第45話
※事件と言いましたが平和ですので安心して下さい。
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叶恵が変装用のサングラスなりなんなりを買いに行った直後の話である。
一人で空を眺めていた春来は、ふと自分の手を見下ろす。
「叶恵さんが……また、握ってくれました……」
気恥しさからか、内心でもカナちゃん呼びはやめたようである。どちらにしても今の春来の顔はふわりとした笑顔に彩られていたのであろうが。
「ふふっ………でも……いえ、止めましょう」
スっと笑みを消した春来は、少し苦しそうに胸元に手を添える。
(夢乃さんや遥さんに聞きに行く訳にも行きませんし……)
二人共原田FC会員のために今もクラスの仕事とは別に色々と裏でしているようである。
尚、現在ファンクラブ内では分裂が起こっている。即ち、雫肯定派か否定派か、である。
アイドルだって人間ですとむしろ雫ウェルカム状態派と、自分たちが勝手に祭り上げたアイドル(笑)の恋愛事情にまで首を突っ込む自己中派の対立、と言い替えてもいいかもしれない。
どちらにせよろくなものでは無い。
そして王小路も井藤も否定派。ぶっちゃけた話、春来は和之が絡んでいる時の彼女らに関わりたくないのである。
(あの血走った目だけはいつまでたっても慣れないでしょうし……)
……なるほど奴らはホラー要い(殴)……失礼しました。とにかく、春来は彼女らが怖いらしく、近づきたくない、というわけである。
と、そんなことを考えていた時、
「あれ、屋上ってうち開いてたっけ」
「いえ、閉まってた筈よ」
「丁度いいし、上がるか」
「そうね」
「…………!」
階段の下から聞き覚えのある声。
(青野さんと、夢乃さん?どうして……)
普段の学校でこの二人が一緒に行動しているところを春来は見たことがなかった。
(と、とにかく隠れないとっ!)
若干テンパったのか、給水塔の上に急いで登る春来。何故登った、裏側に行けばいいだろうに。
そうこうしているうちに二人が登ってくる。
「おぉー!これ晴れてたら相当綺麗なんじゃねぇの?」
「確かに……でも残念ね。今日は曇り気味よ」
「ちくしょう、一昨日に来りゃ良かった」
「開いてたかどうか不明だけれど?」
「後悔の内容くらいは自由にさせてくれよ……」
(なんだか、仲が良さそうですね……)
旧知の仲といった風に、いやまぁ確かにこの二人は旧知の仲どころか小中高でクラスが全て被るという奇跡を起こしている訳だが、春来にはそう見えた。
「で?お嬢、相談ってのは?」
青野の言葉にピクリと王小路が反応する。
(相談?)
事情が分からない春来は混乱中。
「そうね。あなた、伊吹乃くん経由で原田くんともそこそこ仲がいいわよね?」
(あ、納得です)
個人名を聞いた瞬間に把握できる春来である。流石。
「いやー、つってもそこまでだぞ?それにあの二人の仲裂くとか俺にゃ死んでもできねぇな」
「早とちりしないで欲しいわね」
つま先を軽く上げ、トントンと、苛立たしげに床に叩く。
「おっと、そいつはすまねぇな。じゃあ、なんだ?」
オーバーに肩を竦めて謝る青野だが、傍から見れば煽ってるようにしか見えないのは何故なのか。
「簡単な話よ」
「おいちょっと待ってくれお嬢。絶対に簡単じゃないよな?」
焦る青野。余裕の表情で見下す王小路。二人にとってはいつも通りの光景だが、春来には違うように見える。
(もしかして、二人って恋び……いや、ないですね。有り得ません大方夢乃さんが青野さんの弱みを握ってるとか、そんな感じでしょう)
当たらずとも遠からずである。実際には主従関係のようなものであるため、ある意味自分の将来の就職、という面においては弱みどころか全権握られているようなものなのである。
「はぁ、うだうだしていてはいつまでたっても恋人なんてできないわよ?さっさと目星つけて告白して玉砕して死になさい」
「酷すぎねぇ?」
「まぁ、あなたの恋愛事情なんてそこら辺飛び回ってる蚊よりもどうでもいいわ」
「泣くぞっ?」
「泣けば?仮にも高校生の男子がみっともなく蹲って子供のように泣けばいいじゃない」
「………」
「あら、黙るの?黙るということは私に行動の全権を与えるようなものと五年前の八月に言ったはずよ」
「うっせぇからとっとと要件言え!!」
「あら、うるさいのはどちらかしら。まぁ、それはおいておくけれど、私が頼みたいのはあなたや伊吹乃さん経由で」
王小路がそこまで言った時だった。
「おーい、春来、グラサンとついでに飲みも……」
「最悪のタイミングで来てくれやがったな伊吹乃」
「ああ?どういうことだ?つーか春来は?」
「あらご機嫌よう小さい小さいドブネズミさん?」
「あ?なんだいたのかよドブネズミにすら劣るお嬢様(笑)」
「なんですってー!?」
「はっ、雑魚が」
「黙りなさいこの似非男子」
「ああ?てめぇ、今なんつったよ絶壁お嬢」
「誰が絶壁ですってぇぇぇええーーー!!」
「お前ら落ち着け!キリないぞ!」
中学生のような悪口の応酬である。これがしばらく続くと馬鹿だのアホだのが主な小学生クラスのものになる。
「「ちっ!」」
「なんでお前らそんなに仲悪いんだよ……」
しかし何故王小路が叶恵に直接協力を要請しなかった理由はしっかりとわかった青野であった。
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