第102話

 さて、サラッと出てきてそのまま話を進めるスキルでも持っているのかと言いたくなる人がご登場。


 登場二度目にして名前が出たはずなのに紹介は無い。


 ある意味作者殺し。


 加賀かが ゆい


 戦場と言う目立つ人の影に潜む、虎徹よりはましなちみっ子である。

 とは言え、ある一点においては間違いなく学園内最強なのだが、そんなことを口にしよう者なら保護者、もとい守護者の戦場に叩きのめされること請け合い。

 一部熱狂的なファンが存在するものの、本人に自覚は無く、華奢な見た目に気弱な雰囲気で行く先々に保護者志望者を生み出していく、ある意味やばい奴である。


 え、虎徹よりはましってどのくらいかって?

 ……虎徹の名誉のために黙ります。


 *


 ということでそんな小さい虎徹の現状を語る前に平花は勝手に出ていったことだけ明記しておこう。


 さて、噂のちっこい虎徹は現在、


「ふふふ〜、可愛いですね〜」


「……なぁ、これどういう状況?」


「……すまん、先輩。優奈は可愛いもの好きでな……」


「だからって先輩の頭撫でてふわふわした笑顔浮かべるか?」


「本当にすいません」


「でも止める気なしの青野に拍手」


「もう人いねぇよ馬鹿野郎!」


 気まずい、と言うかもうなんか平花が怖い空気だしたせいで倉持魔王がショート。半分壊れた状態で虎徹の頭を撫で出したという、それだけの話である。

 存在感の薄い白狼しろのわ象記しょうじがほっこりその光景を眺め、叶恵は現状をほぼスルー、青野に至っては謝るだけで目線は完全に優奈に向かう始末。


 ちなみに虎徹は恥ずかしさで爆発寸前のボム兵状態である。傍から見れば泣きそうな小学生の弟を姉が慰めている光景にしか見えない。と言うか、わかっていてもそうとしか見えない。不思議なものである。どちらもゆるキャラ気質があるからだろうか?


「「なんか今失礼な言葉が聞こえた」」


 お願いだから虚空こっちを見つめないで。


「まぁ、今はあれだ。平花逃げたし、戦場先輩いないし、他の客もどっか行ったし……」


 叶恵、仕事が無くなって目が死ぬ。ワーカホリックの可能性があるかもしれない。


「しゃあねぇだろそれは。もういっそこのメンバーでまわ」


「青野さんは私と一緒に回ります〜」


 さすがは魔王、この状況でなんの躊躇いもなくデートをすると言い張る。おかげで叶恵の目には光が、二年生三人組の目には闇が灯る。


「おう、行ってこい。そんでもってツーショットでも撮って送って来やがれ」


「全身全霊をもって拒否してやるよこの野郎」


「最近糖分が不足してんだ。頼む」


「何の話だよ!?」


 戦場平花関係で最近周囲のイチャつきをみていない(ゼロとは言ってない)叶恵。巫山戯てやり過ごすにも限界が近かったようである。


「……俺らにはここは早すぎた」


「そうだな」


「帰るか」


「「おう」」


 そして二年生三バカはひっそりとその場を離れていったという。


 *


 五分後。


「だーもうわかったよ!送りゃ良いんだろ送りゃ!」


「物分りがいいようで助かる」


「ふふふ〜、砂糖で窒息死させてあげますね〜」


「え、マジ?頼むわ」


「……さすがのボクでも引くかな」


「素に立ち戻るのやめてくれません?」


 叶恵の本音にドン引きした優奈による口撃は叶恵の精神に大ダメージを与えたとか与えてないとか。


 なんでわかんねぇんだよって?


 どうせこの後ストーカー紛いのことでもしてニタニタ笑ってるようなやつの心配、いります?


 *


 更に十分後。


「えっと……これってどう言う状況なのかな?」


 場所、一年五組教室。


「見たまんまよ」


 混乱するは和之。死んだ目で応じるは王小路。


「いや、でもあれ……」


「原田くん、気にしたら負け、という言葉は知ってるかしら?」


「…………」


 両者の視線の先には、


「なぁ、平花。ここで会ったのはもはや必然ではないか?運命と言うやつなのではないかと私は睨んでいるのだが、君はどうだ?」


「……俺の奢りで飲み物くらいはやるから離れてくれないか……っ?」


「断る!」


「と言うかなぜ貴女は!?そして先程の明日発言はどこに消えた!?」


「知らん!服装はたまたま一着余ってると聞いたのでな。丁度いいやと借りただけだ」


「嘘をつけ!ってそうじゃない!経緯を教えろと言ってる!」


「ん?正直に言っていいのか?なぁ、いいのか?」


「…………っ!」


 めっちゃ歯ぎしりしている平花である。その目の前にはメイド服の戦場。

 元々スタイルがいいクール系なのに可愛い系のメイド服がやたらと似合う不思議現象である。

 未だに駄弁っていた安姫、春来、加賀の三名含め、他に教室にいた、そう、女子全員が見蕩れるというこれまた不思議現象である。

 男子はどうかって?言う必要あります?


 普通に会話している和之と王小路がレアなのである。


「さて、ここまで来たからには逃がさないぞ」


「断る」


 そもそも、なんでこいつらここで鉢合わせしてんだという話だが、平花はシフトの時間で戻って来ただけである。哀れ。


 そして戦場はいつかはシフトで戻ってくることを見越して先に潜伏していただけである。策士なり。


「なに、今から君はシフトだろう?勝手に抜けていいのか?」


「……橋ノ井」


「平花ー、あんたが抜けたら女性客の割合減るから駄目」


「じゃあなぜ原田は許される!?」


「時間以上の効果を出したから。あ、伊吹乃も同様ね」


「……理不尽では?」


「所詮世の中顔面偏差値が高いやつが勝つ」


「物議を醸す発言はやめろ!?」


「はははっ!愉快だなこの教室は!」


 嘘である。現在喋っているのは先程の二人和之と王小路を含めても五人である。橋ノ井は戦場の着付けを手伝ったから大丈夫なだけである。




 さて、どうすりゃここまでこんがらがるのか分からないが、偶然とは怖いもので、


「なんか静かだけど……なんかあっ………………あー」


 新たな闖入者は、身長百六十センチメートル未満、華奢な体型、腰まで伸びるやたらと長い髪、アイドルみたいに整い過ぎた顔。

 そして、何よりそれら全ての要素をひっくり返す男装。


「帰りまー「叶恵さん!」ふぶぇ!」


 正気に戻った春来に捕まったそいつは、


「……今日忙し過ぎじゃね?」


 美少女の呆れ顔でそう言った。





 ≡≡≡≡≡≡


 お久しぶりです!

 たまに修正入れたりしてましたが、こうして新話を出すのは本当に久しぶりです。

 いつも読んでくださっている読者の皆様、申し訳ありませんが、もうしばらく更新ペースは遅いです。

 そのくせして本編の状況はカオス続きでございますが、これからもよろしくお願いします!

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