三章 恋戦争、都落ち

第88話 プロローグ

 恋とは戦争である、と私は仮定する。

 それは一対一であっても、だ。

 恋愛におけるルールは多そうで少ない。


 一、自分の心を強く持つこと。

 これがなければ告白などが出来ない。


 二、自分の相手に対する想いの強さをアピールすること。

 これをしないと意識されない。


 三、ライバルが友達だろうとなんだろうと遠慮してはいけないこと。

 昨今のライトノベルではこれが疎かになって負けてしまうヒロインが多い。要するに気を遣ったらその分自分が不利になるのだ。


 以上の三要素を無理やり数値化させると、総合的に『戦闘力』とでも呼べるべきものになる。


 一は防御力。二は攻撃力。そして三は速力や索敵。


 ほら、ために必要な力、だろう?


 故に私、戦場いくさば かおりは絶対に勝ちに行かねばならない。


 何に、だって?ははっ、冗談はほどほどにしてくれ。


 決まっているだろう?



 ─────私の恋敵ライバルに、だよ。


 *


 二学期の始業式が終わってから早一週間が経とうとしていた九月九日水曜日の昼休憩のことである。


「少し邪魔させて貰おう!」


「邪魔するなら帰ってください」


「それは失礼した……では無いっ!」


「ありゃ」


 ……勢いとテンポが良すぎて口が挟めなかった……ゴホンッ、失礼。


 入ってきて早々叶恵に帰れと言われたのはとある女生徒である。


 凛々しく整った顔に、長いポニーテール。

 背は高く、胸は……何も言わないでおこう。


 さて、そんなカッコイイタイプの女子だが、


「……何やら猛烈にイラッと来たのだが……?」


「おお、先輩もわかる人ですか」


「君も知ってるのかい?」


「たまに急によく分からない誰かを殺したくなりますね」


 ……だから何で分かるのかなぁ。


「っと、違う違う。謎のイライラ来る現象はどうでもいい。平花という男子生徒はいるか?」


 唐突な指名に全員の視線が平花に向く。

 当の平花はといえば、


「むぐ……ふむ、美しい戦場ヴァルハラへの誘いは先日断ったと覚えてい……」


「奈倉氏ー」


「あん?どうした真金。俺、平花の言ってることがいまいち」


「あれは告白蹴ったやつと思われ」


「ぶっ殺す!」


「過激で草」


 緩いやり取りである。

 中指を突き立てる奈倉と、ひたすらマイペースな平花に全員ドン引きである。

 そして、カオスは更に広がる。


「やっほー!伊吹乃君、来たよー!……ってあれ?薫?」


 安姫である。昼休みに入るといつも叶恵と昼食を食べるためにわざわざ一年五組ここまで来るのである。


「む?安姫か……ふむ。なるほど?」


 安姫を見るなり何やら考える素振りをする戦場。凛々しい表情であるが、


(最近安姫の付き合いが悪いのはそう言う……ふっ、中々に面白いな。が、私も似たようなものだしな。何かを言うこともあるまい)


 色々察したらしいが黙ることにしたようである。


 何はともあれ、


「平花ぁ!ちょっと物理でお話したいから一発殴らせてくれぇ!」


「奈倉、頼む。頼むから落ち着いてくれ。お前が暴れるとうちの姉ちゃんに俺が怒られるから」


「止めるな唐草!これは持たざる者モテないヤツらの思いを背負った聖戦なんだよ!」


 唐草に羽交い締めにされる奈倉だが、それでも抵抗して平花を殴りに行くあたり業が深い。


「伊吹乃。あれ、どうなってんだ?」


「しらね。とりあえず俺から言わせれば……」


 勿体ぶるように言葉を切る叶恵。宏敏の眉がぴくりと動くが、それも一瞬で、


「宏敏」


「っ!お、おお……びっくりしたー」


 こっそりと後ろから近づいて来た優奈が耳元でぼそっと名前を呟くだけで表情筋が緩みに緩む。

 横からそれを見ている叶恵はにっこり笑顔である。

 他人のイチャイチャを見るのが最高。それが叶恵の信条である。


「さて、今日も食堂聖戦ジハードへと赴かねばならないようだな。得られるものがあるといいのだが」


 渦中の平花、周りの騒ぎに乗じてあっさり脱出である。


 その後、平花が居なくなったことにその他全員が気づいて目をぱちくりさせたのは当然と言えよう。




 ≡≡≡≡≡

 こちらではお久しぶりです!ゆで卵です!

 三章開幕です!

 新ヒロインはカッコイイ系のお方です!

 更新ペースは落ちますが、これからも叶恵がニヤニヤする光景を書いていきますので、よろしくお願いします!

 ……その叶恵が赤面する機会も増えるかもですねぇ(ボソッ)

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