最終話:これからも、穏やかな日々を······

 ユニと遺跡を巡るあの事件から、しばらくの時が経った。


 フェノメナという新しい仲間が増え、私の日常はさらに彩り豊かになった。


「ふぁ······」


「おはようございます私のご主人様マイマスター。それでは私の目覚めのキ」


「抜け駆けは許しませんよフェノメナ」


「ちょっと二人ともー! ご主人様マスターの部屋で騒いだら駄目だよー!」


「まったくだ······」


「「む······」」


「だよねーご主人様? という訳で、ワタシと朝の挨拶のキ」


「それは」


「許しません」


「にゃあああーーー!」


 調子に乗ろうとしたフェリシアをファルシアとフェノメナが私から引き剥がし、ずるずると引きずっていった。


「ご主人様ーーー! たーすーけーてー!」


「抜け駆けしようとした妹にお説教するだけですのでご安心を」


「ほどほどにな······」


 まったく······。


 朝から元気な子たちだ······。






 ◆◆◆






「······という訳で、ここ数日で魔物の姿が見られなくなっています」


「となると、何処かの強力な魔物が森に移り棲んだのかもしれないな······」


「もう少ししたら原因を突き止められそうですので、そろそろ解決に向けて準備します」


「あぁ、よろしく頼む」




 私は今も、ギルドの特命職員として活動している。


 ギルドマスターであるバレンさん直々の様々な指示を受け、ひたすら街中を駆け回っている。


 時には街を離れ、森やダンジョン、さらには別の領地へ行く事もざらにあった。


 そういった《街を離れるような仕事》の時には、いつもアイビスと3人のフェルミドールの内1人を連れていくようにしている。


 留守番の2人には、家でユニの面倒を見てもらっている。機械人形が2人もいれば守りきれるだろうし、まだ幼いユニを各地に連れていくのも不安だ。


 そして、今回はアイビスとくじ引きで見事に当たりを引いたフェリシアが同行している。


「ふっふーん♪ 今日はワタシの番だー! 頑張るぞー♪」


「上機嫌だねフェリシア」


「当然だよ! ご主人様と一緒にいられるもんね♪」


 実のところ、彼女たちにくじ引きはほとんど意味を為さない。


 彼女たちの目には超優秀なセンサー類が搭載されていて、くじ1本1本のわずかな違いから簡単に当たりくじを引き当ててしまう。


 結局のところ、くじ引きはしているが実質ローテーション状態になっている。前回はファルシアだったので、今回はフェリシアがついてきている。きっと、次はフェノメナがついてくる事になるだろう。




「ついに見つけたぞ! あれが元凶だな!」


「GAOOOOOOOO!」


 森の奥で見つけたのは、中型サイズの虎の魔物だった。


 街の隣の森に虎はいない。つまり、虎をここに放った人間がいる可能性がある。


 だが、まずはあの虎の魔物を撃退する事からだ。


「GOOOOOOO···!」


「! 炎が来るぞ!」


 虎の魔物が大きく息を吸い込み始めた。


 これは炎のブレスを吐く為の予備動作だ。森の中で撃たせる訳にはいかない!


「私がいきます!」


「頼んだ!」


 アイビスが思いっきり地面を蹴り、虎の魔物へ瞬時に距離を詰めた。


「GAAAAAAAA!」


「させません!」


「GAAAAAAA······!」


 虎の魔物がゼロ距離でアイビス目掛けてブレスを吐いた。


 だが、アイビスがそのブレスを左手で次々と打ち消していった。これは魔力無効マジックキャンセラーという彼女の保有スキルによるものだ。


 その間に、私はすでに魔法を撃つ準備を整えていた。フェリシアによるサポートも万全だ。


「アイビス! 後退だ!」


「はい!」


 私の合図でアイビスがすぐさま後ろに飛び退いた。良い反応だ。


「魔力制御、出力3パーセントに設定!」


「食らえ! 《ウィンドカッター》!」


「GYAAAAAAA······」


 フェリシアによるサポート付きで放った初級魔法のウィンドカッターは、虎の魔物を容易く裁断した。


 ······だけでなく、周囲の木々も綺麗に切り刻まれていて、そこだけ綺麗な広場が出来上がっていた。


「······」


「ごめん、ご主人様! 3パーセントでも強過ぎたみたい!」


「······少しは耐久力の測定は出来ないのか? ファルシアとフェノメナはそこも上手く調整してくれるんだが······」


「ワタシはあの2人ほどの分析能力が無いからね······。でもでも、ちゃんと今のデータも解析しておくから、次こそは大丈夫だよ! 安心して!」


「······分かった」


 次に期待しておこう······。


 前回も同じ事言ってやらかしてたし、結果は目に見えてるけど。






 ◆◆◆






 ギルドへと戻り、バレンさんへと報告を済ませ、やっとの事で帰宅した頃には夕方になっていた。


「「「ただいまー」」」


「「おかえりなさいませ」」


「おかえり、なさい」


「ただいま、ユニ」


「···へへ」


 優しく頭を撫でると、ユニは照れたような表情で控えめに笑った。


 事件の後、アキナにユニの状態を改めて診てもらった。


 1週間かけてじっくりとユニの身体を診察した結果、まだ2〜3年は問題が無いとの事だった。


 とはいえ、限界が近くなっているのは事実だ。


 あと何年生きられるのかは分からないが、少なくとも3年は超えて欲しい。


 そして、少しでも長く生きて欲しい。


 今の私たちに出来る事は、ただ、ユニが笑顔で過ごせるようにする事だけだ。


 その為にも、なるべく時間を作らないといけないな······。


「あー! ユニちゃんだけずるーい! ご主人様、ワタシもワタシもー!」


「いやいや、私だって活躍したのにまだ頭撫でてもらってないですからー! ささ、師匠、お願いします!」


「最近頭を撫でていただいていないのは私も同じですが······」


「あーハイハイ、順番に撫でてあげるから喧嘩しないで······」


「ユニちゃん、騒がしいお姉さまたちは放っておいて、あっちでご飯でも食べましょうか」


「うん」


 フェノメナだけは騒ぎに参加せず、ユニの食事の為にリビングへと連れていっていた。確かに、これから繰り広げられる光景は幼い子どもに見せるのは少し気が引ける。


 空気が読める良い子である。




「ふわぁぁ······、幸せれふぅ······」


「うにゃ〜ん♪ ご主人様、もっと〜······」


「······」


 アイビスとフェリシアは、頭を撫で続けるうちにどんどん身も心も蕩けていっているようだ。


 ファルシアだけは無表情と無言を貫いているが、そっと身体を預けてきている辺り、相当癒されているようだ。


 ······こんな光景、ユニに見せなくて本当に良かった。


 下手したら我が家の黒歴史になりかねないからな。


「······ふふ」


 私は3人の頭を交互に優しく撫でながら、心の中で、そっと神様へ祈りを捧げた。




 どうかこれからも······。




 こんな穏やかな日々を、過ごせますように······。






 ―――Fin―――

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黄天の地 遅筆屋Con-Kon @Conkon02

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