第19話
「暑っつい!!」
「叶恵ー、それ言ったら余計に暑くなるからー。はぁ」
「原田さんもため息ついちゃダメです!」
「ちょっと、あんた何言ってんのよ。暑いのを暑いって言ってため息つくことの何が悪いの?」
「まぁまぁ、夢乃ちゃん、落ち着きましょう、ね?」
「……鼻息荒く伊吹乃の方を見て言われても説得力皆無なのだけれど……」
「それはそれ、これはこれですよ。あぁ、可愛い……抱き締めたい」
「っ!?な、何今の?何か、悪寒が……」
「叶恵ー、助けてー」
「おいコラ和之こっち来んな!暑すぎるからって幼児退行してんじゃねぇ!」
「むぅー、伊吹乃さんに原田さんが盗られる!えいっ!」
「ちょっと待てぇ!」
叶恵の叫び声でその場の全員が動きを止める。
いや、雫は止まれずに和之に突進して抱きついたようであるが。
当の本人が幸せそうなので全員がスルー……
「あ!ちょっと樫屋さん!?何してるの!?」
残念ながら一人反応してしまったようである。
当然?これに関しては当然では無い。とくに叶恵からすれば尚更である。
仕事の邪魔だからである。
現状の叶恵の仕事は、和之と雫をくっつけることであり、王小路と和之をくっつけることではない。
「あー、王小路さん、こっち手伝っ「私が手伝いますね!何をすれば良いんでしょうか!」うぁ!?」
そしてこの場にいるのが四人なら良かったのだがまさかの五人。
その五人目が叶恵にとっては天敵に近い春来聖女であるから質が悪いのである。
「何を手伝えば良いでしょうか!」
(ナイスよ、紅葉!一番面倒な奴は抑えておいてちょうだい!)
若干悪い笑みを浮かべる王小路である。非常に面倒なのはどちらか。
それよりも、二人仲良く正門にへばりついた蔦を引きちぎっている和之と雫を眺めていたい叶恵としてはとっととどこかいけという話なのではあるが、この重労働。手伝いが減るのはきついということも理解しているためそれもし辛い。
何よりも、
「疲れましたか?また頭撫でましょうか?それとも膝枕でもしましょうか?」
ブンブン回る犬の尻尾が幻視できてしまう。はっきりと。
(面倒くせぇけど……ガッツリ拒絶すんのも……)
根はお人好しの叶恵である。純粋な好意には弱いのである。
「んじゃあ、春来さんはこれ使って上から拭いてって」
そう言いながら春来に雑巾を渡して自分は和之と雫の邪魔をしようとする王小路を止めに行く。
「王小路さん?ちょいとこっち手伝ってくれませんかね?」
「は?」
極寒の視線である。
羽虫でも見るような目で見られた叶恵は思わず頬が引き攣るも、何とか耐え抜く。
「いやぁ、春来さんきつそうだからさ。俺背低いし」
「……大して変わらないでしょ?なんなら私の方が低いわよ……!」
(やっべ墓穴掘った!)
「いやいや、それでもさ!俺とやるよりも王小路さんとやる方が春来さんも楽だろうし?ほら、行ってあげてって」
「そんなことないですよ?」
いつの間にか叶恵の後ろにたち、抱きつく春来。
これには叶恵もびっくり。
だが、目の前の王小路が嫌な笑みを浮かべたことだけはよーくわかったらしく、
「そうか……わかった、んじゃあ王小路さんは下の雑草抜いといて」
本来なら最後に回すはずの雑草抜きを一人でやれという鬼畜。仕事の邪魔をされ、若干キレ気味らしい。
降って湧いたチャンスを逃すほど甘い叶恵では無いのである。
「くっ……わかったわ。範囲は?」
「正門周り一帯」
「はぁ!?無理でしょ!?一人でやる範囲じゃないわよ!」
「んなもん知ってる。ほかも終わり次第手伝い入るんで。それまで一人で頑張って下さい」
「大丈夫ですよ。私もすぐにそちらを手伝いに行きますから」
「なんなら最初から手伝ってもいいんですけど?」
「それは嫌です」
にっこり聖女スマイルで叶恵の肩に頭を乗せ、その横顔を見つめる春来。
ふわりと甘い香りが叶恵の鼻腔をくすぐり、少し顔が赤くなる。不可抗力である。
「ふふふ、顔が赤いですよ?伊吹乃さん?」
「うっせぇ」
「あらら、口が悪いですよ?でもそれも可愛いですねぇ……えへへ」
何故ここまで距離感が近いのか。
叶恵と春来は基本的に接点など無く、まともに会話(?)したのも先程のバスの一幕が初である。
「な、なぁ、春来さん」
「はいっ、何でしょうか?」
「いや、そのー、喋ったことあったっけ?ってちょっと思って」
少ししどろもどろになりながら疑問を口にする叶恵。
傍から見れば美少女が二人、姉妹に見えることだろう。
「いえ?先程のバス内の会話が初めてですよ?」
あっさりと否定。しかし、「ですが、」と続く。
「あの後、クラス内であなたと同じ中学の出身の方に色々聞きましたので。例の相談屋の話も知ってますよ?」
なんとも行動力のある聖女様である。
ちなみに話を聞かれたのは
「ふぅん……残念ながら、今はあれの途中ですから仕事は受け付けてないのですが」
「問題ありません!と言うか相談じゃないです」
「知ってる」
「ひ、酷いです!」
ぐいぐい迫ってくる春来を軽くいなして、とっとと作業を終わらせようとする叶恵であった。
(むぅー、絶対に振り向かせて見せます!)
なんとも不穏な決意である。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
タグの(?)回収しちゃいそうなんですが!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます