がやっていた手だ。因果応報、恨みっこはなしだ」


 舞先生に頼んだことは二つだ。


 一つは消失事件の黒幕を見つけてもらうこと、二つ目は審判と渡りをつけてもらうこと。


 威圧と殺気を織り交ぜ、舞先生立ち会いの元、顔を蒼白にした審判と契約した内容は三つ。


 一つ、目垣、プゥ、三下の試合は公平に行う。


 二つ、ゼロクラスの人間が降参を言ったら素直に従うこと。


 そして三つ目は、なにがあっても御影の試合を止めないことだ。


「喋れないだろう、お前の喉を指弾で潰した。今から行うのは戦闘でも何でもない、お前等の言葉で言うところのショーだな。喜べ、お前が主役だ。最初で最後のな」


 正直言って、先ほどの光景は異世界では腐るほどみてきた。する側、させる側。ほんの拍子でそれが逆転したり、窮鼠が猫を噛んだり、いろいろなシュチュエーションだ。


 誰かがやらなければならないと御影は思っていた。


 観客は必ずしも善良なものばかりではなく、派閥や高位のもの、あるいわその関係者が見に来ているのは、今までの試合で、観客席から感じていたし、その中でも悪意の視線も多々あった。


 実力を、敵になるかどうかを、今の内に潰すかどうかを。


 だから誰かがやらなければいけないのだ。


 三下は実力がまだない。プゥは殺してしまいかねない。種次はそういう経験がない。


 だから最後の選手は自分にした。


 御影達に牙を向ければどうなるかを。


 ドゲの爪が一本弾け飛んだ。二本三本四本続けざまに弾け飛び、両手の爪が無くなった。


「続いて関節」


 駆動できる関節をねじ曲げる。


 口をめいっぱいに開け、声にならない叫び声をあげるが、声を封じられているため出せない。出せたとしたら、騒音になるような凄まじい絶叫だろう。


 蛸のようにぐにゃぐにゃになり置物のようにドゲは立てなくなった。


 普通ならあまりの痛さに失神するが、御影がドゲの精神に魔法で干渉し、気を失うことを許さない。


「まだまだこれからだ、絶望するにはまだ早い」


 ドゲは悟る。今日は人生で一番の厄日だと。




「もうやめなさい。審判、序列十五位、戦闘科一年S組藤島玲奈が命じます。0クラス御影友道の勝ちとし、この試合を終わらせなさい」


 五分後、見るに見かねて、観客席から飛び降りてきた突然の乱入者に試合を強制的に終わらせられた時には、髪は老人の様に白髪で、口からはだらだらと涎を垂らし、精神は崩壊していた。



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