第85話 唐草姉弟、襲来
「やっほー!」
「……疲れた」
唐草姉弟の襲来である。ただし元気なのは姉のみの模様。
「どもっす安姫先輩」
「……こんにちわ」
「ひっさしぶりー!」
「うあっ!?」
ガバッと叶恵に抱きつきに行く安姫。そしてかわせずに腰に抱きつかれる叶恵である。春来の頬が風船、いや、爆発直前の爆弾のように膨らみ始める。
「はぁぁぁー、久しぶりの伊吹乃君だぁ……」
「……すまんな伊吹乃、うちの姉が」
「唐草……お疲れさん」
「おう」
実は唐草、家を出る前所か、夏休みに入ってから毎日のように「伊吹乃君に会いたい」と姉の愚痴(?)を聞き続け、ここに来る電車内、バス内、徒歩中、その全てでニコニコと話し続ける姉に相槌を打ち続けていたのである。これを労わずして何を労うのか。
「唐草、カレー食うか?」
「よう、青野。ありがたく貰うわ。ちなみに誰の作?」
「……伊吹乃と春来と原田」
「……ある意味半分?」
「殺されるからやめとけ」
「そうするわ」
来たばかりで既に帰る直前かと思うような疲れ具合の唐草であった。合掌。
*
「ん〜!美味しい!凄いね、伊吹乃君。私よりも料理上手いじゃん!」
「まぁ、毎日毎日作ってれば多少上手くもなりますよ」
褒めちぎる安姫に肩を竦めて返す叶恵である。唐草は既に食べ終え、程よい距離感の木と木の間にかけられたハンモックで昼寝中である……ハンモックどこから出しのだろうか?
「むぅー……」
「で、春来は何でこんなに不機嫌なんだよ……」
「……伊吹乃さんに言っても無駄ですから」
「酷くね?」
春来の方が正論である。全くもってド正論である。
「ご馳走様!」
「お粗末さまでした」
カレーを食べ終えた安姫の皿を回収する叶恵。
「……舐めてもいいよ?」
「何言ってんですか!?」
爆弾投下を行う安姫である。春来はモヤっとしたものとイラッとしたものを同時に感じ、叶恵は寒気を感知した。
「冗談だからね?さすがの私もそんな変態みたいな事されたらドン引きしちゃうし」
「どの口が言ってんですか……」
叶恵は既に頭が痛い。ドンマイ。
「というか、あなた、どうやってここのこと聞いたのかしら?あなたを呼んだ覚えはないわよ?」
叶恵と安姫のやり取りを無感動無表情無音で見ていた王小路が安姫に問う。
当然といえば当然の質問。ここにいるのは先程来た二人を除いて全員王小路自らが呼び、中学生組は兄や姉について来ているからである。
「どうやってって……」
少し口ごもる安姫。目敏くそれに何かを感じた王小路が追い詰めに行く。
「あら、何か後ろめたいことでもあるのかしら?そうね……例えばそこのロリ男子に盗聴器でも仕込むとか?」
「おいこら誰がロリ男子だ」
「…………違うよ?」
引き攣った笑顔で否定しても疑いが深まるのみである。
ついでにニコニコと笑顔で食器類を片付けている春来からはそろそろ黒いオーラ的なものが漏れ出そうである。叶恵は背筋が凍る感覚を覚えた。
「今の間は何かしら?」
「何でもないよ?」
「…………ま、来た以上はどうしようもないわね。どの道サバイバルに近いのだし、無理なら帰ってくれて結構よ?」
「サバイバルなら得意だけど?」
「…………なんですって?」
サバイバルの部分をやたらと強調した王小路の煽りに余裕の顔をする安姫である。最早ドヤ顔、そしてスタイルがいい者は何をやっても様になるのである。
要はちょっとカッコイイと叶恵は思ったのである。
「……伊吹乃さん…………?」
「…………………何でしょうか春来さん」
そしてついに真っ黒な瘴気を発し出した春来聖女様(堕天バージョン)。割と真面目に怖い。証拠に宏敏と優奈は逃げた。
……和之と雫?
「叶恵も大変だねぇ」
「そうですね……もう少し続けますか?」
「うん、お願いするよ……幸せだなぁ……」
日向で雫が和之に膝枕しながらイチャついている。完全に呑気な日向ぼっこである。二人の周りだけ幸せフィールドが完成している。
「もうあれ夫婦だなー……いいなぁ、俺も恋人欲しいぃ〜」
悲しい独り言を吐く唐草は完全スルーを貰い、悲しくなって不貞寝に移行。
「羨ましいです……」
「何が?」
「なんでもないですっ!」
「えぇ……」
そして幸せフィールドを外から見ていた春来の呟きをしっかりと拾ってみせた叶恵は不当な被害に遭っていた。
*
「よいしょっと……これで良いか?」
「おっけーおっけー、んじゃ次はそことそこに釘打って……」
現在時刻、午後六時。
適当に遊びまくった一同は現在テントを張っていた。ちなみにテントは宏敏のキャリーバッグに入っていた。ハンモックは結局謎である。
「和之さん、次はどうすれば良いですか!」
「次は骨を取るんだけど……ここをこう……」
「なるほど……」
ただし、一部は遊びの途中で見つけた、と言うよりも宏敏の案内で寄った川で釣りをした時に釣った魚を調理中である。
「んんっ!………無理です〜」
釘を打つための場所に固定用の紐を引っ張っていた優奈は力足らずで腕がプルプルしている。
そしてそれを見つけた宏敏が速攻で助けに行く。
ちなみにこれは既に同様のやりとりを三度ほど繰り返したあとである。間違いなく優奈は確信犯である。
「んっ、塩が……」
「ピリピリする気が……」
「そうかな?美味しいと思うんだけど……?」
「ダメだこいつ彼女のことになるとポンコツだ」
塩が効きすぎた鮎の塩焼きを全員でぱくついていた。
「……ごめんなさい」
「いやいや、樫屋が謝ることではないからな?」
「うん、問題なしだぜ樫屋さんっ!俺基本的に塩っぱいの好きだから!」
「うぅ……」
「唐草……」
「明人……」
「「それフォローじゃないから」」
「なんてこったい!」
「皆して雫に意地悪するのはやめてくれないかな?」
「「「「ごめんなさい」」」」
お怒りになった原田夫としょんぼりしている嫁に平謝りの男子三人プラス安姫。
実際かなり塩が濃かったのだが、春来と優奈は笑顔で食べている。これが大人というものである。
楓と叶波?水をガブ飲みしながら食べてますが?実にいい笑顔で食べている。
王小路に至っては既に食べ終え……
「……これ、甘いわね」
……どうやら味覚が壊れたらしい。水を飲んで甘いとつぶやくその姿に全員が軽く戦慄したという。
「……さて、小言もこれくらいにしといて……」
和之が立ち上がる。
「お風呂、どうする?」
≡≡≡≡≡
次回、お風呂回。
キャンプを二泊三日から一泊二日に変更しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます