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この年の
ジュストは昨年以来ずっと大坂に新築した屋敷に住んでいて、毎日大坂城に出仕しては羽柴殿の身近に仕えているということだった。
そんなジュストが四旬節に入ると、ひょっこりとり自らの領地の高槻に戻ってきた。
「やはり聖なる期間ですから、自らの居城でもある高槻で主の御苦難をしのびたいと思い、暇を頂いてきました」
戻るとすぐに教会を訪れて来たジュストは、我われにそのように話していた。
我われの間では、ジュストが
ただこの分だと、このまま高槻にいてくれそうだ。。去年は出陣中で
「もちろん、こちらで過ごします」
はっきりとジュストは言ったので、我われも安心した。
四旬節の真っ最中に、例年通り高槻の城は満開の桜の花に埋もれた。
そんな桜もすっかり散って、桜の木々にも花の代わりにも緑の葉が生い茂るようになり、
そんな頃、夕刻であるにもかかわらず、ジュストが教会を訪ねてきた。何だか重要な話があるとのことで、私も
「非常に残念なことでありますが、今年も
ジュストは悲痛な顔つきだった。
その語るところによるとこの日突然、大坂の羽柴殿よりジュストに出陣命令が下ったというのだ。
「とにかく兵を率いてまずは都まで進軍せよとのことでございます」
「どういうことですか?」
フルラネッティ師の問いに対して、ジュストが語った内容は以下の通りだった。
信長殿の次男であり、三七殿の同じ歳の兄で、かつて
すでに早くから御本所殿は織田家の家督は三法師殿が継ぐという清洲での会議の決定事項を無視して、実質上織田家の相続人として振る舞っていた。そして徳川殿もそのように御本所殿と接していた。
そしてその御本所殿が羽柴殿と内通していた三人の
さらには織田家の重臣の池殿が羽柴殿の側に寝返って
そして羽柴側に着いている森という殿、あの信長殿の側近であった森乱丸の父だが、その殿と徳川殿との間ですでに戦争は始まっており、森殿は討ち死にしたということだった。
「羽柴様は今月の二十一日にも大坂を出陣して、御本所様討伐の軍を伊勢へと推し進めるようです。もちろん、このことは他言無用でお願いします」
我われは他言しようにもできない。
「それで、羽柴殿の出陣の先鋒隊を私が命じられたということでしょう」
「いかに
ジュストはそれまで伏せていた顔を上げて、フルラネッティ師を見た。
「三日後です」
この日は水曜日だったので三日後といえば土曜日、つまり枝の主日の前日だ。
「分かりました。ジュストも無事に戻れるように、我われで祈りましょう」
フルラネッティ師は優しく言ってから、ジュストを励ますように微笑んだ。
そうしてジュストは軍勢をひきつれて、高槻をあとにした。その軍勢も高槻の領民であり、そのほとんどが
結局、ジュストは今年も聖週間や
ただ、今年は土曜日深夜の復活徹夜祭の間中大風が吹いており、翌日の
今年になってから雨が降った日など数えるほどしかなかったのに、よりによって
思えば三年前、私が初めて日本に来て迎えた
それを考えると、今昔の感があった。
さらに、この三年で日本国内の情勢も大いに変わった。日本はこんなにもころころと情勢が変わる国なのか、あるいはちょうど時代の変わり目に私はこの国に来てしまったのか、まだよく分からない。
そうして、
二、三日たって、羽柴殿が大坂を出陣する日を迎えた。大軍は高槻の城には寄らなかったが、すぐそばの川沿いの街道を進んでいったようだ。
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