第81話 エピローグ
九月三日木曜日。
始業式である。
が、校長の長広舌が生徒の約三分の一を保健室送りにし、保健医がブチギレる前に、駅前大通りでの騒動をどうぞ。
*
「よう青野!」
「おいっす青野氏」
「おはよう青野」
「ん、よう。真金もいるのは珍しいな。いつもは田代と平花の二人組だろ?」
「「「ところでその子は誰か」」」
「話聞けや」
一年五組の二組ある三バカの片割れである。
そして三人の視線は全く同じ場所に向けられていた。
すなわち、宏敏の右腕に引っ付いている女子である。
「あははっ、やっぱり分からないものなんだね」
カラカラと笑うその少女はしっかりと腕を絡め、スっと目を細め、極めつけに眼鏡をかける。
「どうも〜、この度青野さんの彼女になりました〜。倉持です〜」
ちなみに三つ編みお下げではない。基本的に描写が入らないほど自然にあった三つ編みは解かれ、滑らかな黒髪が下ろされている。
「「「???」」」
そして認識が追いつかない三人はその場で固まり、固まり続け、同校の生徒たちの好奇の視線にも気づかず固まり続けて……
「お前ら新学期初日から何遅刻してんだぁ!!?」
「「「すいませんでしたー!」」」
始業式前に高野にこってり絞られたという。
*
『はい皆さんおはようございます!皆いますか!?休みとか遅刻なんてアホすぎて言葉も出ないような愚行をおかした馬鹿な三人組はいませんよねーっ?』
新学期始めから鬱陶しいテンションの黒笠である。横で頭を抱える黒峰兄妹を多少は気遣いなさい。
『えっ?さっき三人組で高野指導受けてた生徒がいた?その子たちうちの生徒ですかねー?亀と鶴と兎じゃないんですからそんなことしないでしょ?』
「おいこら誰よりも黒歴史の数が多いお前に言わたかねぇぞ!」
壇上の煽りにあっさり引っ掛かる亀こと亀塚である。覚えてる人、います?多分居ないですよね。
『はい!皆さん声が聞こえた方にご注目!あそこにいるのが、亀です!』
「亀塚だっ!」
『えー、あなたってミシシッピ亀じゃないんですか?』
「後でちょっと話そうか!物理的に!」
『いやーん、変態〜』
『『『『……………』』』』
何を見ているのだろうと思う生徒たちと教師たちである。高野ですら目が死んでいる。
しかしこれにざわめくのが三年生の一部と二年生の一部である。
「何?あの二人ってできてんの?仲良さげだよな?」
「噂とか聞かねぇけどなぁ」
「つーか黒笠は男の影どころかあいつがもう男だろ」
「いやいや、あれでいてファンが一定数いるとか」
「ネタじゃん」
「亀……お前」
「眼鶴……あれはもう」
「そうだな……俺たちは解散だよ。兎羽」
「三バカ残り二人は何言ってんだ」
「リア充の可能性があるやつを排除するのみ」
「悲しい奴らだな……」
「「「「「で、結局できてんの?そこんとこどうなのお二人さん」」」」」
『「黙れ野次馬共」』
「わーお息ピッタリ」
「なぁ青野」
「なんだ?」
「これ、いつ終わるんだ?」
「知らね」
「……さよけ」
ため息をつく宏敏と叶恵である。ついでに宏敏はチラチラと四組の方を見ている。
叶恵も視線を向ければ優奈がいつもの緩いモードで宏敏に小さく手を振っていた。魔王様が丸くなったものである。
「そういやさぁ……」
「うん?」
未だに収まらない騒動に高野が割り込もうとしてまぁまぁと他の教師に止められる(!??)中、叶恵は軽く天井を仰ぎ、視線だけを宏敏の顔に向ける。
「俺、今回本気で何もしてねぇなぁ……と」
「いつもは何してんだ?」
こちらも暇だったのか叶恵の軽い愚痴に付き合う気のようである。
「いつもはさ、もっとこう……部活中に何回も相談来たりとかするもんなんだよな。和之の時とかもそうだったし」
「ま、今回は向こうに全部読まれてた。それだけだろ?」
そう、叶恵はまず優奈を旧生徒会室、つまりは部室に出禁にした。個人情報たっぷりの場所に得体の知れない人間を長期に渡って出入りさせたくなかったのである。
「結果的には倉持悪人なんて偏見だったしさ。そりゃ怖いんだけどな。一回俺の家にわざわざきやがった」
「は?どういうことだよ」
少し宏敏の目が据わる。
「どういうことも何も、あいつ、俺に仕返しするためだけに来たんだよ」
「うわぁ……それは……」
「……………別にいいんじゃねぇの?って目がいってるぞ」
「おっと、すまねぇ」
一瞬じとっとした目をむけた叶恵だが、すぐに口元をほころばせる。
「ま、俺としては?イチャイチャするやつが増えるのは何よりなんだけどな」
「さりげなくモテてるやつが何言ってんだか」
「はっ!俺のことが好きとか。そんな物好き安姫先輩と春……」
キュッと口を噤んだ叶恵である。傍から見れば美少女が何かを言いたげにしてるけど我慢してる、というように見えるからタチが悪いのである。
「ほらそういう所」
そして宏敏にも指摘されてからかわれる始末。
「で?春……の後は?何か言ってみろよ。なんかおかしいと思ってたんだよなぁ。そういうことだよな?な?」
「うるせぇ」
「伊吹乃ぉ?吐きなよぉ」
ポンと肩に手が。
「ひっ!」
ビクッとする叶恵。だからそう言うとこだって何回も言われてるだろうに。
「い、井藤……てめぇ……」
「なになにぃ?今度はツインテがいいってぇ?お任せあれぇ」
どこからかシュシュをふたつ取り出す井藤。叶恵の顔が青ざめる。
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!」
「早口言葉か?」
「いやまじで頼むからやめろやめてください俺にできる範囲で何でもするからやめて」
「何でそんなに滑舌いいのぉ?羨ましいなぁ」
手をワキワキとさせて視線が叶恵の髪の毛に向かっている井藤である。どうやら前回の騒動で味を占めたらしい。
「仕方ないなぁ。じゃあツインテはやめるよォ」
「助かる…………ん?ツインテは?」
「そそ。ほぉら完成ぃ」
叶恵の視界が気づけば広がっている。後頭部の辺りで髪がまとめられている感覚に顔から血の気が失せる。
『だー!もうっ!先輩方!?いい加減にしてください!誰ですかこの話題持ち込んだの!』
「元はと言えばお前のせいだよ黒笠!」
『それはどうもすいませんね!これでこのお話終わりっ!………ふぃー』
ため息が面白いことになっている黒笠である。ふぃーとは何ぞや?
『んー、今から一応会長の挨拶ですけども……』
と、そこで言葉が切れる。黒笠は一点を凝視している。
その視線の先とは……
『………………おや?』
「おい待て嘘だろなんで気づく!?」
新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの笑顔である。司会進行がこれではどうしようもない。
『どこぞの相談部の部長さん?ちょっとおいでー』
「絶対行きたくねぇ!」
叶恵が叫ぶ。当然視線がそちらにむく。
『『『『『『…………………雪女さんだ』』』』』』
その後、カオスになった生徒たちは高野の一喝で鎮まった。
*
午前十一時。
「おぉー、優奈!良かったじゃん!」
「………………ん」
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます〜」
毎度おなじみ『木鄉』にて。
金木、羽屋、雫、優奈の四人組である。
うち三人の控えめな拍手を受けるのは優奈である。
『ボク』の方は基本的にはしないことにしたようである。登下校は……どうなる事やら。
「でもなんだろ……」
金木が遠い目をする。理由は一つ。
「いつの間にかこの四人中二人が彼氏持ちになるとは……しかも雫とか超人イケメンアイドルさまじゃんか」
「……その言い方はやめてください。物凄くイラッと来ます」
雫の目から若干のハイライトが消えたところで、
「お待たせしました。コーヒーです……ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
店員がテーブルの上にソーサーをおくと、その上に湯気の立ち上るコーヒーを置く。
「フレッシュミルクとシロップはセルフですのであちらからお好きなようにお取りください」
では、と立ち去ろうとする店員。その腕をガシッと掴むのは、
「伊吹乃さん〜?どうしてここにいるのか聞いても〜?」
「……お客様。仕事の支障となりますのでお手を離していただけると……あっ、丁度彼氏さんもいらっしゃったみたいですので自分はここで」
彼氏さんという言葉にバッと入口の方を向いたことを見計らって少し強引に腕から手を外すと
「青野さん〜、こっちです〜」
キョロキョロとしている宏敏に向かって軽く手を振る優奈である。待ち合わせのカップルそのものである。この二人しか見えてなければの話ではあるが。
「お、いたいた……って、あれ、原田は?」
本来そこにいる予定だった友人の顔が見えないことについてその彼女に聞く。
「和之さんなら……」
スっと店の奥の方に視線を向ける雫。つられた宏敏がそちらを見れば、
「お会計千二百円になります……千五百円お預かりします……お釣りは三百円になります。ご来店ありがとうございました」
レジの横で微笑みながら接客をこなしていく超人イケメンアイドル野郎の姿が。
「あいつバイト始めたのか……人増えるな。間違いなく」
「そうですね〜、女性客が倍増しそうですね〜」
ため息をつく宏敏とそれに同調する優奈。
二人でいるのが当然だと言うようにすぐ横で座る二人の姿は実に仲睦まじいものであった。
≡≡≡≡≡
二章完結!
途中で迷走しかけましたがなんとかここまで持ってこれました!
ここまで読んでくださった読者様方、本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
次回から数話は間章となります。
内容は海……ではなく山です。
水着はまたいつかということでお願いします。
……どうしても今回のメイン二人を入れたかったんです許してください。文句は受け付けてます。
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