第32話
※場面がポコポコ入れ替わります
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こちら、昼食後、午後零時四十五分。二人と一人に別れた三人の内、二人の方、即ち、和之と雫である。和之のシフトの都合上、あまり長時間とは行かないものの、二人とも笑顔で歩いている。
「あっ、和之さん!あれ!」
「うん?あ、縁日もやってるんだ。どうする?」
「やります!和之さんも一緒に!」
「あははっ、うん。一緒に行こうか」
「はいっ!」
花が咲いたような笑顔にすれ違う男子が喀血もしくは胸を抑える。女子はそんな男子達を虫けらを見るような目で……見る間もなく和之を見て同様の反応となる。
ちなみに先程の騒ぎは既にほぼ全校生徒が知っており、未だに知らないのはずっとシフト入りしているメンバーだけである。社畜に合掌。
「ん?ほいほい、いらっしゃい、二名様ご案内ー。(カップル用の奴用意)」
「(おけ)」
二人が入るや否や以上のやりとりが交わされる。縁日ということでスーパーボールすくい、射的、アクセサリー販売など、手広くやっているようである。クラスは二年八組。
「ではでは、まずは射的からお願いしますねー」
受付の男子の眼福眼福と言わんばかりの視線である。別段不快でもないため、二人共スルーである。
*
「んんー、ここっ!」
ゴム鉄砲特有の破裂音と共に勢い良く見当違いの方向へと飛んで行く輪ゴム。
「あちゃー、残念っ!次は彼氏さんねー」
射的のゴム鉄砲の貸し借りを行っていた女生徒がただの一度すら当たらなかった雫に苦笑いをしながら和之に輪ゴムが装填された別のゴム鉄砲を渡す。誰かはわかっているらしく、目がキラキラしている。
が、あの和之が気づくはずも無く、「ありがとう」と言った後、男子用と書かれた後ろの方のテープの位置に立つ。ちなみに雫はかなり前の方で打たせて貰っていたりする。
「さて」
片手でゴム鉄砲を構える姿すら様になる超人イケメンアイドル吸血鬼野郎こと和之。目を細め、
パンッ!ポトリ
「よしっ、次に行こう」
…………ガンマンの称号も必要になるかもしれない。
*
「いやー、凄いねー。流石は有名人」
目を丸くしながら見守っていた女生徒は両手に景品のお菓子を持って和之の元へと歩きながらそう言う。
「いやいや、有名人は関係ないし、昔幼なじみにコツを教えてもらっただけだよ」
「へぇー、どんなコツ?」
「えっと確か───」
と、世間話(?)が始まりかけたところで雫が和之の袖を軽く引っ張る。少々頬も膨らんでいるようである。
「あ……ごめんね。じゃあ、行こっか」
「むぅ………はい」
「それじゃあ」と手を挙げてその場を去る和之と雫。女生徒はそれをニヤニヤしながら見送っていたという……。
*
「次はどこに行こうか」
相変わらず周りから注目を集めながらもそれに全く気づかない和之の言葉である。自らが周囲に与える影響というものを自覚して欲しいものである。現に先程の縁日、現在和之目当てで来ていた女生徒達で溢れかえっているのである。
「そうですね……あっ」
少しだけ悩んでいた雫が結論を出したらしく、掌に拳をポンと落とす…………素である。大事なことなのでもう一度言おう。素である。今どきわざとらしさの欠片もなくこのような動きができる辺り全くもってヒロインである。
「…………あれ?和之さん、どうかしました?」
「っ!いや、なんでもないよ。で、えーっと、どこに行くの?」
天然のそういう動作に対する耐性が零だったのだろう超人イケメンは、その可愛らしさに見とれていたらしい。そして残念なことに、その和之の態度が何を示しているかを雫は知らない。ただ首を傾げ、無意識に追い討ちをかけるのみである。
「はいっ!和之さんのクラスに行きたいと思いまして」
「あはは、なるほど。それじゃあ、行く?」
