第17話

 短めですがご了承ください。


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「誰!?ねぇ、あんた誰っ!?」


「ぴぃぴぃぴぃぴぃうっせえぞてめぇ。人に顔見せろっていうから見せたらこの騒ぎ様かよ。大して汚ねぇわけでもねぇ面見たくらいでよぉ……何様のつもりだよ」


 喚く井藤。静かにぶちギレる叶恵。

 どちらのほうがヤバイか。当然、後者である。


 そして、大して汚くもない面などと言っている叶恵。

 何度も言うように、叶恵の顔面偏差値はアイドルクラスであり、多少整っている程度で対抗出来るものでは無い。


 性格がこうでなければ男子とバレる事はないのである。


「いやいやいやいや、滅茶苦茶可愛いんですけどぉ!?」


「……そう、よね?一瞬呼吸が止まったわ……」


「ど、どういうこと?あなたって男子よね?そうよね?ねぇ、何とか言ってくれないかしら?」


「はぁ〜〜、抱き締めたい」


「紛うことなき男子高校生だよ俺は。で?この失礼なやつはどうすりゃいいんだ?後、春来さんは怖いからちょっと近づかな……おい、抱き着くな!おい!……聞こえてねぇし……え、何この状況、誰か助け……なんで全員目逸らしてんだよぉ!」


 王小路は呼吸困難に陥っていたようである。

 氷雨がそれを横目に性別詐称疑惑を持ちかけ、春来が若干ヤバい。

 どうヤバいって、目に熱が籠ってトロンとしてしまっている上、口元がだらしない。ついでに若干鼻息も荒い。


「うぅ〜、可愛いですねぇ……はぁ、はぁ……えへへー」


「ちょ、待て!くっそ、なんで外れねぇ!」


 ガッチリホールドされている叶恵である。

 抱きかかえらるような体勢のため、顔が胸に当たりかけているが、全力抵抗しているため、少々首が痛くなり始めているようである。


「なぁ、お前ら、さぁ!て、つだえよ!!」


 いよいよ鼻先が埋まりかけた辺りでどうしようも無くなって周囲に助けを乞う叶恵だが、凡そ人にものを頼む態度ではない。

 しかし、それくらいには必死なのだと言うことを叶恵の名誉のためにここに明記しておく。


 ちなみに春来は叶恵の息が胸に当たり、その度に若干ビクビクと震えていたりする。

 既に周囲はドン引き派とガン見派で分かれている。

 当然、前者が女子、後者が男子である。一部に至っては鼻血を出しながらもガン見している猛者までいる始末。直前に目を逸らした理性君はどこに消えた。


「むぅー、悪い子には……こうです!」


「んむっ!?」


 そして遂に顔が胸に埋まってしまった叶恵。

 血涙と鼻血を流す男子とドン引きしながらもキャーキャー騒ぐ女子で熱の方向性が違うものの、温度差はほぼ同じと思われる。


「むぐぐ〜〜!!」


「よしよし、お姉さんの胸は気持ち良いですか〜?……んっ」


 離せと言いたいが残念なことに、ひじょーに、残念ながら顔を聖女様の胸に埋めている叶恵に発言権は無い。が、無理やり声を出そうとしているせいでその震えは春来へと伝わり、ビクビク反応してしまっているのである。

 ついでに、この声を聞いた瞬間に男子は全員即座にバスのシートで正座、というか土下座を始める。

 一座席分に男子高校生の土下座が入り切る訳もなく、首から上が垂れ下がるホラー状態と化したが女子は全員総スルー。


 完全にバス内はカオスと化した。

 春来に捕まってむーむーしている叶恵。

 それを愛おしげに見つめて頭を撫で続ける春来。

 その光景にドン引きする井藤と王小路。

 逆に無言でガン見の氷雨に、井藤らと同じくドン引きの女子達と、氷雨同様にガン見の女子達。

 男子は全員色々とヤバいがここでは割愛。

 バスの運転手は女性だが、バックミラー越しにガン見である。


 そんな状態がさらに五分程経過した後、


「ふぅー、色々買えて良かっ………え゛」


 さらなる面倒事の予感である。

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