第78話

「遅くなりました!すいません!」


「いえいえ〜、大丈夫ですよ〜」


 春来が来たのは十分程度後であった。謝る春来に相も変わらず緩い笑顔で「問題ない」という倉持である。


「…………」


 そして叶恵よ。そこで顔背けちゃいかんでしょう。青野がニヤニヤしそうである。ついでに叶恵を見た春来も顔を背け、こちらは倉持にニヤニヤされる始末。


「お前ら何かあったか?」


「……何もねぇから黙って舌切れ」


「死ねと!?」


 誤魔化しの言葉が酷すぎた叶恵である。青野は顔を青くする。


「そういうお前ら二人はなんで一緒なんだよ。最近はよく一緒にいるよな?こないだとか二人で出かけてたろ」


「ひ、人違いじゃ……」


「ストーカーですか〜?」


 青野の言葉をさえぎって笑顔仮面で叶恵に詰寄る倉持魔王。叶恵としてはイラつく面が近づくために緊張も何も無い……一応結構顔近いんですけども?


「はっ、それ言ったら倉持。お前、他人の家に何カメラなんて付けてくれてんだよ」


「あら〜、バレましたか〜?」


 新情報多すぎる。

 が、両方とも事実である。

 ただし、叶恵はストーカーでは無く、本屋に行った時に遠目で確認しただけな上、倉持のカメラに関しては見つけた瞬間に握りつぶしていたりする。


 その辺のお話はまた今度。


「それじゃあ……」


「この件は〜」


「「痛み分けで」」


 何か両者が勝手に納得してるんですが?


「それはさておき〜、春来さんも来ましたし〜、行きますか〜」


「なぁ、マジで行くのか?」


「逆に行かないとでも〜?」


「多分一番被害被るのは俺だからな」


 監視カメラを避けて校門を開ける必要があるのだ。叶恵は面倒くさそうである。面倒くさそうなだけで不可能とは一言も言っていない。


「えっ?えっ?ど、どういうことですか?」


 叶恵と倉持を交互に見ながら春来は絶賛混乱中である。仕方がないと言わざるを得ない。春来は叶恵を餌に倉持に釣られたも同然なのだから。


「実は〜」


 そんな春来に倉持が事情説明。当然脚色入りである。


「──で〜、───のため────か〜」


 聞けば聞くほどに顔が赤くなって行く春来。全ては倉持の掌の上である。


「いやー、俺の置いてけぼり感がすげぇなぁ」


 各々何かしらしている中、一人になった青野は寂しそうにそう言ったと言う。


 *


「あ゛ー、づがれだ……」


 現在地、一年五組。


 侵入を果たした四人である。叶恵はぐったりしている。


 それというのもとある人のせいである。


「はー、はー、し、死にそう、です〜」


 倉持魔王様、体力が無かったのである。


 突っ切るべきところで走れない。青野はガタイがいいために人を背負えば目立つ。春来は人一人を背負えるほど強くはなかった。消去法で叶恵しかいなかったのである。


「つーかさぁ、監視カメラ多すぎんだろうちの高校。どうなってんだよ……」


「三十は超えてましたね……」


 春来の目が遠い。


 とにかく大変だったことが伺える。


 そんな四人に言いたい。


 ……君ら、ミッションインポッシブルしに来たの?あれ、肝試し的なやつではないの?


「違ぇ」


「ん?どうした伊吹乃」


「いや、何か今お前らミッションインポッシブルでもしに来たのかって誰かに……」


「誰だよ……」


「ふ、ふふふ〜、お化けですかね〜」


「お前もうバッテバテじゃん。動けんのか?」


「正直無理です〜」


 ぐたぁっと効果音が聞こえてきそうな勢いで机に突っ伏す倉持を見た叶恵は閃く。


「そうだ。こいつ置いていこう」


 倉持の笑顔が引き攣る。


「鬼かお前」


 同じく顔が引き攣った青野が実に的を得たことを言う。


「じゃあお前も残るか?」


 叶恵は青野が帰ると思っていた。正直な話、叶恵はこの間の倉持のお家突撃を根に持っているのである。そしてそれは青野に伝えてある。理由はただの愚痴である。


 故にここで青野は帰ると言うと思っていたのである。


 ある種の視野狭窄だったのだろう。自分が苦手な相手であるが故に。


 だが、


「いや、俺は残るわ。そっちはそっちで帰ってくれていいぞ」


「…………へぇ」


 何かを悟った叶恵である。

 ついでにこうも思った。


(俺、知らない間にイベント取り零し過ぎたなこれ)


 と。


 実際のところ、春来姉妹が泊まりに来た日は青野と倉持は二人で出かけていたし、今日にしたって午前もこの二人は一緒にいたのである。


「ま、話すことも有るし、こっちは大丈夫だ。安心して二人でイチャつきながら帰ればいい」


「誰がイチャイチャだ。俺は……」


「顔赤いぞ」


「………」


 からかわれて反論したらカウンターで俯く叶恵である。ついでに春来も爆発準備に入ったボム兵並には赤い。


「ん?何か今……まぁ、同意するが」


「何をだよ」


「伊吹乃さん〜、帰るならとっとと帰っちゃってください〜」


「呼んだやつが言うセリフじゃないからな?」


 倉持を一睨みする叶恵。しかしまぁ、説得力皆無である。


 見た目美少女の叶恵と、真の美少女たる春来が二人揃って顔が赤い。しかもどことなくよそよそしいような、でもなんだか近づきたそうな……


「何だろうな……これがあれか。尊いってやつか」


「分かりますよ〜、青野さん〜。私も同じこと思ってました〜」


 そういうこの二人には緊張感など皆無である。最早近くにいるのが当たり前になっているようにすら感じる。何故だ。


「何はともあれ〜、私はまだちょっとしんどいので〜、後で青野さんに背負って貰って帰りますね〜」


「……そうか」


 仲良いなこいつらと思いつつも、こっそり覗き見することを決意した叶恵は、春来と共に教室を出たのであった。




 ≡≡≡≡≡≡≡

 次回………………


 ここからあとがき

 おかしい……肝試しの予定が……消えた。


 それはさておき、近況ノートでも書いたんですが、二章のタイトルを変更しました。ご迷惑をおかけします。


 真のあとがき

 基本的にこの作品は叶恵主体の三人称視点です。

 そのため、取りこぼした各章のイベントについては間章という形で入るかもです。ただし、作者は鶏なみの脳みそのためにやらない可能性もありますのでご了承ください。


 最近あとがき長いですが、気にせず飛ばしてくれてもOKです。


 さて、そろそろ鬱陶しいぞ卵!と思ってる頃でしょうが、一つだけ。


 もしかしたら新作を近々出すかもしれません。


 なろうに投稿していた異世界ファンタジー系の作品を、物語の基幹部分から改変したものになる予定です。奇跡的にもそちらを知っている方がいればナニコレとなるかもですが、面白くなるよう努力しますので、もし投稿したら、よろしくお願いします!


 無駄に長いあとがき失礼しました。

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