クラス替え試験の説明


 それから、少したった後、クラブの練習場に御影達は帰ってきて、すでに皆が揃っていた。


 明日から一週間、クラス替え試験が行われるので、その対策だ。


「まずカティナと美夜はどうなんだ」


 今週、昇格か降格か、クラス替えの試験に挑む人員が発表されたが、いろいろありすぎて聞いていなかった。


「私は何とかぎりぎり降格試験をまのがれたよ。師匠に出会わなければ危なかったよ」


 当落線上にいたカティナは、ここで模擬戦に負ければ、降格試験を受けるという試合に勝ち、何とか難を逃れた。


 最も、これから当分そんな危機はないだろうとカティナは思っていた。


 何故なら今の実力は藤島玲奈と二階堂雫には勝てなくても、その次ぐらいにはいるだろうと思っていたからだ。


 しかし、いつまでも甘んじているつもりはカティナにはなかった。


 いつかトップの玲奈を超える事がカティナの目標となっていた。


「現状維持。元々昇格試験に選ばれるような成績じゃなかった。でも来月は必ず昇格する」


 元々、Dクラスでは中間より少し下付近にいた美夜は、今回は昇格できるとは思っておらず、クラス替え昇格試験の発表の時も、興味なく、落胆していなかった。


 それよりも、美夜には勝ちたい人ができた事の方が大きかった。


 御影や舞先生は目標としているが、実力が違いすぎて足下にも及んでいない。


 三下は問題外だが、プゥや種次は時折ヒヤリとする場面もあるし、成長しているのが模擬戦を通して肌で感じている。


 クラブの仲間としてその成長を嬉しく感じるが、しかし成長しているのは美夜も同じで、今まで一度も負けた事はなく、これからも負けるつもりもない。


 そしてカティナ。


 御影の一番弟子を自称し、絶対に勝ちたい相手。


 通常の速度や、手数、技のキレは美夜の方が上だが、パワー、技の種類や戦闘経験の豊富さ、決めにかかるときの最高スピードはカティナの方が上で、模擬戦での勝率はカティナなの方が上だ。


 少し上をいく勝てそうで勝てない相手。


 それが悔しくて、より一層訓練に集中し、御影から癒魔法を教えてもらい、アドバイスをうけ、自主練の密度を数倍増やした。


 カティナには絶対に言えない事だが、このクラブに入ってくれて、出会えて感謝していた。


 美夜にとってカティナは、ライバルであり、切磋琢磨する戦友であり、何でも言い合える親友であった。


 御影の訓練が一番の原因だが、カティナがいたからこそ、それ以上の実力の伸びを見せていると、美夜は思っていた。


「半年以内にSクラスにいく。首を洗ってまて」


「はっ、上等。半年後じゃなく、今すぐボコボコにしてやるよ」


 二人は仲間達から離れ、模擬戦を始めた。


 いつものことなので特に気にしない面々は次の話題に移った。


「これからが本題だ。0クラスは昇格試験の人員はどうやって決めるんだ。後風花、よかったらHクラスからでる人物の情報を教えてほしい」


 昨日の発表では、0クラスの名前は無く御影は不思議に思った。御影の見立てでは、三下の実力は怪しいが、他の面々の実力はHクラスには十分昇格できると思っている。どういう人物かでるのか、情報が欲しかった。


とうとうこの時がきたのかと、悟ったような表情で種次はプゥと三下に目配せし、語った。


「0クラスの場合、志願制で、希望すれば誰でも昇格試験を受けられるのだよ。そこで決まらなかったら、推薦で、最終的にじゃんけんといった形で必ず十人の『生贄』が決められる。普段の大量消失は一週間前まで長い間無いのだが、月に一回十人試験を受けるうち、半数以上がいなくなる事が必ずあるのだよ。風花と情報が被るかもしれないが、出てくるHクラスの降格試験の人員は0クラスと同じで志願制。0クラスと違う点は志願者が多く人気があることなのだよ。

四月は『あの人』がいたからそうでもなかったが、五月のクラス替え試験は、それはもう酷いものなのだよ。Hクラスにとって僕達0クラスとの戦いは単なる憂さ晴らしで、審判も見て見ぬ振り。最初に棄権しても聞き入れてもらえず、ボロ雑巾のようになり、尚もにやつきながら攻撃していた。大多数のHクラスの生徒はそれを見て、勝負は決しているのに、もっとやれとはやしたて、笑っていたのだよ。許すまじ行為だ。しかし、当時の僕達は力がなくて、助けようとも、矛先が僕達の方に向かうんじゃないかと思うと、恥ずかしい話だが前に進む勇気は無かったのだよ」


 種次は力無く自分の手を見つめる。


「今の力が当時あればと思わずにはいられないのだよ」


 断末魔の様な絶叫をあげ半殺しにあった0クラスの面々の、姿が、声が、こびりついてはなれない。


 三下もプゥも風花もその光景を目にしており、思うところがあり、一同下を向いていた。


 そして、種次は拳をぐっと握る。


「御影のおかげで、僕の計算でも、明日は百%に近い確率で勝てる。それこそ、あいつらがやった様に、いやそれ以上に相手にダメージを負わせることも可能なのだよ。だけど僕はそれをしない。あっといわせるぐらいの格の違いで、クリーンに勝って見せるつもりなのだが、皆はどうだろうか」


「め、い(眼鏡もたまにはいいこと言うね、プゥは一瞬でしとめてみせる~)」


「へっへっへっ、眼鏡たちと違っておれっちはぎりぎりだから旦那直伝の技で、勝ちを拾うぜぇ~」


「僕の名前は目垣だ。僕達の方針はこんな所だが、どうだろうか」


「それだけ考えているのなら、なにも言う事はない。明日全員勝つぞ」


 四人の拳をあわせ明日の勝利を誓い、その日は軽い練習で終わった。


 御影は、暗く沈んだ表情でなにも喋らない風花の事が気にはなったが、その日は何も言わず、明日に備え、早めに帰り寝た。


 明日は『色々』動き出すだろうと思いながら。

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