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こうして大村でのナターレ気分を満喫した我われは、翌日もう一度城内でドン・バルトロメウに挨拶をし、早速に長崎へと帰還することとなった。その日の朝、城に向かう前に我われ司祭全員は、司祭館の一室に集められた。
「実は急な思いつきで申し訳ないのですが」
と、前置きしてから、ヴァリニャーノ師は話し始めた。
「こちらの殿のドン・バルトロメウは、自分の目でローマを見、教皇様にも拝謁したいものだと言われていた。だからといって、もちろん領主である殿をローマに連れていくことは不可能です。そこで」
そこでヴァリニャーノ師は一息入れた。
「そこで、殿の代理人を使節としてローマに派遣してもらう、それを私がローマまで連れて行くということを思い立ったのです」
「おお」
その場の誰もが歓声を上げた。日本人をローマに連れていくなど、誰もが思いもよらないことだった。しかもただ日本人を連れていくということのみにとどまらず、正式な領主の使節として同行してもらうというのである。
「本当ならば皇帝たる
「具体的には誰をです?」
と、メシア師が尋ねた。ここでメシア師が質問をするということは、ヴァリニャーノ師はその側近中の側近ともいえるメシア師にさえこの場で初めてその意中を打ち明けたということになる。
「それはこれから殿にお会いしてから相談することにしましょう」
と、ヴァリニャーノ師は言った。
城では、ヴァリニャーノ師は早速このことを持ち出した。ドン・バルトロメウは顔が崩れんばかりに喜び、
「願ってもなかこつ。よろしく頼みます」
と、何度も頭を下げていた。
「それで、
ヴァリニャーノ師にそう言われて、ドン・バルトロメウは少し考えていた。
「
「普通に行けば半年くらいですが、おそらく船の関係で途中何箇所か停泊しますのでもっとかかります。私が来る時は二年かかりました」
「そぎゃん時間かかっとでしょ。じゃけん、あまり年寄りを遣わしたら行って帰ってくるまでに寿命が尽きたらいけん。じゃけん、若かもんがよか。そうだ。有馬におる甥っ子の紀員がよか。わしの甥じゃけん、それに若か」
あの聡明そうな少年ならと、聞いていた私も思っていた。今は少年であるくらいが、行って帰ってきた頃には立派な働き盛りの若者になっていよう。
「では、そのように本人にも聞いてみます。親御さんは?」
「あの子の父親はすでに
それならば話は早い。
「あと、もうひとつ」
と、ドン・バルトロメウは言った。
「余の名代というだけでなく、やはり甥の有馬の十郎の名代ということにもしてくれませんかね」
有馬の十郎とは有馬の殿、ドン・プロタジオのことらしい。
「紀員はあの子にとっては
それも都合がいい。
「さらには」
ドン・バルトロメウはまだ何かを言いたそうだ。
「紀員が正使ならば、副使もいるじゃろ。やはり今有馬の
「そのように取り計らいます」
そう言って頭を下げるヴァリニャーノ師は、どこか嬉しそうだった。それにも増して、ドン・バルトロメウはにこにこ顔だった。
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