やっぱりやりましょうか 2/2

 確かに僕は「式を挙げる」と決めた。

 メルノの意向を確認すると、恥ずかしそうにしつつも満更ではない様子だった。


 だから、挙式自体は問題ない。


 最初に相談したのが王族夫婦というのが失敗だったのだ。




 リオハイル王国には、世界最大規模の教会がある。

 王族の結婚式は必ずここで執り行われるという、由緒正しい教会だ。


 その教会の控室で、僕はリオハイル王国から派遣された侍女さん達によって、正装を着付けられていた。

 別の控室ではメルノも同じように着付けてもらっている。




 三ヶ月前に遡る。


 オーカとイーシオンに相談し、結婚式を挙げてしまえとなってからは、怒涛の展開だった。


 僕はトイサーチの教会でやるつもりだったから、フィオナさんに連絡しようとした。

 止めたのはオーカだ。

「片田舎で式を挙げてどうするの。トイサーチは貴方目当ての人で出入りが多いところよ。もっと大勢の人に見せないと」

「えっ、でも」

「もしもしリオハイル王? ジュノ国のオーカと申します。アルハの結婚式の件でご相談が」

「オーカ!?」

 オーカがいつの間にか持っていたリオハイル直通の通信石を奪い取ろうとしたら、イーシオンに防がれた。

「アルハ、久しぶりに勝負しようよ!」

「それどころじゃないでしょ!? ちょ、ヴェイグ! どうして今身体取ろうとするの!?」

「はい、ええ……わかりました。ではそう伝えます。またご連絡いたします」

「あああああ!」

 ヴェイグの妨害を牽制しつつイーシオンを久しぶりに逆さ吊りにしている間に、オーカが何かしら話をつけてしまった。

「リオハイル王、何だって?」

 逆さ吊りのままのイーシオンが平気な顔でオーカに問いかける。

「三ヶ月あれば整うそうよ」

 王族夫婦の連携プレイで、僕は既に逃げ場を失っていた。



 よろよろと帰宅し、メルノに事の次第を報告した。

「私、そんな……いいのですか?」

「遠慮しなくていいって言われたよ」

 このときの僕はプチ混乱状態だった。「メルノが嫌なら嫌と言っていいよ」とでも言っておけば、メルノにも選択肢があったのに。

「わかりました」

 メルノは頬を赤く染めて、はにかんだ。かわいい。




 僕らの衣装は、今回は外注した。メルノでも十分作れただろうけど、専門のプロに任せることにした。

 招待客はいつのまにか各国の王様クラスが集まることになっていて、送迎はイーシオンが全て引き受けてくれた。

 飛行船の魔力の供給だけやらせてもらった。


 教会で式を挙げて、お披露目はリオハイル城下町のメインストリートと広場を馬車でぐるりと一周。町の人がたくさん見に来る予定だから、その時にメルノの顔を広く覚えてもらおうという魂胆だ。

 ……って、これほぼオーカとイーシオンのときの式と同じ流れじゃないか。

「ねえ、聞いてた規模より大きくなってない?」

「そう?」

 すっとぼけたオーカにジト目を送る。だけどオーカは動じない。

「メルノを守りたいのでしょう?」

 大義名分を掲げられてしまっては、僕は手も足も出ない。




 準備の殆どをオーカ達とリオハイル国の方がやってくれたおかげで、衣装合わせに呼ばれた以外はいつも通り過ごせた三ヶ月だった。

 僕が恐縮すると、皆口を揃えて、

「アルハには冒険者としての仕事がある」

「これまでの礼だ」

 などと仰る。


 そして今日に至った。

 招待客に挨拶を済ませて、時間まで控室に篭る。

 メルノの衣装に関しては、デザイン画すら見せてもらっていない。

「当日のお楽しみです」

 僕が衣装のことを尋ねると、一枚噛んでいるフィオナさんが淑女らしからぬニヤニヤ笑いを浮かべていた。


 時間になり、呼ばれて大聖堂の扉の前に向かうと、廊下の反対側からメルノがやってきた。

 顔はヴェールに隠れて、殆ど見えない。

 ドレスは、肩が大きく開いていて、スカート部分がふんわりしている。後で聞いたらハートカットビスチェにベルラインという名前がついた形だそうだ。


 綺麗でよく似合うのだけど、メルノの白い肌が惜しげもなく晒されていて、できればこのままどこかに隠しておきたい。


「あの……?」

 メルノが上目遣いに僕を見上げる。僕としたことが、衝撃であまりよくない事を考えて無言だった。

「見惚れてた」

 そして口から吐いて出た言葉がこれだ。

「ありがとうございます……」

 消え入りそうな声の返事。いつも慎ましいメルノが、今日は輪をかけて儚い。

 大丈夫かな、このまま消えたりしないかな。

「アルハ殿、花嫁様のお手を」

 後ろから声をかけてくれたのは、式で僕たちをサポートしてくれているセネルさんだ。

 慌てて、メルノに手を差し出す。


 乗せてくれたメルノの手をひいて、扉が開くのを待った。







 このあとは、公衆の面前で口づけとか、広場を一周のはずが街中パレード状態になったりとか、色々とキャパオーバーになって記憶が曖昧です。

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