「行きましょう!」
満面の笑みで元気よく返事をした雫は駆け足で行こうとして………床に捨てられていたペットボトルを踏んでしまう。
「………え?」
「危ないっ!」
和之は咄嗟にその手を掴んで引き寄せる。
そこまでは良かったものの、和之までバランスを崩して後ろに倒れる。
結果、和之を下敷きに、雫が覆い被さる体勢となる。
更には、手を引っ張りながらだったために、背を向けていた雫が百八十度回転している。必然、両者の顔の位置は極めて近いものとなる。
「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」」
ボム兵どころか噴火してしまいそうな程真っ赤に染まる二人の顔。密着した体は両者の温かさを服越しにじわじわと伝え、それがより両者の熱を上げていく。
「ぁ………ぅ…………」
「…………っ、っ!」
………二人とも喉が張り付いたように声が出なくなったらしい。
石像のように固まりながら、廊下のど真ん中で抱き合うように倒れている二人組。注目されない訳が無い。
一瞬で学校中を駆け巡る情報と写真。収集のつかなくなってきたこの状況で、こういう時のためにいる阿呆は、
「あの、先程から自分は男だと申しているのですが……」
「いやいや、絶対に嘘だね!何年?一年だよね?ほら、うちのクラス来なよ。謎解き迷路、面白いよ?」
「ですから……」
(イメージダウンさせらんねぇから捌ききれねぇ!!くっそ、王小路のやつぜってぇ許さねぇ!!)
ナンパ被害にあっていた。
仕事しろ仕事……と言いたくなるが、先の心情の通り、開催直前、王小路と叶恵でこんなやり取りがあった。
『ねぇ、伊吹乃くん』
『ん?何、王小路さん』
『いえ、あなた今から客引きでしょう?』
『まぁ、そうですけども……』
『絶対にイメージダウンするようなことはしないように……良いわね?』
『は、はひ……』
何ともいいように使われている叶恵である。いっそ、不憫にすら感じる。
そんなわけでここまで何とか躱してきた叶恵だが……遂に、堪忍袋の緒が切れる。
「あぁもうめんどくせぇなぁ、おら、俺が行くっつったら行くんだよ。センパイの言うことくらい聞けよ」
「るっせぇ」
「あ?」
「うるせぇって言ったんだよ。センパイ。なぁ、人が気ぃ遣ってやんわり断ってりゃ調子に乗りやがって……」
「んだと?センパイは敬えって聞いた事ねぇの?」
徐々に冷えていく叶恵の空気に気づかないその男子生徒は、怒りからか目元を引くつかせる。
「あろうがなかろうが、んなこたどーだっていい」
「さっきから何言ってんの?痛い目あいたくなきゃついてこっ………」
ここに来てようやく気づいたようである。
「高々一年二年生まれるのが早ぇことがそんなに大事か。なぁ、年功序列なんてもっと歳食ってから考えろよ。いいか?俺ぁ問題起こしたくはねぇんだ。ヘタレの親友の恋路見守りてぇだけの一高校生でいてぇんだよ。だからな、」
そこで叶恵は一度大きく息を吸うと、
「………周りに面倒事振りまくようならとっとと家帰って寝ろ」
精一杯抑えた言葉を呼気と共に吐き捨てた。
*
五分後。
「は!?何、あの二人そんなんなってたのかよ!?うわぁ、もうあいつまじで許さねぇ!!」
親友兼依頼人と依頼人兼友人が抱き合って倒れていたという情報を聞いて大層悔しがったのだとか……。
*
ところ変わって再び和之&雫である。
何とか硬直状態から立ち直り、お互いでお互いを支えながらゆっくりと立ち上がる。
周囲からは「おお………」という謎の感嘆の声である。
せっかく落ち着いたというのに、周りの声のせいで恥ずかしさが込み上げて来たのか、二人揃って再び赤面。そそくさとその場を離れるのであった。
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