Episodio 2 グレゴリオ暦への改暦と準管区長の暴挙(Ohzaka)
1
こうして御昇天の祝日、そして六月に入ってからの聖体の主日も無事に終え、今年もまた盛大な行進が行われた。
その後で梅雨の時期に入った。昨年は梅雨とはいってもほとんど雨はなく、また年間通して極端に雨が少なかったが、今年は通常通り順調に雨の日は続いた。農作物、とりわけこの国では米にとってまさしく恵みの雨であったに違いない。
そして六月も中旬を過ぎると、ダリオによってまた情報がもたらされた。
ついに羽柴殿は四国の長宗我部殿を討つべく、軍隊を動かし始めたという。
ただ、詳しいことは分からない。ジュストも戦争に関する機密事項を、たとえ親であろうともダリオにそう簡単に事前に何もかも語るはずはない。
ただ、やはりこの国に完全な平和が訪れるのはもう少し先だろうと、我われは日常の祈りの中でさらにこの国の平和と福音宣教について祈っていた。
そんな時、我われはまた大坂のオルガンティーノ師から招集がかかった。
我われは後のことを修道士たちに任せ、フルラネッティ師、フランチェスコ師、そして私のイタリア三司祭は淀川を船で大坂へと向かった。
大坂に着いてまず驚いたのは、まだ淀川の船の上にいる時から行く手に巨大な建造物が見えてきたことだ。あの安土の城の天主閣よりも大きな建物を、私はこの国で久々に見た。
まだ足場に包まれて建築中なのでどのような建物かは分からなかったが位置的に大坂城の中だし、あれほど巨大な建物なので、間違いなくあれが大坂城の天守閣になるのだろうと思われた。
教会ではフィゲイレド師を送って豊前に行っていたパシオ師が戻ってきていた。モレイラ師は豊後の布教区長のゴメス師の命で府内に留め置かれ、府内の
去年もこうししてオルガンティーノ師の招集があったが、堺を別とすればやはりいちばん近い高槻の我われ三司祭が最初に到着する。
教会の広間でその私を含めた三司祭とオルガンティーノ師、セスペデス師、そしてパシオ師は円座になって座っていた。
「
パシオ師とは旧知の仲である私が、まずそう聞いてみた。セスペデス師もいるので、ポルトガル語でだ。
「二、三日前に堺に着いて、昨日大坂に来ましたよ。豊後の佐賀関を出港したのが七月六日の土曜日でした」
「え? ちょっと待ってください。今日って七月七日ですよね。しかも、今日は水曜日ですよ」
傍で聞いていたオルガンティーノ師は、なんだか含み笑いをしている。
「まあ、その日付の話は、あとで全員がそろった時にすることにしよう」
オルガンティーノ師は何か知っているようだったが、私は不思議でならなかった。いくらなんでも一日で豊後から大坂に着くわけがない。少なくとも六月の下旬には、パシオ師は豊後を出発しているはずである。
私は隣にいたフランチェスコ師の顔を見たが。彼も黙って首をかしげていた。フルラネッティ師も知らないようだった。
「とにかく、私は十二日には
「ちょっと待ってください。十二日って、七月十二日?」
「はい」
いぶかしげな私の問いに、パシオ師は涼しい顔で答える。十二日といったら六日後である。未来である。それなのにパシオ師は、過去形で話した。
そのことについては後で話があるようなので、私は塩飽という地名を記憶の中から蘇らせていた。
瀬戸内海に浮かぶ島だけれど海運の要所で、かつてはそこに
「でもそこにはドン・アゴスティーノが手紙を送っていて、私どもはむしろ歓迎されました」
初めて塩飽を通過した時はヴァリニャーノ師とともに、ただただ恐れていた
「たしかその島には、ジュアンという
「はい。でもそれだけでなく、ドン・アゴスティーノの家来の
羽柴殿と四国の長宗我部殿との戦争も、いよいよ話が具体化してきてしまっている。かつて明智殿がなんとか回避させたいと願っていた戦争である。それが、ついに起こってしまうようだ。
「その家来の方は、ドン・アゴスティーノに会いたいならば船で送るというので、私はその言葉に甘えました。ドン・アゴスティーノは塩飽から
息もつかず、パシオ師は一気にしゃべった。日比や牛窓は私は行ったことがないが、瀬戸内の海の様子はよく知っているので容易に想像できた。
「牛窓はきれいな港でした。何となくローマのような感じがして、海はまるでエーゲ海のようでしたよ」
パシオ師は少し笑った。私は瀬戸内はよく知っているが、逆にエーゲ海は知らない。
「そこからドン・アゴスティーノの本拠地の室津に行って、室津からは足の速い船を提供してくれたので一気に堺に着きました」
「やはり、羽柴様は四国と戦争を?」
フランチェスコ師が聞いた。
「はい。すでに羽柴様はその軍勢とともに、先週の金曜日に堺を通過して南に向かったと、堺の日比屋ディオゴも言っていました。でも、羽柴様はどうも実際には自分で四国へは行かず、岸和田の城で指揮するだけで、総大将として四国に渡るのは羽柴殿の弟の羽柴美濃守様だそうです」
ちょうどその時、都のカリオン師が到着した。
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